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第二章 成り行き任せ、異世界ライフ
50.第二都市・シダージ:歌姫工房にて
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魔獣退治ギルドの一行が都市の端にある村へと向かった頃、吸血鬼の男は街に出ていた。向かう先は昨日出会った人物がいるという建物だった。
その建物は市街地の一角にあり、中では自動打鍵を応用した電光掲示の為の記録盤が作られている。
「ごめんください」
男が呼び鈴を鳴らすと、若い男が一人出てきた。
「わたくしはカリキの魔獣退治ギルドの者です。こちらにイロハという女性の方はおられますか」
「イロハさん……あー、打ち込み助手の方ですね」
若い男は困惑した表情で答えた。
「カリキの魔獣退治屋が訪ねて来たと伝えて頂けますか」
「いや、中に入っていただいて構いません。ご案内します」
「そうですか」
男は案内されるまま、建物の四階へと進んだ。
「イロハさーん、お客さんですー」
若い男は扉を開ける。その先に有ったのは、無数の小さな蓄音盤を同時に再生する特殊な蓄音機と、それを自動で動かす為のパンチカードを作る机だった。
「あ……」
「イロハさん、この人と知り合いですか?」
「えぇ、昨日お世話になったの。ありがとう、モーヴ」
若い男は階段を下り、男は後ろ手に扉を閉めた。
「てっきり、あなたが小間使いかと思いました」
「失礼ね」
「それで、これは何を?」
「歌姫要らずの歌を作ってるのよ……楽譜が読めないと仕事にならない、パンチカードが作れないと仕事にならない、どっちも出来るから手伝えって言われたの」
「此処の社長とはお知合いですか?」
「遠縁の親戚よ、じゃなきゃこんな事しないわ。それこそ、作ってみると不自然になるから何度も手直ししなきゃいけなくて、書き損じよろしく作り損じの紙がこの有様……紙漉き屋が苦笑いしてたわ」
イロハは足元の箱を蹴った。その中には、やや厚めの紙が詰め込まれている。
「それにしても……こんなに多くのレコードを一気に再生する機械は初めて見ました」
「一枚ひとつの音がそれぞれ入っているのよ。パンチカードがどれをどの長さ流すかを指示するようになってるわ。それと同時に、再生速度を変えられるから、それで音の高さが少し変えられる……究極のオートマタよ」
男は大仰な再生装置を見遣る。
「それで、改めて話したい事って何かしら」
「単刀直入にお話します……あなたは指輪をお持ちですよね」
イロハは凍り付いたように表情の無い顔で男を見る。
『私はリヴァーニ、北方吸血鬼の誉れ高き長の末裔です』
『吸血鬼の末裔……魔王の眷属か』
イロハを試す様に発せられた男のエルフ語に、イロハはさも当たり前の様に同じ言葉で返す。
『如何にも。私は今、人間により奪われた魔王の王冠を探しています。そしてあなたの持つその指輪は、魔王の指輪、何故あなたが持っているのかを知りたい』
『何故我が家にこれが有るのかを私は知らない。ただ、私は婚約を反故にされ、家を放逐される折、まるで呪いを着せられる様にこれを持たされた。それ以外には何も無く、貯えをもってこの大陸に渡り、此処に来た』
男は眉を顰めた。
『私は東の西国のカイヤグラの一族、シラヌイのサンシの娘イロハよ』
『カイヤグラのシラヌイ……西大陸と東大陸の血を引いた魔族ですね』
『如何にも』
『その恐ろしい宝具が身元の不確かな人間に渡っていなかった事には安堵しました。しかし、それはあなたに災厄をもたらしてはいないでしょうか。例えば、昨日の賊の様に』
イロハは眉根を寄せる。
『私は今、魔獣を退治する仕事をしています。その中には、その宝具と対をなす腕輪を持った西のエルフも居ます』
イロハは首を傾げて見せる。
『力を貸していただけませんか。あなただって、何か割のいい仕事を探しているのではないのですか?』
『それはそうだけど、私を魔獣の退治に連れ出して、何かいい事が有る?』
『我々には魔法を使う者が居りません。あなたはあなたで、此処の居心地がいいわけでは無いのでしょう』
『それはそうね』
「……もし興味が有るというなら、西地区三番通りの宿、ジスカンソーに来て下さい。その時は三階六号室のティポタスと」
