三度目の衝撃 ―元社畜が破天荒ギルドに転生した理由―

詩方夢那

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第二章 成り行き任せ、異世界ライフ

48.第二都市・シダージ:大都市の人力車

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 翌朝、メテオーロ達四人は都市の北西の端にある集落に向かうべく馬車を待っていた。
「吸血鬼の彼は来ないの?」
「別件で用が出来たんだ。とはいえ、お前さんが居てくれれば大体の仕事は出来るよ」
 ギルド従業員が集団行動を外れて単独で動く事にアナスタシアは不信感を覚え、オルドもまた勝手な行動は慎むべきだと憤りを覚えていた。
「え……馬車じゃないの?」
 一行が馬車乗り場だと並んでいた停留所にやってきたのはトリビュローだった。
「なぁ、此処、馬車は来ないのか?」
 メテオーロは運転手に尋ねた。
「馬車なら予約便だけだよ。今は馬の餌代も馬鹿にならんからね、こいつで走るのさ。どうする?」
「四人居るが大丈夫か?」
「構わん、乗りな」
 一行は戸惑いながらも客車に乗り込んだ。
「満員御礼ー」
 運転手は停留所の鐘を鳴らし、力強く車輪を漕ぎ始める。
 一行を乗せたトリビュローはオルドが乗ったそれよりは幾分大きな物だったが、小さな力でも日除けの幌が付いただけの簡素な客車に四人を乗せて走るだけの動力が出せる特殊な車体だった。
「すごいわ、三輪車トリビュローでもこんなに走れるのね。一体、誰が設計したのかしら」
 アナスタシアはカリキには無いトリビュローの性能に感心する。すると、笛の根が聞こえて車体の速度が落ちる。
「これは……交通整理か? いや、信号だな」
 メテオーロの言葉にオルドは前方を見遣った。其処には憲兵とは別の制服を着た警備員が立っており、往来する車両に減速や発車を指示している。だが、その頭上には標識の様な物があり、それが進行の合図を告げる信号機である事を理解する。
「凄い、ちゃんと信号も整備されてるんだ……」
 オルドが感嘆の声を上げた隣で、アナスタシアが何かを見つけた。
「あら、あれ、もしかして歩道橋?」
「そうみたいだな。まさか、帝都以外で見る事になるとは……」
 メテオーロは建設途中の歩道橋を見遣り、オルドと同じく感嘆の声を上げる。
「あの、歩道橋ってそんなに珍しいんですか?」
「わざわざ川でもない所に橋をかけるなんて帝都の大通りくらいよ? それなのに……なんでこんな小さな町に出来るのかしら。人の多さで言えば、カリキの方がよほど多いはずなのに」
 一行を乗せた車両は再び速度を上げながら進み、やがて信号のない狭い道へと入る。
「どうもこの影響らしいな……この道は馬車の侵入が禁止されてる」
 馬車の通行を禁ずる標識を目にしたメテオーロは、トリビュローによる人力車が走る理由を理解した。
「馬車の侵入が禁止ですって? あ、でも、確かにもう郊外のはずなのに、人が多いわ」
 歩道の整備が間に合っていない道路では、歩行者と車両を隔てる簡素な柵が並べられていた。
「人が多いというか、こりゃ大部分が人間以外だな……」
 メテオーロは眉を顰めた。
「どういう事です?」
「今の政権は帝都から人間以外の種族を排除する方向に動いている……混血の人間まで含めると、相当数の人間が帝都を追われている。その連中の多くは帝都以外の大都市で日雇いや売春で生きてるというが……此処は日雇い労働者も売春婦も極端に少ないのが不思議だが、とにかく此処はそした連中の受け皿になっていて、人口が増えに増えているようだ」
 オルドの問いにメテオーロは渋い表情で答えた。
「もうすぐ目的地の付近だよ。村の中は走れないから、其処までだ!」
 運転手は到着が近い事を知らせ、程無くして車体が止まる。
「お疲れさまでしたー、運賃はおひとり鉄銭五枚」
「案外安いんだな」
「そう遠くないっすからね、どうも」
 メテオーロは心付を含めて運転手に硬貨を手渡した。
「お気をつけて!」
「あぁ、ありがとうな」
 運転手は座席を点検するとそのまま進み、次の停留所へと走っていった。
 一行はメテオーロが出会った老人が住んでいるという村へと進む。
「あら、此処、車両は通れないんじゃなかったの?」
 一行に対面する形で通行していたのは、牛が牽く車だった。
「牛車か……おそらく材木運搬の車両は別だろう。それに牛車は速度が遅い。特例だろうな」
 空の荷台を引く牛車の御者は一向に会釈し、村の出入り口にほど近い場所にある広場へと入った。
「あそこが待機場所なんだろう」
「という事は、其処で材木を積んで奥に運んでるって事?」
「いや。大部分の材木は北方からもたらされる。反対側に搬入口が有るんだろう」
「そう……」
 メテオーロの説明を聞きながら、アナスタシアは辺りを見回した。
「なんだか野菜の畑が少なくないかしら?」
「そうだな……あぁ、そうだ。此処は元々土地が狭かったもんだから、コンクリートの建物の屋上や民家で野菜やハーブを育てる事が推奨されてたんだ。今でこそ、街はこうも広いがな」
「はー……だから穀物と人参の畑くらいしかないのね」
「あぁ、埋まって無くてもいい物は鉢植えや屋上で育つからな」
「凄いわね……」
「屋上庭園……でも、街の中に植物が有るって、すごくいいですよね」
「そう? 頭の上から土が降ってくるのは御免だけど」
 アナスタシアは不思議槽にオルドを見た。
「でも、街の中って緑の物がなくて寂しいですから」
「私にはよく分からないけど、あなたの感性は面白いわね」
 アナスタシアは笑って見せた。
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