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第一章 よろこべ、これが異世界だ!
20.放浪エルフ:小銭稼ぎ
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オルドと別れたメテオーロはその足で近くに在る魔獣退治ギルドが集うエフサに向かった。
玄関先には幾つものギルドから人員募集の貼り紙が出されており、そうしたギルドを紹介する文面も掲げられていた。
――人外歓迎、武器の扱いに慣れた者求む。
メテオーロが目を付けたのは、人間以外の種族で構成された魔獣退治ギルドの紹介文だった。公認から日が浅く評価点は低かったが、いくつかの村で実績を上げていた。無論、魔獣を寄せ付けない為の忌避作を施す様な良心的な魔獣退治はしていないが、実績を積むには十分そうに見えた。
「なあ、此処のギルドに志願したいんだが」
「ん……あぁ、彼等は今、遠征中だ。暫く戻らんよ」
メテオーロが声を掛けた官吏はそっけなく答える。
「そうか、じゃあ、出直しだな……すまないが暫く此処に留まらせてもらっていいか」
「志願者なら構わん、手形を」
メテオーロは仮手形を見せる。
「来たばかりか……もし当座の金に困っているというのなら、単発の仕事を当たってみた方がいい。件のギルドは日が浅いとはいえ、まともな装備無しでは務まらんぞ」
「そうか……何か案件があるのか?」
「実は今日ひとつだけ残っている仕事があってな……吸血鬼退治に興味は無いか?」
「吸血鬼?」
「あぁ、知ってるだろう? その吸血鬼が街の中に居るらしいんだ。夜な夜な娼婦を襲っているとか」
「面白い仕事だな」
「興味が有るなら三階に行ってみろ、貸し部屋で雇い主が待ってる」
「あぁ、ありがとうよ」
そう言ってメテオーロが向かった先に居たのは、派手ではないが相当気の強そうな中年女性だった。
(遣手婆か……)
「さっき下の役人に話を聞いたんだ、詳しく聞かせてくれるか?」
「あんた、人間かい?」
女メテオーロを値踏みする様に眺める。
「いや」
「そうか……まぁいい、忌まわしい吸血鬼でなきゃね」
メテオーロは椅子に腰掛けた。
「それで、吸血鬼退治と聞いたが」
「ウチのシナモノに傷を付けてくれる悪辣な輩が居てねぇ、立ちんぼしてるのを誑かして傷物してくれるんだよ。別に今すぐとっ捕まえてくれとは言わないけど、もし見つけたらとっちめて欲しいんだ」
「つまり、吸血鬼特化の用心棒ってわけか」
「あぁ。日当は払うし、何なら何日か来てくれてもいいよ」
「……分かった、ひとまず今日一日引き受ける」
「それじゃあ、付いてきな」
メテオーロは女に従い、娼館の立ち並ぶ歓楽街へと向かった。
結局その夜、吸血鬼らしき不審な人物は現れず、メテオーロは下男の休憩室を借りて仮眠をとり、街に繰り出した。そして、街角の水飲み場に集まる労働者や屑物集めの老人に声を掛け、吸血鬼の噂を訪ねて回った。だが具体的な情報は無く、彼が志願する予定のギルドがこの二日ほどの内には戻ってくるという話を聞くに至った。
(こりゃ今夜でお役御免にしてもらわないとな……)
吸血鬼退治という奇妙な用心棒の日当は悪くない物だったが、食事も宿も無い夜半の仕事に見合うほどではなかった。
そして迎えた二度目の夜、娼館を少し離れた通りを見回っていたメテオーロは遂に吸血鬼らしい影を見つけた。その男は二本の剣を提げて血の臭いを纏い、夜の闇に紛れて歩いていた。
メテオーロは男のいる路地の対岸の路地からその様子を窺っていたが、やがて血の臭いを纏ったその男は立ち止まる。
気付かれていた。しかし、提げられている男の剣は一メートルも無い。間合いを詰めずとも打撃を与えられる槍を持っているメテオーロは自身の優位を信じ、通りへと飛び出した。ところが、吸血鬼と思しき男はメテオーロが思う以上に敏感かつ俊敏で、振り向きざまに剣を抜きながらも、背後からの一撃をかわしてしまう。
(速いっ)
メテオーロは大きく踏み出して二度目の斬撃を仕掛けるが、男にはまるで効果が無く、その体は路地へと吸い込まれてしまう。
「くそっ」
メテオーロが広い間合いでの刺突に備えて槍を構え直す僅かな間に、血の臭いを纏った男は更に間合いを広げ、穂先が届かない距離に身を置いていた。
(追跡するか?)
