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第三章 異世界だけど、現実的です
52.中州の野伏:夜襲
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その夜、ある野伏の頭領は配下の者数人と無数の狼をカヴァロに向かわせた。
カヴァロは多くの荷馬車屋が拠点を置いているが、昨今、彼等の運ぶ荷物には東大陸から不正に帝都へと向かう物が少なくない。それは東大陸が帝都に向かう荷物の値を吊り上げている事に起因しているが、その吊り上げを誘発したのは他ならぬ帝都政権である。
野伏達は標的となった荷馬車屋へと狼達を仕向け、不正取引の証拠となる帳簿を強奪させ、彼等自身も敗れる金庫を破って帳簿を強奪する。彼等は人馬に被害を与える振る舞いこそしなかったが、打ち壊しの騒音から騒動が拡大し、憲兵が動き始めた。しかし、憲兵が行動を始めた頃には狼達が方々へと走り去り、憲兵の追跡は混迷を極めた。
ところが、突如として状況が変わる。
街の北部から現れた謎の集団が大通りを駆け抜け、強奪と殺戮を繰り広げたのだ。その集団は人馬に危害を加えなかった野伏とは異なり、目の前を遮る生物という生物を尽くに殺戮した。その中には混乱に建物を飛び出し逃げ惑っていた市民や憲兵、打ち壊しに及んだ悪漢のはずの野伏と狼、果ては野良猫や野犬、鼠や蝙蝠までが含まれ、ありとあらゆる死体が大通りに散乱した。
日中、メテオーロから書類を強奪した男も帳簿の強奪に加わっていたが、彼は絹の紐を巻き付けた杖を黒い血に染めて突然の殺戮を乗り切り、暴虐の嵐が過ぎ去った大通りへと出た。
一見すると倒れ伏す者は皆息絶えている様にも見えたが、その中に息の有る仲間を見つけ、男は彼を路地へと引き摺り込む。
『大丈夫か、シコン』
『分からん。多少殴られただけだが……斜面を駆け上がるよりも体力を奪われた様な気分だ』
シコンは若い野伏で、エルフの混血者である。
『ってぇ……帷子の上から斬り付けられたとはいえ、こんなに痛むものか? あいつら、馬鹿力にも程が有るぜ』
『動けるか』
『まあな』
シコンは痛む体を起こす。
『斬られては無いな』
『あぁ。ただのオークで命拾いしたぜ』
『憲兵の増員が間もなくこちらに到着する、早く逃げろ』
男は連れてきた狼をシコンに近付かせる。
『いいのか? お前が逃げ遅れるぞ』
『俺は平気だ。何の手当も出来ないが、せめて野営地まで戻ってくれ』
『……すまない』
シコンは男の狼に跨り、狼に任せて走り出す。
男は憲兵の姿が無い事を確かめながら、シコンとは反対方向へと走った。
カヴァロは多くの荷馬車屋が拠点を置いているが、昨今、彼等の運ぶ荷物には東大陸から不正に帝都へと向かう物が少なくない。それは東大陸が帝都に向かう荷物の値を吊り上げている事に起因しているが、その吊り上げを誘発したのは他ならぬ帝都政権である。
野伏達は標的となった荷馬車屋へと狼達を仕向け、不正取引の証拠となる帳簿を強奪させ、彼等自身も敗れる金庫を破って帳簿を強奪する。彼等は人馬に被害を与える振る舞いこそしなかったが、打ち壊しの騒音から騒動が拡大し、憲兵が動き始めた。しかし、憲兵が行動を始めた頃には狼達が方々へと走り去り、憲兵の追跡は混迷を極めた。
ところが、突如として状況が変わる。
街の北部から現れた謎の集団が大通りを駆け抜け、強奪と殺戮を繰り広げたのだ。その集団は人馬に危害を加えなかった野伏とは異なり、目の前を遮る生物という生物を尽くに殺戮した。その中には混乱に建物を飛び出し逃げ惑っていた市民や憲兵、打ち壊しに及んだ悪漢のはずの野伏と狼、果ては野良猫や野犬、鼠や蝙蝠までが含まれ、ありとあらゆる死体が大通りに散乱した。
日中、メテオーロから書類を強奪した男も帳簿の強奪に加わっていたが、彼は絹の紐を巻き付けた杖を黒い血に染めて突然の殺戮を乗り切り、暴虐の嵐が過ぎ去った大通りへと出た。
一見すると倒れ伏す者は皆息絶えている様にも見えたが、その中に息の有る仲間を見つけ、男は彼を路地へと引き摺り込む。
『大丈夫か、シコン』
『分からん。多少殴られただけだが……斜面を駆け上がるよりも体力を奪われた様な気分だ』
シコンは若い野伏で、エルフの混血者である。
『ってぇ……帷子の上から斬り付けられたとはいえ、こんなに痛むものか? あいつら、馬鹿力にも程が有るぜ』
『動けるか』
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『いいのか? お前が逃げ遅れるぞ』
『俺は平気だ。何の手当も出来ないが、せめて野営地まで戻ってくれ』
『……すまない』
シコンは男の狼に跨り、狼に任せて走り出す。
男は憲兵の姿が無い事を確かめながら、シコンとは反対方向へと走った。
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