「分かった」
「では」
男は階段を下りてゆく。その足音を聞きながらイロハは思案した。
魔獣退治で名を上げるのも悪くない、と。
その建物は市街地の一角にあり、中では自動打鍵を応用した電光掲示の為の記録盤が作られている。
「ごめんください」
男が呼び鈴を鳴らすと、若い男が一人出てきた。
「わたくしはカリキの魔獣退治ギルドの者です。こちらにイロハという女性の方はおられますか」
「イロハさん……あー、打ち込み助手の方ですね」
若い男は困惑した表情で答えた。
「カリキの魔獣退治屋が訪ねて来たと伝えて頂けますか」
「いや、中に入っていただいて構いません。ご案内します」
「そうですか」
男は案内されるまま、建物の四階へと進んだ。
「イロハさーん、お客さんですー」
若い男は扉を開ける。その先に有ったのは、無数の小さな蓄音盤を同時に再生する特殊な蓄音機と、それを自動で動かす為のパンチカードを作る机だった。
「あ……」
「イロハさん、この人と知り合いですか?」
「えぇ、昨日お世話になったの。ありがとう、モーヴ」
若い男は階段を下り、男は後ろ手に扉を閉めた。
「てっきり、あなたが小間使いかと思いました」
「失礼ね」
「それで、これは何を?」
「歌姫要らずの歌を作ってるのよ……楽譜が読めないと仕事にならない、パンチカードが作れないと仕事にならない、どっちも出来るから手伝えって言われたの」
「此処の社長とはお知合いですか?」
「遠縁の親戚よ、じゃなきゃこんな事しないわ。それこそ、作ってみると不自然になるから何度も手直ししなきゃいけなくて、書き損じよろしく作り損じの紙がこの有様……紙漉き屋が苦笑いしてたわ」
イロハは足元の箱を蹴った。その中には、やや厚めの紙が詰め込まれている。
「それにしても……こんなに多くのレコードを一気に再生する機械は初めて見ました」
「一枚ひとつの音がそれぞれ入っているのよ。パンチカードがどれをどの長さ流すかを指示するようになってるわ。それと同時に、再生速度を変えられるから、それで音の高さが少し変えられる……究極のオートマタよ」
男は大仰な再生装置を見遣る。
「それで、改めて話したい事って何かしら」
「単刀直入にお話します……あなたは指輪をお持ちですよね」
イロハは凍り付いたように表情の無い顔で男を見る。
『私はリヴァーニ、北方吸血鬼の誉れ高き長の末裔です』
『吸血鬼の末裔……魔王の眷属か』
イロハを試す様に発せられた男のエルフ語に、イロハはさも当たり前の様に同じ言葉で返す。
『如何にも。私は今、人間により奪われた魔王の王冠を探しています。そしてあなたの持つその指輪は、魔王の指輪、何故あなたが持っているのかを知りたい』
『何故我が家にこれが有るのかを私は知らない。ただ、私は婚約を反故にされ、家を放逐される折、まるで呪いを着せられる様にこれを持たされた。それ以外には何も無く、貯えをもってこの大陸に渡り、此処に来た』
男は眉を顰めた。
『私は東の西国のカイヤグラの一族、シラヌイのサンシの娘イロハよ』
『カイヤグラのシラヌイ……西大陸と東大陸の血を引いた魔族ですね』
『如何にも』
『その恐ろしい宝具が身元の不確かな人間に渡っていなかった事には安堵しました。しかし、それはあなたに災厄をもたらしてはいないでしょうか。例えば、昨日の賊の様に』
イロハは眉根を寄せる。
『私は今、魔獣を退治する仕事をしています。その中には、その宝具と対をなす腕輪を持った西のエルフも居ます』
イロハは首を傾げて見せる。
『力を貸していただけませんか。あなただって、何か割のいい仕事を探しているのではないのですか?』
『それはそうだけど、私を魔獣の退治に連れ出して、何かいい事が有る?』
『我々には魔法を使う者が居りません。あなたはあなたで、此処の居心地がいいわけでは無いのでしょう』
『それはそうね』
「……もし興味が有るというなら、西地区三番通りの宿、ジスカンソーに来て下さい。その時は三階六号室のティポタスと」
「分かった」
「では」
男は階段を下りてゆく。その足音を聞きながらイロハは思案した。
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