三度目の衝撃 ―元社畜が破天荒ギルドに転生した理由―

詩方夢那

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第二章 成り行き任せ、異世界ライフ

46.荷物の街・エストゥア:駅馬車の待合室にて

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 広場に集まった一行がメテオーロから聞かされたのは、更なる追加の仕事についてだった。
 メテオーロいわく、広場の長椅子で待っている間にある老人と会話し、魔獣退治をする流れになったとの事だった。
「その人は第二都市から来た商売人で、都市の端の方に住んでいて、たびたび小型の魔獣が姿を見せては畑や工場を荒らすと嘆いていたんだ。俺が退治屋だと言ったら、何とかしてもらいたいと」
「それで、それは何処の集落の何方どなたで、幾らくらいの仕事なのでしょうか」
「シダージ北西のフェーフォという地区で、金属細工の工場が多い場所だ。その老人の名前は分らんが、はさみを作っていると言っていた。幾らになるかは分からんが、魔獣の忌避剤と結界の設置だけだろうから、せいぜい銅銭三枚か五枚程度だな」
「馬車代を考えると割に合うとはいえませんが……シダージはカリキやセントラリスとは違った品が手に入るでしょうから、行ってみてもいいでしょう」
 男はアナスタシア達を見遣る。
「ま、退治屋稼業なんて家に帰れなくて当然よね。もう少し稼げたらいいのだけど」
 アナスタシアは肩を竦めて見せる。
「それはそうですね。しかし、シダージは東大陸に近く、あちらで産出される硫黄が手に入ります。東大陸では硫黄を含む薬を溶かした湯に入る事もありますからね」
 硫黄が手に入る、その情報にアナスタシアの眼の色が変わる。
「それに加えて、北方に有るドワーフの鉱山からもたらされるリンやそれを使った燐寸マッチなども有ります」
「という事は……安く発煙筒を作れるって事ね」
「では、決まりですね」
 男はメテオーロを見遣る。
「それじゃあ、馬車乗り場に行くぞ」
 一行は自由市の会場を出て、第二都市・シダージに向かう乗合馬車の待合いへと向かった。
 シダージはエストゥアから北東方向に有り、東大陸系の住民と東大陸からもたらされる品物が多い都市である。
「此処、駅馬車が通っているのね」
 アナスタシアが見送る南の港へと向かう馬車は四頭立てで、一行がエストゥアと船着き場を往復するのに乗車した二頭立ての乗合馬車よりも大型のものだった。
 シダージに向かう駅馬車の到着まで一行は待合室で待つ事にしたが、程無くして待合室の外で騒ぎが起こった。
「このアマが!」
 若い男が一人、ナイフを持って暴れ出した。男が襲い掛かろうとするのは、一行が待つ待合室の窓の傍に立っていた人物。しかし、その人物は飛び掛かってくる男を静かにかわし、男は硝子窓を破った。
 男の持っていたナイフと割れた硝子、そして飛び込んできた男の巻き添えになった中年の女性は悲鳴を上げ、血だらけになった二人が待合室の床に倒れ込む。
「貴様ぁあ!」
 待合室の外では屠殺用の金槌を持った男がフードを被った人物へ続けざまに襲い掛かろうとする。しかし、金槌を振り上げた途端に突然後ろへ倒れ込み、そのまま石畳に後頭部を強打した。
 窓を破られた待合室の中ではアナスタシア達が怪我をした婦人を助け起こし、ナイフを手に突っ込んでくるまま血だらけになり、錯乱状態に陥った男をメテオーロが気絶させる。そんな中、男はひとり待合室を飛び出し、気絶した男と金槌、そしてフードを被った旅人風の人物を眺める。
「……今日日屠殺は空気銃だ、とでも言わんばかりですね」
「血を流さずに絞めた方が効率的でしょ? 少なくとも、卸売りのお肉はね」
 フードを被った人物は、男が自由市で話したあの店主だった。
「流石に三度も絡まれたのではたまった物では無いでしょう……ちょうどシダージに向かう途中ですし、一緒に来ませんか」
「どうせ憲兵に足止めされるわ」
「別にあなたは何もしていない、二人は勝手に窓を破り、重たい金づちを振り上げた勢いで均衡を崩して倒れただけではありませんか」
 男には分かっていた、目の前に立つフードを被ったこの人物が魔術を使う事を。
「それじゃ、憲兵さんにそう言って下さる?」
「えぇ、構いませんよ」
「そう。それじゃあ……葡萄酒くらいならごちそうするわ」
「それはどうも」
 倒れた男と窓の破られた待合室の対応に慌てふためいていた憲兵が、フードを被った人物に気づいて声を掛けたのは、それから程無くの事だった。
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