三度目の衝撃 ―元社畜が破天荒ギルドに転生した理由―

詩方夢那

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第二章 成り行き任せ、異世界ライフ

42.公認ギルドの初仕事:出発準備

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 夕刻、一行は市街地の安宿に集まり、夕食の調達に出たアナスタシアを待っていた。
「お待たせ、近くのベーカリーでいい物を見つけたの、どうぞ」
 アナスタシアは油紙の包みをジーナとオルドに手渡す。
「それじゃ、部屋に行くか」
 メテオーロを筆頭に一行は宿泊先の部屋に向かう。宿泊料は鉄銭五枚、二人一部屋の相部屋だったが、宿の設備はカリキの安宿よりもはるかに整っている。
「ちっと狭いが一晩だけだ、我慢してくれ」
 部屋の幅はオルドが両手を広げたよりは少し広いだけで、二人が身を横たえるとなると広くはない。だが、頭上には荷物棚があり、窓際の壁には作り付けの机もある。そして二人の足元には、折り畳まれた|簀子〈すのこ〉が有った。
「これは……」
「スノコだな。東大陸の家具だ」
 言いながら、メテオーロは折り畳まれた簀子を広げて腰を下ろす。そして壁に固定されていた机の天板を下ろし、机を整える。
 オルドはこの世界にも簀子が有るのだと感激を覚えながら、同じように簀子を広げて腰を下ろした。
「あの……」
「どうかしたか?」
「ぼく達と、アナスタシアさんとジーナさんで二部屋は分りますけど、例の吸血鬼さんは……」
「あぁ……彼はこの街に知り合いが居るそうでな、此処には泊まらんよ」
「え……」
 メテオーロは渋い表情を浮かべていた。
「別行動は慎んでもらいたいんだが……あの人は俺と違って、あちこちの貴族や豪商を後ろ盾に放浪してきた人だからな。この先大陸を移動しながら仕事をするとなりゃ、そういう人脈も必要になる」
「そう、ですか……」
 オルドはメテオーロの渋い表情から、必要悪という言葉を読み取った。集団行動における規律の遵守がいかに重要であるか、かつて日本という国を生きていたオルドはそれをよく知っていたが、ブラック企業でままならない日々を送る中で痛感したのは、生きていく為には抜け道も裏口も駆使して、時に法を犯す寸前の事をしなければならない時があるというだった。基準を無視した会社に対し犯罪まがいの賠償を請求した元先輩社員や、反社会的な集団に接触してでも営業を成功させようとした後輩も、かつての彼は目の当たりにしていた。
 そしてオルドは思い出す。表向きの善意や正義の為に、自分は三度死んだのだ、と。
 オルドはアナスタシアから渡された油紙を広げた。包みの中には、り抜かれたパンの中に肉や野菜のフィリングを詰めて焼いた物が入っている。二度焼きされたパンは多少固くなっていたが、フィリングの水分と油分が染みている部分は柔らかくなっていた。

 翌朝、早朝の鐘と共に一行は起床し、指定された倉庫へと向かった。
「あら、お早いのね」
 アナスタシアは皮肉を込めて会釈する。昨夜、別行動だった男は既に倉庫に到着しており、貸し馬の調子を確かめていた。
「この馬はあまりいい馬ではありませんね。こちらは気性が荒く、そちらはどうにも臆病です。何かあったら、馬を降りた方がいいでしょう。あぁ、この育ちの悪い馬は私に任せて下さい」
 男はアナスタシアの存在を無視する様に言ってメテオーロを見遣る。
「そうか」
 メテオーロは返しながら、奥を見遣る。
「みな集まったかね」
 荷主の男が姿を現した。
「おはようございます。早速ですが、昨日の打ち合わせの通り、俺とそちらの彼が馬で先頭を闘を護衛、そちらの二人が二台目の荷馬車に同乗、残る一人が殿しんがりとして最後尾の荷馬車に同乗でよろしいですか」
「あぁ、その件だがな、戦車チャリオットの手配が出来た。殿はそちらに同乗してくれ」
「分かりました」
「それじゃあ、こちらの準備が整ったら声を掛ける、もう少し待ってくれ」
 荷主が奥に戻ると、メテオーロはジーナを見た。
「ジーナ、悪いが最後尾は立ち乗りの馬車だ」
 ジーナは首を傾げた。
「二頭の馬が引く二輪の車に乗ってもらう。立ったままで慣れないと怖いかもしれないが、振り落とされる事は無い、しっかり捕まっててくれ」
 メテオーロの説明にもジーナは具体的な想像がつかずにいたが、程無くして倉庫の扉が開けられると、彼女は現実を突き付けられる事となった。
 先頭の荷馬車と並走する二人は決していい馬とは言えない馬の手綱を握り、緩やかに倉庫を出る車両に従う。二台目の荷馬車で貴重な品や納品書の管理を任されたアナスタシアとオルドには花火と信号弾入りの拳銃が渡された。
「使い方は私が教えるわ」
 オルドは初めて手にした拳銃に身を強張らせていた。
「これ、そんなに気軽に貸してもらってもいい物なんですか?」
「確かに、これは高価な物だけど……中身の火薬は私でも調合出来るような物よ。さ、行きましょう」
 オルドにとって拳銃とは非常に危険な武器であり、それを何の資格も許諾燃えていない自分が持ってよいのか分からない代物であったが、アナスタシアにしてみればただの金属製の道具に過ぎない。その認識の溝は埋められないまま、二人を乗せた荷馬車は動き始める。
 そしてジーナは御者に言われるままチャリオットに乗った。
「転ばないように、しっかり捕まってろよ」
 全ての馬車が吐き出された最後、ジーナを乗せたチャリオットが走り始めた。
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