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第二章 成り行き任せ、異世界ライフ
44.荷物の街・エストゥア:旅人とゴロツキ
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正午をとうに過ぎた頃、一行は乗合馬車と船を乗り継ぎ東側対岸の都市・エストゥアに到着した。
「荷物は俺と彼で持って行く、お前さん方は昼飯にしててくれ。待ち合わせは……役所前の広場でいいか?」
「えぇ」
「それじゃあ、行ってくる」
アナスタシアにオルドとジーナを任せ、メテオーロは男と共にパエジ・エステリ商会の所在へと向かう。
昼下がりの町は静かで、道行く人の数はあまり多くない。エストゥアもカリキ同様に多くの日雇い労働者が滞在する都市ではあるが、日中の市街地にその姿は無い。
そんな街を進み、二人がパエジ・エステリ商会の本部に近づいた時、建物の陰から伸びた腕がメテオーロを路地へと引き摺り込んだ。
「ぬわっ?」
その腕は気配すらなくメテオーロを路地に引き摺り込むと、すぐさま書類入れを掴む。
「貴様っ!」
メテオーロもすぐに体勢を立て直すが、彼を引き摺り込んだ腕の主は積み上がる木箱を足掛かりに、何処かの店の勝手口の庇に上り、書類入れの中身を引っ張り出す。
メテオーロに同行していた男は路地の入口から謎の人物めがけて小刀を投げるが、その人物はそれを理解している様に結界を張り、投げつけられた小刀を地面に落とす。
その人物が立つ庇はやや高さが有るが、メテオーロは槍を構え足を突こうとした。だが、突然にその人物は書類とその入れ物を抛り捨て、庇から飛び降りると反対側の街道へと走り出す。メテオーロそれを追いかけようとしたが、その人物の姿は無かった。
「魔術師ですね」
落とされた小刀を拾い上げ、男は言った。
「魔術師、だな……しかし、何がしたかったんだ。中身を全部置いていきやがったぜ?」
「おそらく、中身を確かめたかっただけなのでしょう……不正取引の情報を掴み、泳がせる為にに」
男は撒き散らかされた書類とその入れ物を拾い、その中身に眉を顰めた。
「とはいえ、中身は無事です。黙ってこのまま書類を届けましょう。これ以上の深入りは無用です」
「だな」
メテオーロは書類を受け取り、再び入れ物に戻した。
その後、二人は何食わぬ様子でパエジ・エステリ商会に怪しげな書類を届け、アナスタシア達が昼食をとっているであろう役所前の広場へと向かった。
日が暮れた頃、一行と夕食をともにしない男は人通りの少なくなった大通りを歩いていた。すると、小さな騒ぎが起こる。
「お前、東の人間だな!」
「俺達の仕事を奪うとはいい度胸だ、ドジンのくせに!」
大通りの真ん中で、二人の若い男が作業用のナイフを突きつけ、旅人を足止めする。
「おぉ、こいつ、生意気な面してやがるが女だぜ!」
角材を手にした男は不敵な笑みを浮かべた。
「ねぇちゃん、わりぃ事は言わねぇ、傷物にされる前に大人しく俺らに寄越しな。東の女は需要が高くてな……俺達を苦しめるドジンを跪かせたい金持ちは多いんだよ!」
子悪党の親分らしき男が角材を振り上げた瞬間、フードを被った人物は低い声で言った。
「うるさい」
「あぁ?」
「だからうるさい。さっきから聞いてりゃドジンドジンって……私がドジンなら、あんたらはただの野蛮人。人間以下の畜生よ」
「黙って聞いてりゃあ!」
男が上段に構えた角材を横に振りかぶろうとした瞬間、何も無いはずの石畳から火柱が上がり、角材は瞬時に炭と化す。
「別に、丸焼きにしても喰やしない。ただ、私を殺したいなら、容赦しない」
フードを被った人物は顔を上げもせず、次の瞬間には二人の男が持つナイフに小さな雷を落とす。
「う、うわぁ……」
電撃に男達はナイフを落とし、腰を抜かした。