相手の俊敏さを考えれば、槍を手にして走るメテオーロの分が悪い事は明白だった。しかし、剣で渡り合う事を諦めた様に男は剣を鞘に納める。
(やるだけやるか)
メテオーロは男が逃げ込んだ路地に突っ込み、槍の取り回しが容易な大通りへと躍り出る。だが、彼が大通りに出た時、男は短剣を手にしていた。
(そう来るか)
メテオーロが躍り出ると同時に突き出した槍の一撃をかわした男は先程よりも身軽で、刺突から斬撃へと切り替わる攻撃の隙間を縫って一気に間合いを詰めた。メテオーロは咄嗟に背後の路地へと身を引き、防御の甘い脇からの攻撃に備える。
男は脇から回り込んで懐に入り込む事が出来なくなり、様子を見る様に間合いを広げた。
「何事だ!」
夜警の憲兵の怒号に、メテオーロは舌打ちする。依頼をこなす事は出来ないが、此処で憲兵に見咎められれば、ギルドへの志願に響く。彼は夜警の気配が無い方向へと一目散に走り、適当な路地に逃げ込んだ。
玄関先には幾つものギルドから人員募集の貼り紙が出されており、そうしたギルドを紹介する文面も掲げられていた。
――人外歓迎、武器の扱いに慣れた者求む。
メテオーロが目を付けたのは、人間以外の種族で構成された魔獣退治ギルドの紹介文だった。公認から日が浅く評価点は低かったが、いくつかの村で実績を上げていた。無論、魔獣を寄せ付けない為の忌避作を施す様な良心的な魔獣退治はしていないが、実績を積むには十分そうに見えた。
「なあ、此処のギルドに志願したいんだが」
「ん……あぁ、彼等は今、遠征中だ。暫く戻らんよ」
メテオーロが声を掛けた官吏はそっけなく答える。
「そうか、じゃあ、出直しだな……すまないが暫く此処に留まらせてもらっていいか」
「志願者なら構わん、手形を」
メテオーロは仮手形を見せる。
「来たばかりか……もし当座の金に困っているというのなら、単発の仕事を当たってみた方がいい。件のギルドは日が浅いとはいえ、まともな装備無しでは務まらんぞ」
「そうか……何か案件があるのか?」
「実は今日ひとつだけ残っている仕事があってな……吸血鬼退治に興味は無いか?」
「吸血鬼?」
「あぁ、知ってるだろう? その吸血鬼が街の中に居るらしいんだ。夜な夜な娼婦を襲っているとか」
「面白い仕事だな」
「興味が有るなら三階に行ってみろ、貸し部屋で雇い主が待ってる」
「あぁ、ありがとうよ」
そう言ってメテオーロが向かった先に居たのは、派手ではないが相当気の強そうな中年女性だった。
(遣手婆か……)
「さっき下の役人に話を聞いたんだ、詳しく聞かせてくれるか?」
「あんた、人間かい?」
女メテオーロを値踏みする様に眺める。
「いや」
「そうか……まぁいい、忌まわしい吸血鬼でなきゃね」
メテオーロは椅子に腰掛けた。
「それで、吸血鬼退治と聞いたが」
「ウチのシナモノに傷を付けてくれる悪辣な輩が居てねぇ、立ちんぼしてるのを誑かして傷物してくれるんだよ。別に今すぐとっ捕まえてくれとは言わないけど、もし見つけたらとっちめて欲しいんだ」
「つまり、吸血鬼特化の用心棒ってわけか」
「あぁ。日当は払うし、何なら何日か来てくれてもいいよ」
「……分かった、ひとまず今日一日引き受ける」
「それじゃあ、付いてきな」
メテオーロは女に従い、娼館の立ち並ぶ歓楽街へと向かった。
結局その夜、吸血鬼らしき不審な人物は現れず、メテオーロは下男の休憩室を借りて仮眠をとり、街に繰り出した。そして、街角の水飲み場に集まる労働者や屑物集めの老人に声を掛け、吸血鬼の噂を訪ねて回った。だが具体的な情報は無く、彼が志願する予定のギルドがこの二日ほどの内には戻ってくるという話を聞くに至った。
(こりゃ今夜でお役御免にしてもらわないとな……)
吸血鬼退治という奇妙な用心棒の日当は悪くない物だったが、食事も宿も無い夜半の仕事に見合うほどではなかった。
そして迎えた二度目の夜、娼館を少し離れた通りを見回っていたメテオーロは遂に吸血鬼らしい影を見つけた。その男は二本の剣を提げて血の臭いを纏い、夜の闇に紛れて歩いていた。
メテオーロは男のいる路地の対岸の路地からその様子を窺っていたが、やがて血の臭いを纏ったその男は立ち止まる。
気付かれていた。しかし、提げられている男の剣は一メートルも無い。間合いを詰めずとも打撃を与えられる槍を持っているメテオーロは自身の優位を信じ、通りへと飛び出した。ところが、吸血鬼と思しき男はメテオーロが思う以上に敏感かつ俊敏で、振り向きざまに剣を抜きながらも、背後からの一撃をかわしてしまう。
(速いっ)
メテオーロは大きく踏み出して二度目の斬撃を仕掛けるが、男にはまるで効果が無く、その体は路地へと吸い込まれてしまう。
「くそっ」
メテオーロが広い間合いでの刺突に備えて槍を構え直す僅かな間に、血の臭いを纏った男は更に間合いを広げ、穂先が届かない距離に身を置いていた。
(追跡するか?)
相手の俊敏さを考えれば、槍を手にして走るメテオーロの分が悪い事は明白だった。しかし、剣で渡り合う事を諦めた様に男は剣を鞘に納める。
(やるだけやるか)
メテオーロは男が逃げ込んだ路地に突っ込み、槍の取り回しが容易な大通りへと躍り出る。だが、彼が大通りに出た時、男は短剣を手にしていた。
(そう来るか)
メテオーロが躍り出ると同時に突き出した槍の一撃をかわした男は先程よりも身軽で、刺突から斬撃へと切り替わる攻撃の隙間を縫って一気に間合いを詰めた。メテオーロは咄嗟に背後の路地へと身を引き、防御の甘い脇からの攻撃に備える。
男は脇から回り込んで懐に入り込む事が出来なくなり、様子を見る様に間合いを広げた。
「何事だ!」
夜警の憲兵の怒号に、メテオーロは舌打ちする。依頼をこなす事は出来ないが、此処で憲兵に見咎められれば、ギルドへの志願に響く。彼は夜警の気配が無い方向へと一目散に走り、適当な路地に逃げ込んだ。
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