三度目の衝撃 ―元社畜が破天荒ギルドに転生した理由―

詩方夢那

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第一章 よろこべ、これが異世界だ!

16.第三都市カリキ:異世界で始める日雇い労働

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 早朝、オルドは道案内に従って職業紹介所に向かった。
 職業紹介所は三階建ての建物だが、早朝に解放されているのは一階の大広間だけで、既に多くの労働者が集まっていた。
 暫くすると口入屋らしき身なりのいい男が数人現れ、会場を取り仕切る若い官吏が声を張り上げる。
「荷役夫、材木で二十人、干し魚で十人、志願者は二階! 掃除夫、海岸線の屑物拾い、十人、女でもいい、宿と馬車は手配有り、志願者は三階! 荷役夫、各ギルドへの配達、十人、女でもいい、志願者は此処に残れ、以上!」
 集まっていた労働者は各々に志願する労働の元締めが居る階へと進む。オルドは町に留まって情報収集がしたいと考えていたが、どれが街の仕事か分からずに棒立ちになっていた。
「お前は配達の志願者か? だったらあれが元締めだ」
「は、はい!」
 オルドは訳も分からず、官吏に言われるまま身なりの良い若い男の傍に向かう。
「志願者は……十人丁度……よし、一人ずつ手形と経歴書を見せろ!」
 先陣を切ったのは若い男だった。
「この町にはよく配達に来ていました、土地勘は有ります」
「よし、そっちで待ってろ」
 次々に志願者は通行手形とその裏面に記されたそれまでの労働の証明を見せる。しかし、誰もが採用されるわけでは無く、弾かれた者は官吏に人手の足りていない労働へと案内される。
「ん? お前は新入りか?」
「昨日この町に来ました」
 元締めの男は値踏みする様にオルドを眺める。
「今までの仕事は?」
「その……村を襲われて、何も覚えていないんです」
「ほぅ……」
 伏し目がちに呟くオルドの様子を見て、怪訝けげんな眼差しが同情に変わる。
「ならばお前は私に付いて来い、荷物持ちだ」
「はい!」


 配達の仕事を与えられた労働者達は荷物を引き取りに帝都側の入口へと向かい、元締めとオルドもまたそちらへと向かう。
 荷物は近隣の村から修理に出された調理器具や農機具だったが、その中にはオルドを驚かせる荷物もあった。
(計算機……この世界にも有るんだ)
「計算機とミシンは繊細だ、落としたりぶつけたりしないように注意しろ! 細かい物は荷札が外れかけていないかよく確かめろ、落ちかけた物は糊でしっかり貼り付けろ!」
 元締めは細かな指示を出すが、労働者達は反発する様子も無く、黙々と荷物の点検を進めていく。
「お前はこれを持て、ボスウェリア卿に返す楽器だ、落とすなよ」
 オルドは震える様に頷きながら、細長い箱を受け取る。
「よし、行くぞ」
 元締めは何らかの箱を背負うと歩きはじめ、オルドはそれに付き従った。
 二人は大通りを逸れ、少し細い道を進みながら都市の端へと進む。職業案内所から帝都側の入り口までに距離が有った為か、目的地に着く頃にはすっかり日が高くなっていた。
「配達請負人のトロイだ、ボスウェリア卿にヴァイオリンとオートマタを届けに来た」
 二人が辿り着いたのはとある三階建ての建物で、玄関先に立つ若い男は用件を聞くなり二人を扉の奥に通した。
「お待ちしておりました、配達請負人殿。お荷物はわたくしがお預かりしますので、こちらに」
 白いエプロンと手袋の女中は玄関広間の机に二人を案内する。
「受取証の署名を貰えるか」
「はい」
 女中は机の小箱からペンを取り出し、元締めが差し出した小さな帳面に署名し、ページの間に一枚の紙きれを挟んで返す。
「いつもありがとうございます。卿によろしく伝えて……」
 元締めは言葉を言いかけ、階段を下りてくる二人の男に気付く。
「あら、お客様がお帰りの様ですわ」
 階段を下りてきたのは、依頼主と客人だったが、その客人を見たオルドは目を丸くした。
「おぉ、荷物が来ていたのか」
 依頼主は足早に階段を降り、元締めの前に立つ。
「いつもありがとうございます、トロイ殿」
「いえ、こちらこそ毎度ありがとうございます」
「新作のオートマタが完成したら、帝都への配送をまた頼みますよ」
「はい、いつでもご依頼下さい。では、失礼します」
 元締めが頭を下げるのに合わせ、オルドも頭を下げ、元来た道を引き返した。
「次は自動打鍵器を引き取りに行く。お前は自動打鍵のディスクを持ってくれ、軽い物では無いが、頼んだぞ」
「はい!」
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