「絡む相手を間違えてる、さっさと失せな」
腰を抜かした男達は逃げ出そうとするが、角材を失った男は近くの店の軒先に有った葡萄酒の瓶を掴んでフードを被った人物に殴りかかった。
「このくそがーっ!」
「うるさい」
溜息を吐く様な言葉と同時に、飛び掛からんばかりの勢いで殴り掛かった男の体は吹き飛ばされた。
「それとも、もっと喰らいたい?」
フードを被った人物を尻もちをついた男を見るでもなく、俯きがちなまま呟いた。
「あ、兄貴ぃ……」
ナイフを持っていた男の一人が、腰を抜かしたまま尻もちをついた男を指さした。その先では、割れた葡萄酒の瓶が音を立てて宙に浮かんでいる。
「に、逃げるぞ!」
男達は慌ててナイフを拾い、よろめきながら逃げ出した。その間にも、宙に浮かぶ瓶の破片は渦をなす風に巻き上げられる。
(やれやれ……)
尻もちをついた男が一人残され、硝子の竜巻に飲み込まれる前に傍観していた男が動き出す。
男は静かに細身の剣を抜き、尻もちをついたまま歯を鳴らして震える男の傍に向かう。
「さっさと立ち去りなさい、さもなくば返り討ち、硝子の破片で顔を洗う事になりますよ」
「や、止めてくれーっ!」
小悪党の男は掴む物の無い道路の中央で、ひっくり返された昆虫の様に腕をばたつかせながら立ち上がり、派手に転倒しながらその場を離れる。
「災難でしたね」
男は剣を収めながらフードを被った人物に歩み寄る。
硝子を巻き上げた小さな竜巻はすでに消え、ひと所にまとまった瓶の残骸が残されていた。
「下心の助太刀なら礼は言わない」
「別に身体目当てではありませんよ。行きずりの女を抱くほど困ってはいませんので」
「でしょうね」
「それより……少し話を聞かせて頂けませんか」
「は?」
「東から来たのなら、そちらの話を聞かせていただきたい……この近くの喫茶にでも行きましょう」
「お断りします。宿なら取ってありますから……もし下心が無いというのなら、明日の自由市に来るといいわ。布の小物や首飾りなんかを売ってる店を出すの、探せるものなら探してみて」
フードを被った人物は歩き出し、瓶の残骸を近くの店の店主が片付け始めた。
「荷物は俺と彼で持って行く、お前さん方は昼飯にしててくれ。待ち合わせは……役所前の広場でいいか?」
「えぇ」
「それじゃあ、行ってくる」
アナスタシアにオルドとジーナを任せ、メテオーロは男と共にパエジ・エステリ商会の所在へと向かう。
昼下がりの町は静かで、道行く人の数はあまり多くない。エストゥアもカリキ同様に多くの日雇い労働者が滞在する都市ではあるが、日中の市街地にその姿は無い。
そんな街を進み、二人がパエジ・エステリ商会の本部に近づいた時、建物の陰から伸びた腕がメテオーロを路地へと引き摺り込んだ。
「ぬわっ?」
その腕は気配すらなくメテオーロを路地に引き摺り込むと、すぐさま書類入れを掴む。
「貴様っ!」
メテオーロもすぐに体勢を立て直すが、彼を引き摺り込んだ腕の主は積み上がる木箱を足掛かりに、何処かの店の勝手口の庇に上り、書類入れの中身を引っ張り出す。
メテオーロに同行していた男は路地の入口から謎の人物めがけて小刀を投げるが、その人物はそれを理解している様に結界を張り、投げつけられた小刀を地面に落とす。
その人物が立つ庇はやや高さが有るが、メテオーロは槍を構え足を突こうとした。だが、突然にその人物は書類とその入れ物を抛り捨て、庇から飛び降りると反対側の街道へと走り出す。メテオーロそれを追いかけようとしたが、その人物の姿は無かった。
「魔術師ですね」
落とされた小刀を拾い上げ、男は言った。
「魔術師、だな……しかし、何がしたかったんだ。中身を全部置いていきやがったぜ?」
「おそらく、中身を確かめたかっただけなのでしょう……不正取引の情報を掴み、泳がせる為にに」
男は撒き散らかされた書類とその入れ物を拾い、その中身に眉を顰めた。
