三度目の衝撃 ―元社畜が破天荒ギルドに転生した理由―

詩方夢那

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第二章 成り行き任せ、異世界ライフ

37.貴族商人ボスウェリア:前途多難のギルド結成

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 私兵の案内で一行はギルド管理所に向かっていた。
「あの……さっき、認定会って言ってましたけど……ぼくが居ても大丈夫なんですか」
 男に付き従うオルドは尋ねた。
「どういう意味です?」
「その、認定会って、魔獣退治に使う力を披露するって事ですけど、ぼくは剣も使えなければ、魔法も使えないんですよ? 公認、落ちませんか?」
「大丈夫ですよ。あなたはギルドの雑用係という事で登録しますので」
「え」
「頭領一人のギルドは認可されませんし、戦える者が一人だけというのも認可されませんが、複数人の内小間使いが一人、というのは別に問題ありません」
「はぁ……」
 昼間の活気に満ちた通りを抜け、一行はギルド管理所に到着する。一行を代表して男は必要な書類とペンを借り、記入台に戻ってきた。
 書類にはギルドの責任者となる頭領が記入する物と、従業員が記入する物が有り、男は無言でメテオーロに頭領の記入する書類を渡す。
「え、えっと、その、苗字とか僕ないんですけど……」
「手形の発行時に登録されている出身地と名前だけで十分です。保証人は卿、住所は卿の屋敷にして下さい」
「はい……」
 男に言われるまま、オルドはペンを走らせる。不思議な事に転生するまでの肉体が持っていた記憶は一切ないが、この世界の文字を読み書きする事は出来ていた。しかし、その隣にいるジーナはペンを持つ事もせず、首を傾げている。
「手形を見せろ」
 メテオーロは困惑するばかりのジーナから手形を借り、彼女の名前を皮切りに必要事項を書き記し、名前の部分を指さした。
「これがお前さんの名前だ。これでジーナと読む。それと、これはペンだ。こっちからインク……色のついた汁みたいな物が出てきて、紙に線が書ける」
 メテオーロはペンの使い方を説明し、続けてボスウェリアの館の住所を覚える様にと言って読んで聞かせた。
「ところで、ギルドの名称はどうすんだよ」
 ジーナの書類を代筆したメテオーロは最後の空欄を埋めるべく男を見た。
「アスピダでどうでしょう」
「アスピダスか……」
 男が提案したのは、かつてエルフの王を守った戦士の名にちなむ物だった。
「これでいい」
 メテオーロは男の提案を受け入れ、ギルドの名称を記入した。
「では提出に行きましょう」
 書類を書いた一行は審査室に通され、一人ずつ手形を見せて官吏の問いに答えた。官吏は口頭で語られる経歴を経歴書としてまとめ、大まかな身長や身体的特徴を記録する。
「登記は完了した。拠点となるエフサは後程選定する、当面はこの職業案内所の三階にある臨時拠点に入ってくれ。部屋番号は五番だ、物置くらいにはなるだろう」
 官吏は新たな手形を手渡しながら、拠点となる貸し部屋の説明をする。
「分かりました」
 メテオーロは当座の拠点となる部屋の鍵を受け取り、待合室の三人の元へと戻る。
「なぁ、その、とーきとやらが出来たら、仕事ができるのか?」
 ジーナは目を輝かせながらメテオーロに尋ねた。
「いや、今すぐには動けない。まずは明後日の認定会に参加して、公認ギルドにしてもらう必要が有る。暫くはボスウェリア卿が世話をしてくれるし、それに甘えさせてもらおう」
「けどよお、せっかく仕事が出来るようになったんだ、早く稼ぎが欲しいよ」
「今から遠征に出たところで、乾パンの一つ買えないだろうが」
「そんなもんなくたって、外に出りゃ食えるモンは有るだろうが」
「魔獣退治はただの野営とはわけが違うんだ」
「けど!」
「ギルドで仕事をするってのは、野っ原で魔獣を退治する事じゃねぇんだ。困っている人が居る村に行って仕事を貰って、その対価を受けて村の魔獣を追い払うのが仕事なんだ。それに、魔獣が暫く近寄らない様に忌避剤を撒いたり、結界を設置しようとすれば、その材料費が必要になるし、怪我をした時に備えて傷薬と包帯くらいは準備しなきゃならねぇんだよ」
 諭す様なメテオーロの言葉に、ジーナは反論できず歯ぎしりする。
「俺達が今日此処で登記をしたのは、役所に俺達は正当な権利をもって魔獣退治をする集団であると認めさせる為だけで、それが認められたからと言ってすぐに仕事ができる訳じゃねぇ、明後日の認定会で公認を貰う為なんだ」
「じゃあなんで!」
「公認されれば役所から金を出して貰える。その金で必要な物を買うんだよ」
 ジーナは犬がうなる様に歯ぎしりを重ねる。
「貴族に面倒をみられるのは、そんなにお気に召しませんか」
 男は冷ややかにジーナを見遣る。
「嫌に決まってんだろうが! あたしは独りで生きていくと決めて此処に来たんだよ!」
 男はジーナに分かる様、大袈裟な溜息を吐いて見せる。
「その心意気は立派ですが、今は単独での魔獣退治が禁止に向かっていて、それしか稼ぐ手段が無いというならギルドに従うしかありません。しかも、無一文からすぐに何らかの後ろ盾を得て支援を受けられるというのは非常に運がいい……都会というのは、そうやって人間さえも使える物を使って生きていく、そういう世界なのですよ」
 ジーナにとって他者に頼るという事は敗北でしかなかった。それ故、男の言い分は到底受け入れられる物では無かった。
「いくらか稼ぐまでの辛抱だよ。別に、一度ギルドに入ったからと言って、死ぬまで其処に居る必要は無ぇんだ。多少金が溜まったら腸詰の屋台でも開けばいい」
「はぁ?」
 ジーナは表情を歪ませる。
「おいおい、まさか野っ原で野ウサギを捕って暮らすつもりだったのか? あのな、この大陸で生きていくにゃあ金が要るんだ……まさか、人から金を貰うってのがそんなに嫌なのか? 施しを求める乞食と物を売る商売人は別なんだ。とにかく、今は俺達に付いて来てくれ。この大陸がどういう物か、もっと見た方がいい」
 遂にジーナは反論できなくなり、口をつぐむ。
「さて、戻りますか……メテオーロ、あなたはどうします?」
「一度卿の館に行かせてくれ。登記の報告をしたい」
「そうですか……行きましょう」
 ジーナは苦虫を噛み潰したような表情を浮かべ、引き返す一向に従った。
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