三度目の衝撃 ―元社畜が破天荒ギルドに転生した理由―

詩方夢那

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第一章 よろこべ、これが異世界だ!

22.第三都市カリキ:悪夢から醒めてまた

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 悪夢その物の様な光景を前にしながらも、それ以上関与しない事が最善で逃げるしかなかったオルドは気絶する様に眠り、部屋の清掃の為に退去を求められる時刻まで眠っていた。
 正午前、けたたましい鐘の音にたたき起こされるまま慌てて宿を飛び出したオルドは、壊れたままの扉を目にし、昨夜の事が事実であると思い知りながらも、街に出る事しか出来なかった。この時刻から日雇いの仕事を見つける事は出来ないが、店の所在を把握する事や、昨日の小切手の換金、飲み水代を入れる小銭入れの購入など、着の身着のままではままならぬ事を片付けるにはまだ時間が有った。
 当座の現金が僅かに有る事から、オルドは街中の散策をすると決め、宿の近くから順に散策を始める。
 路地を抜けて大通りに出ると、屋台や露店が出され、懐に余裕のある旅人や大店で働く奉公人達が昼食を調達していた。
(えっと、銀行は……)
 オルドが通りを見渡すと、銀行を示す共通の看板が掲げられた建物はすぐに見つかった。
(それもそうだけど、小銭入れも欲しいな……)
 オルドは大通りを少し見渡すが、大通りに面しているのはそれなりに裕福な町人や旅人を相手にする店ばかりである事は明白で、来た道を引き返し、一本裏の通りへと戻る。夜の闇で見えなかった景色が鮮明になる正午、日暮れ時には寂れている様に見えた裏通りには、殊の外多くの人出が有った。それはオルドと同じ様な労働者であったり、あまり懐に余裕が無い旅人であったり境遇は様々に見えるが、中には道具の調達にやって来たらしい農民や、古道具から価値のある物を探しに歩く商人も居り、大通りとはまた違った賑わいを見せていた。
(此処かなぁ……)
 昨夜訪れたのと同じ様な安宿の一階を店にした雑貨屋を見つけ、オルドは店に入る。
「いらっしゃい」
 店番をしていたのは老婆だったが、しわがれてもなお愛想のよい声で客を迎えていた。二階へと続く階段のわきに掲げられた看板には、一泊が鉄銭十枚であると記されている。
(やっぱ、高いお店は、いいお店なんだな)
 品揃えも昨夜の雑貨店と比べると多く、出入り口に近い棚には生の果物が並び、昨夜の店には無かった干した果物や菓子、手帖の様な雑貨も並べられている。
(コンビニって感じかな……)
 様々な雑貨の中からオルドは目当ての物を探し出す。
(鉄銭五枚かぁ……でも、無いと不便だし……)
 オルドは小銭入れを手に会計へと向かう。
「お願いします」
「鉄銭五枚だよ」
 オルドはチュニックの下から鉄銭を引っ張り出し、その間に老婆は値札を取り除く。
「丁度だね、ありがとう」
「ど、どうも……」
 昨日の店主とは打って変わって愛想のいい老婆に面くらいながら、オルドは通りへと出て、銀行を目指した。
 オルドが生きていた世界だと正午には閉められている事も有った銀行だったが、彼の入った銀行は多くの人が小切手の換金、あるいは小切手の発行に訪れており、慌ただしい様子だった。
「小切手の換金を」
「カリキ商業組合ね」
 受付に当たる女性は小切手を確認するとすぐに革製の皿を取り、必要な金額を棚から取り出す。その棚はオルドの記憶の中にあるオートキャッシャーをアナログにしたような物で、設定された数字に合わせ、必要な数の硬貨が吐き出される様になっていた。
「間違いないかしら」
「あ、はい、大丈夫です!」
 小切手の数字と硬貨の枚数が釣り合っているかどうか、この世界の金銭単位を理解していないオルドには分らず、大丈夫だという事しか出来なかった。ただ、手持ちの現金が増えたというのは彼にとって非常に心強い事だった。
 待合の空いた席でオルドは印刷屋から貰った小銭入れと、先ほど購入した小銭入れを入れ替え、頑丈そうな新しい小銭入れに大部分の鉄銭と銅銭を入れ、数枚の鉄銭と蝋銭を粗末な方の小銭入れに入れてチュニックの外側に提げる。
 この先どうすべきかと考えながらオルドは通りを進み、町の様子を眺めて歩いた。そのさなか、彼の頭上から奇声が降り注いだ。その主は、頭上の看板に泊まった鮮やかな赤い羽根を持った大きな鳥。
 この世界にはこんな鳥も居るのか、オルドが感心した瞬間、その鳥はオルドの顔面目掛けて飛び降りる。
「う、うわぁ!」
 オルドは驚きのあまり腰が砕けて座り込み、鳥が顔面に直撃する事態には見舞われなかったが、赤い鳥は太いくちばしでオルドの腹をつつく。
「やめろーっ!」
 オルドは叫ぶが、鳥は鋭い爪を立て執拗にオルドの腹をつつく。周囲を歩く者達も突然降ってきた凶暴な鳥になす術が無く、ただ狼狽うろたえるばかりだった。
 ある一人を除いては。
 オルドの悲鳴と人々の狼狽える声を切り裂いたのは、投げつけられた小刀が風を切る音だった。
「まったく、あなたは本当についていませんね」
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