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第一章 よろこべ、これが異世界だ!
13.第三都市カリキ:活版印刷工房にて
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「魔獣退治屋、か」
オルドが倉庫で地道な作業をしていた頃、エステレラはハーブティーを淹れていた。
エステレラはメテオーロが生まれた一族の傍系になる半エルフで、メテオーロの一族が西方へと旅立った後、その一族が残した伝承や歴史を書籍として後世に残すべく街に出た。今ではエルフ語の活版印刷を手掛ける数少ない工房の主であり、その翻訳も請け負っている。そんな彼はメテオーロにとって残された数少ない縁者の一人であり、大陸中央方面を訪ねた折には必ず面会している相手でもある。
「ついこの前まで手形なんぞ要らなかったのが、今日日この有様……魔獣騒動の影響で浮浪者が増え続けている所為だろう?」
「あぁ。この数日も、あちこちの村で魔獣の襲撃が起こったと、帝都に伝令が走っている。このふた月ほど、どうやら凶暴化が進んでいるらしい。それこそ、南大陸との中継地点に在る小島にも出没する様になって、そっちの島民が武器を買いに来た事もある、帝都よりは安いだろうから、と」
エステレラは肩を竦めた。
「東大陸の話は聞いているか?」
「東大陸はこの大陸とは別の種類の魔獣、あちらではアヤカシと呼ばれている、得体の知れぬ物を見たという話が幾つも上がっていると聞く。こちらの様に襲撃された例は少ないが、既に人死にが出ているそうだ」
話を聞き、メテオーロは眉を顰めた。
「それがこっちに流れてくるって事は」
「有るかもしれないな。一説によれば、東大陸のアヤカシとやらは人に取りついて移動するらしい」
「それが事実だとしたら、東側からの入国制限に踏み切りそうだな」
「尤も、それを実行したら東大陸からの輸入品はすべて途絶、東大陸が出資する運河整備は危険な暴れ川の整備も含めた堤防整備まで包括されているし、南大陸からの品もかなり途切れることになるだろう。ただでさえ今の工程は南大陸の先住民を奴隷にしようとして、島嶼海軍に懲らしめられているわけだし」
「ちょっと待て、奴隷の話は聞いた事が無いぞ?」
「あぁ、これは最近の話だよ。この数年、人間の村の農地は痩せて不作気味らしいのだが、連作による土地の枯渇を開墾で補おうとして、どっかの領主数名が画策した計画に帝国軍が乗ってしまったんだ。それこそ、東側の農業技術者を呼べば、時間はかかっても枯渇した土地の回復とその間の作付けについて知恵を貸してもらえるはずなのだが……どうも純粋な人間というのは、寿命が短い所為か恐ろしく短絡的だ」
「まったくだな……」
メテオーロは呆れかえって呟き、出されたハーブティーを飲んだ。
「無理に開墾をしても、山を削ってしまえば今度は山の資源を失うことになるという事にも気付かぬようで……東側も同じ様に連作による土地の枯渇を経験し、その克服をしているというのに……よほど東側には頼りたくないらしい」
「それで、島嶼海軍は何をした?」
「南大陸は奴隷狩りの一方を受けて海峡封鎖に乗り出し、島嶼海軍は迂回路の狭い海路を塞ぎ、軍艦を座礁させるように仕向けていたとか。尤も、航海士も馬鹿じゃあないんで、座礁して放り出されれば野蛮な原住民に食われると言って引き返したそうだ……まあ、海軍に参加する様な島の住民は食人による奇病を理解しているんで、取って食うような真似はしないんだがな」
苦笑いを浮かべるエステレラにメテオーロは再び溜息を吐いた。
「傲慢極まりないな、帝国の人間どもは……」
「それこそ、君の様な純血のエルフからしたら、人間こそ劣っている様に見えるかもしれないな」
「別に優劣をつけるつもりは無いが……数が多い分、俺達には想像もつかねえほどのとんでもねぇ馬鹿が居るとは思うぜ」
「しかもそれが皇帝へーかだ」
