三度目の衝撃 ―元社畜が破天荒ギルドに転生した理由―

詩方夢那

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第二章 成り行き任せ、異世界ライフ

41.公認ギルドの初仕事:待機時間

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 市街地に入った一行は広場に設置されたベンチで休憩をとる事になった。
「グラオ君」
 吸血鬼の男はアナスタシアを呼び、その手に銅銭を渡す。
「近くに屋台が出ているでしょうから、これで昼食を買ってきて下さい、三人分なら、これで足りるでしょう」
「それはいいけれど、三人分というと、あなたと……メテオーロさんは?」
「私達はビスキュイを持ってきていますし、エルフも吸血鬼も、人間の食事で食べられる物は多くありません」
「そうなのね。それじゃあ、買いに行ってくるわ」
 アナスタシアは広場に店を出す屋台から適当な店を探す。そして、薄いパンに魚の切り身を挟んだ物を売る屋台に向かった。
 三人分の昼食を調達し、アナスタシアはオルドとジーナの待つベンチへと戻る。
「ジーナさん、少しは気分が良くなりました? お昼ご飯、買ってきたんだけど」
「あぁ……すまないな」
 ジーナはアナスタシアから渡された包みを受け取り、不思議そうな顔をする。オルドもまた、包みを受け取り、同じく不思議そうにそれを眺める。
「これはピタパンっていう薄いパンよ、大陸南方の沿岸部だとよく食べられていて、屋台の定番。中身は薄いお肉が多いけど、これは魚ね……缶詰かしら、骨は無いはずだから、そのまま齧っても大丈夫よ」
「初めて見ました……いただきます」
 オルドは珍しいサンドイッチを一口食べ、何かに似ていると思う。
(あー……ナンだっけ、なんか、あれみたいだな)
 かつて生きていた世界において、オルドがまともな食事をしていたのは二十歳になる前までだった。大学に進んでからは慣れない一人暮らしに自炊は上手く行かず、切った野菜を放り込んだだけの味噌汁や加熱しただけの野菜など、最低限健康を維持するだけの食事は準備していたが、手の込んだ料理は作ってこなかった。就職してからは食事すらままならない日々が続き、駆け込んだコンビニエンスストアで買った軽い食事が多くなっていた。
(なんだろう……きっとこの世界でも、これっていわばコンビニ飯みたいな物なんだろう……無理に綺麗に見せようとかしてないし、一杯食べられて、美味しい)
 食べ慣れないパンの食感や食べた事の無い野菜に困惑するジーナの隣で、オルドは小さな幸せを噛みしめていた。

 午後、メテオーロはオルドを連れて荷主のもとへ向かい、翌日帝都に向かう馬車の数や護衛の計画についての相談に臨む。残る三人は町役場に向かい、この数日分の新聞から一帯の情勢について確認するとともに、魔獣の情報を収集する事とした。
「思ってた以上に東側とは上手く行ってなかったのね」
 アナスタシアは日々エフサに届く新聞を読みはしていたが、エフサに届いていた新聞社の記事には無い情報が、役場の新聞には多数記されていた。
「帝都に向かう荷物の値段つり上げをしているとなると……依頼主の荷物は、此処の街で売り買いする物だと偽って入荷している可能性もありますね。尤も、帝都に対する嫌がらせは感心しませんが、帝国軍による強硬な軍縮要請や、軍艦の放棄を迫っての商船に対する燃料供給差し止めは流石にやり過ぎですね」
「まぁ、東側は往復燃料を満載して航行してるみたいだけど、その分積み荷が減って割高になった、というのは分らなくは無いわ」
「しかし、南航路から帝都に直行する船を検疫を理由にして足止めしているのは、海軍の動きを封じるためでしょうから、報復措置を講じるのは当然です……東側は噴火さえしなければ航行可能と判断し、西方面への荷物を新型の蒸気船を使い、北航路から西方面の港湾に向かう方針を出していますし、南大陸の運河整備に支援をしています。その見返りとしてコーヒー豆やカカオ豆の輸入が増えているようです。この価格高騰も、貴族を抱える帝都には頭の痛い問題でしょう」
「火種ばかり増えているってわけね……しかも、帝国はその丈夫な蒸気船を軍事転用する為の物だと批難しているわけだし……流石に北側航路まで塞ごうとすると戦争で、これじゃ貿易なんて成り立たないわね。皇帝は東側を含めて一つの国と考えて支配下に置いているつもりかもしれないけど、東側は今の皇帝を元首と認めてないし」
「そうですね」
 役場の図書室で溜息を吐く二人を、ジーナは不思議そうに眺めていた。そもそもジーナは新聞の文字を読む事が出来ないし、この大陸の情勢という物も理解していない。皇帝という存在すらも、彼女には具体的に想像が出来ていない。彼女は漁船に便乗して故郷を離れ、身一つでこの大陸に来ただけのなのだ。
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