三度目の衝撃 ―元社畜が破天荒ギルドに転生した理由―

詩方夢那

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第二章 成り行き任せ、異世界ライフ

32.ボスウェリアの私兵:徘徊する不死鬼

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 あるじのボスウェリアが留守にしていたその日の深夜、緊急の電信を受け取ったのは女中のプトーシーだった。
 プトーシーは私兵の男が寝起きしている部屋に走り、扉を叩いた。
「電信、電信です。帝都側入り口診療所に収容されていた魔獣退治ギルド・ガイストの負傷者二名が失踪、夜勤の看護婦が襲われて負傷!」
 まだ寝床に入っていなかった男は扉を開け、プトーシーの顔を見る。
「不死鬼ですか」
「魔獣に襲われての負傷との事です」
「逃げた方角は」
「門番は姿を見ていないとの事、市街地かと」
「すぐに向かいます」
「お手伝いします」
 男は部屋にプトーシーを入れ、鎧を兼ねた革のベストを身に着ける。
「ランプの用意を」
「はい」
 プトーシーは玄関へと走り、ランプに火を灯す。男は二本の剣と小刀をベルトに提げ、玄関へと急いだ。
「不死鬼の行き先に見当は?」
 火の点いたランプを男に手渡しながら、プトーシ―は男に尋ねた。
「確かガイストなるギルドは人外の集団で、東地区のエフサが拠点だったはずです。本能的にそちらに向かっているかもしれません」
「ご武運を」
 プトーシーに見送られて屋敷の外に出た男は足早に東地区へと向かいながら、不審な気配を探した。
(起き上がってすぐなら、そう足は早くない)
 街の中は静かで、憲兵の巡回を避ける様に細い路地を抜けながら進む男が目にするのは、夜の散歩に家を抜け出した飼い猫か、日中は路地に出てこない野良猫だけ。宿屋酒場の少ない東地区は慎ましい静けさに包まれていた。
(此処に居れば……) 
 男は細い路地から大通りに出て、ただならぬ気配を覚えた。
(何処だ)
 辺りを見回すが、それらしき影はいない。
(裏側か)
 男の勘は鋭いが、時にそれは広範囲に作用しすぎて対象を見失う。男は賭けをする様に、ガイストが拠点を置いていたエフサへと走った。

 ガイストが拠点を置いていた東地区の魔獣退治ギルドが集められたエフサには、メテオーロとジーナを含む数人が夜を明かすべく留まっていた。
 ジーナはメテオーロを用心棒代わりに眠り、メテオーロはくたびれた雑嚢を体に乗せて横たわっていた。
 人の往来が失せた通りに面するエフサの広間は静寂に包まれていたが、メテオーロはただならぬ気配に身を起こした。
(これは……不死鬼か。だが、一体何処に……)
 東地区の街灯は極端に少なく、エフサの広間にはその規模に対してあまりにも貧相なランプがひとつ吊るされてるに過ぎない。
 メテオーロがただならぬ気配に気付いた直後、非常口の木戸が音を立てる。それは僅かに揺れた途端、破られた。
「襲撃だーっ!」
 その叫びは広間の混乱の幕開けだった。メテオーロは僅かな明かりで見える限りの景色を見回し、息を呑んだ。
「あれは……」
 ジーナは夜目が聞き、混乱に飛び起きるままメテオーロを認め、その視線の先を見た。そして目にしたのは、今朝、診療所に運び込まれたはずの二人の姿。
「気を付けろ、そいつは不死鬼だ!」
 メテオーロとジーナ以外の志願者は非常口の木戸とは反対側へと逃げるが、暗闇の中を右往左往して出口には辿り着けない。その間にも不死鬼と化したトゥバロンとオーリソウはメテオーロに襲い掛かる。
 メテオーロは暗がりでジーナを傷つけぬよう相手の足元を掬い、蹴り飛ばしながら間合いを取るが、負傷して昏倒していた人間とは思えないほどの力で二人はメテオーロに飛び掛かろうとする。
「ジーナ、逃げろ!」
 槍で貫けば動きを鈍らせる事が出来る、そう考えてメテオーロが絶叫した時、破られた扉の向こうの暗闇から一点の光が混乱する広間に飛び込んできた。
 その光の主は肉を切り裂く湿った音を立て、トゥバロンの体を貫く。トゥバロンは叫び声を上げる間さえ与えられず、倒れ込むや否やうなじを突き刺された。その間にメテオーロは槍を構え直し、オーリソウの体をそれで貫く。すると、貫かれて動きの止まったオーリソウのうなじに別方向から一撃が与えられた。
「これで起き上がりはしませんよ」
 横たわる二人の亡骸は微動だにしない。
「彼等はただの不死鬼、吸血鬼の不死鬼よりはましです」
 混乱する暗闇から脱出した志願者を見つけた夜警の憲兵が惨劇の現場に到着したのは、それから少し後の事だった。
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