「とはいえ、中身は無事です。黙ってこのまま書類を届けましょう。これ以上の深入りは無用です」
「だな」
メテオーロは書類を受け取り、再び入れ物に戻した。
その後、二人は何食わぬ様子でパエジ・エステリ商会に怪しげな書類を届け、アナスタシア達が昼食をとっているであろう役所前の広場へと向かった。
日が暮れた頃、一行と夕食をともにしない男は人通りの少なくなった大通りを歩いていた。すると、小さな騒ぎが起こる。
「お前、東の人間だな!」
「俺達の仕事を奪うとはいい度胸だ、ドジンのくせに!」
大通りの真ん中で、二人の若い男が作業用のナイフを突きつけ、旅人を足止めする。
「おぉ、こいつ、生意気な面してやがるが女だぜ!」
角材を手にした男は不敵な笑みを浮かべた。
「ねぇちゃん、わりぃ事は言わねぇ、傷物にされる前に大人しく俺らに寄越しな。東の女は需要が高くてな……俺達を苦しめるドジンを跪かせたい金持ちは多いんだよ!」
子悪党の親分らしき男が角材を振り上げた瞬間、フードを被った人物は低い声で言った。
「うるさい」
「あぁ?」
「だからうるさい。さっきから聞いてりゃドジンドジンって……私がドジンなら、あんたらはただの野蛮人。人間以下の畜生よ」
「黙って聞いてりゃあ!」
男が上段に構えた角材を横に振りかぶろうとした瞬間、何も無いはずの石畳から火柱が上がり、角材は瞬時に炭と化す。
「別に、丸焼きにしても喰やしない。ただ、私を殺したいなら、容赦しない」
フードを被った人物は顔を上げもせず、次の瞬間には二人の男が持つナイフに小さな雷を落とす。
「う、うわぁ……」
電撃に男達はナイフを落とし、腰を抜かした。
「絡む相手を間違えてる、さっさと失せな」
腰を抜かした男達は逃げ出そうとするが、角材を失った男は近くの店の軒先に有った葡萄酒の瓶を掴んでフードを被った人物に殴りかかった。
「このくそがーっ!」
「うるさい」
溜息を吐く様な言葉と同時に、飛び掛からんばかりの勢いで殴り掛かった男の体は吹き飛ばされた。
「それとも、もっと喰らいたい?」
フードを被った人物を尻もちをついた男を見るでもなく、俯きがちなまま呟いた。
「あ、兄貴ぃ……」
ナイフを持っていた男の一人が、腰を抜かしたまま尻もちをついた男を指さした。その先では、割れた葡萄酒の瓶が音を立てて宙に浮かんでいる。
「に、逃げるぞ!」
男達は慌ててナイフを拾い、よろめきながら逃げ出した。その間にも、宙に浮かぶ瓶の破片は渦をなす風に巻き上げられる。
(やれやれ……)
尻もちをついた男が一人残され、硝子の竜巻に飲み込まれる前に傍観していた男が動き出す。
男は静かに細身の剣を抜き、尻もちをついたまま歯を鳴らして震える男の傍に向かう。
「さっさと立ち去りなさい、さもなくば返り討ち、硝子の破片で顔を洗う事になりますよ」
「や、止めてくれーっ!」
小悪党の男は掴む物の無い道路の中央で、ひっくり返された昆虫の様に腕をばたつかせながら立ち上がり、派手に転倒しながらその場を離れる。
「災難でしたね」
男は剣を収めながらフードを被った人物に歩み寄る。
硝子を巻き上げた小さな竜巻はすでに消え、ひと所にまとまった瓶の残骸が残されていた。
「下心の助太刀なら礼は言わない」
「別に身体目当てではありませんよ。行きずりの女を抱くほど困ってはいませんので」
「でしょうね」
「それより……少し話を聞かせて頂けませんか」
「は?」
「東から来たのなら、そちらの話を聞かせていただきたい……この近くの喫茶にでも行きましょう」
「お断りします。宿なら取ってありますから……もし下心が無いというのなら、明日の自由市に来るといいわ。布の小物や首飾りなんかを売ってる店を出すの、探せるものなら探してみて」
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