三度目の衝撃 ―元社畜が破天荒ギルドに転生した理由―

詩方夢那

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第二章 成り行き任せ、異世界ライフ

49.第二都市・シダージ:初めての魔獣退治

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 メテオーロが出会った老人が暮らしている村は第二都市・シダージの北西の端にある村で、大陸北部からもたらされる金属資源や帝都、あるいは東大陸からもたらされるさまざまな物資を加工し、主に大陸西方に販売する職人と農民が暮らしている。
 メテオーロは鋏職人の老人を探し、老人と共に村長に面談した。そこで村長が語ったのは、通常の獣の被害とは思えない畑への被害や建物の損害が発生して村人が困っているという事だった。しかし、村は小さくとも魔獣退治屋は四人のみで全体に対する駆除や忌避措置には時間も費用も必要である事をメテオーロは説明し、村長は特に被害が多い北側の出入り口周辺での駆除と忌避措置を依頼した。
 一行は有志の村人に下草の刈り取りを依頼し、魔獣の痕跡や巣穴のありかを捜索する事となった。
「おそらく大型の鼠かアナグマの様な大きさだろう。足跡よりは糞や抜け毛を探してくれ」
 メテオーロの指示に三人はそれぞれ巣穴の有りそうな茂みや、隠れ場所になりそうな木の根元を探った。
「見つけたぞ」
 最初に声を上げたのはジーナだった。
「どうする」
 問われたメテオーロはアナスタシアを見た。すると、アナスタシアは腰のポーチから拳銃を取り出した。それは信号砲では無く、明らかな殺意を持った拳銃だった。
「仕留め損ねた分は撃ってくれ」
「了解」
 拳銃の所持が違法だった世界を生きていたオルドは声も出ないほど驚き、身を固くする。
「いくぞ」
 メテオーロとジーナは呼吸を合わせ、それぞれの長物の石突を月を巣穴と思しき穴に突き刺した。
 鈍い音共に、断末魔のような短い獣の悲鳴が上がる。
「やったな」
 ジーナは素早くしゃがみ、巣穴に手を入れた。
「おい」
「平気だ。こいつだろ?」
 ジーナは動かなくなったイタチの様な生き物を巣穴から引き出した。
「小さいのは居ない。これだけだな」
 一見するとただのイタチだった。だが、脱力した四本の足に見える爪はやけに鋭く、口から除く歯は齧歯類のそれよりははるかに鋭い。
「被害の規模からしてまだいるだろう。まずは外側になる西側へ進むぞ」
「おい、こいつはどうする?」
「向こうの空き地に置いておこう。オルド、結界の張り方は覚えてるだろ?」
「はい!」
 メテオーロの視線の先に居たオルドは張り切って返答する。
「それじゃあ、それを持って行ってくれ」
「あ、はい……」
 オルドは別の世界でも獣の死体に触れるような生活をしておらず困惑するが、ジーナが突き出す腕からイタチの死骸を取り上げる以外に選択肢は無かった。
「頼んだぞ」
 言って、メテオーロは二人を連れて次の区画へと向かう。オルドはまだ暖かく柔らかいイタチの死体の尻尾を掴み、空地へと向かった。空き地には刈り取られた下草の一部が積まれているが、殆どは使われていない。
 オルドは何も無い地面にイタチの死骸を下ろし、腰のポーチから結界を構成する材料を取り出す。結界の作り方は簡単で、細い麻紐で魔方陣の中心となる星を形成し、その紐を魔術師が描いた魔法円の描かれた重しで止めるだけである。しかし、小規模な魔方陣は四方に形成しなくてはならず時間がかかる。
(もっと役に立ちたいけど……チートとか、無いし)
 オルドは自分が無力である事がもどかしかったが、彼が魔方陣を作り終える頃、次の個体を仕留めて現れたジーナを羨望の眼差しで見上げる事しか出来ない。
 結界を形成して一向に合流しても、オルドに出来るのは痕跡を探す事だけで、彼は遂に巣穴を見つける事も無いまま、その日の仕事を終える事になった。
「忌避剤の中身は薬草と硫黄……おそらく、東大陸で用いられている入浴剤を応用して、お香の要領で炊けば効果が出るでしょう」
 一通りの駆除を終えると、メテオーロは村長に簡単な忌避剤の使い方を教え、狩猟経験のある村人はジーナと共にイタチの皮を剥いだ。
「それと、魔獣は魔獣を寄せ付ける性質があるので、毛皮の肉は慎重に取り除き、洗う時には必ずローズマリーの精油か、乾いた物を煮出した汁を洗い水に入れて下さい。それから、残った肉は食用にせず、火にくべて焼いてから埋める様にして下さい」
「分かりました。肉が取れないのは、残念ですが……」
「一応魔獣ですから、人間の食用には向きません」
「そうですか……」
 村長は肉が手に入らない事を重ねて残念がりながら、妻にローズマリーの葉を煮出すようにと言いつける。そして金庫から幾らかの銭を取り出した。
「日当はおひとりにつき銅銅銭五枚、全部で二十枚で間違いはないですかな」
「はい」
 メテオーロは空の小銭入れに二十枚の銅銭を収め、領収証に署名をする。
(あの毛皮なら……一匹で銅銭一枚にゃなるだろう)
 一行が街へ戻る人力車に乗ったのは、日が暮れる少し前の事だった。
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