笑うしかなくなり、メテオーロは引き攣った笑いを浮かべた。
「あぁ、そろそろ石鹸を引き取りにお客が来るんだった」
エステレラは資料を詰め込んだ棚の一角から何かの包みを取り出す。
「此処に客は通さない、倉庫の仕事が終わるまではゆっくりしていってくれ」
エステレラはその包みを机に出して広げる。その中に有ったのは、質素な保存食の様な焼き菓子だった。
「今は副業の方が儲かってるんじゃないのか?」
「インクの汚れ落としはいろいろと応用できるからね、作ってくれた錬金術師に感謝しなきゃ……とはいえ、彼女は研究熱心な割に、女ってだけで出世できなくて不憫だし、いっそ石鹸屋を作ろうかと悩んでるよ」
苦笑しながらエステレラは石鹸の包みを取り出した。
オルドが倉庫で地道な作業をしていた頃、エステレラはハーブティーを淹れていた。
エステレラはメテオーロが生まれた一族の傍系になる半エルフで、メテオーロの一族が西方へと旅立った後、その一族が残した伝承や歴史を書籍として後世に残すべく街に出た。今ではエルフ語の活版印刷を手掛ける数少ない工房の主であり、その翻訳も請け負っている。そんな彼はメテオーロにとって残された数少ない縁者の一人であり、大陸中央方面を訪ねた折には必ず面会している相手でもある。
「ついこの前まで手形なんぞ要らなかったのが、今日日この有様……魔獣騒動の影響で浮浪者が増え続けている所為だろう?」
「あぁ。この数日も、あちこちの村で魔獣の襲撃が起こったと、帝都に伝令が走っている。このふた月ほど、どうやら凶暴化が進んでいるらしい。それこそ、南大陸との中継地点に在る小島にも出没する様になって、そっちの島民が武器を買いに来た事もある、帝都よりは安いだろうから、と」
エステレラは肩を竦めた。
「東大陸の話は聞いているか?」
「東大陸はこの大陸とは別の種類の魔獣、あちらではアヤカシと呼ばれている、得体の知れぬ物を見たという話が幾つも上がっていると聞く。こちらの様に襲撃された例は少ないが、既に人死にが出ているそうだ」
話を聞き、メテオーロは眉を顰めた。
「それがこっちに流れてくるって事は」
「有るかもしれないな。一説によれば、東大陸のアヤカシとやらは人に取りついて移動するらしい」
「それが事実だとしたら、東側からの入国制限に踏み切りそうだな」
「尤も、それを実行したら東大陸からの輸入品はすべて途絶、東大陸が出資する運河整備は危険な暴れ川の整備も含めた堤防整備まで包括されているし、南大陸からの品もかなり途切れることになるだろう。ただでさえ今の工程は南大陸の先住民を奴隷にしようとして、島嶼海軍に懲らしめられているわけだし」
「ちょっと待て、奴隷の話は聞いた事が無いぞ?」
「あぁ、これは最近の話だよ。この数年、人間の村の農地は痩せて不作気味らしいのだが、連作による土地の枯渇を開墾で補おうとして、どっかの領主数名が画策した計画に帝国軍が乗ってしまったんだ。それこそ、東側の農業技術者を呼べば、時間はかかっても枯渇した土地の回復とその間の作付けについて知恵を貸してもらえるはずなのだが……どうも純粋な人間というのは、寿命が短い所為か恐ろしく短絡的だ」
「まったくだな……」
メテオーロは呆れかえって呟き、出されたハーブティーを飲んだ。
「無理に開墾をしても、山を削ってしまえば今度は山の資源を失うことになるという事にも気付かぬようで……東側も同じ様に連作による土地の枯渇を経験し、その克服をしているというのに……よほど東側には頼りたくないらしい」
「それで、島嶼海軍は何をした?」
「南大陸は奴隷狩りの一方を受けて海峡封鎖に乗り出し、島嶼海軍は迂回路の狭い海路を塞ぎ、軍艦を座礁させるように仕向けていたとか。尤も、航海士も馬鹿じゃあないんで、座礁して放り出されれば野蛮な原住民に食われると言って引き返したそうだ……まあ、海軍に参加する様な島の住民は食人による奇病を理解しているんで、取って食うような真似はしないんだがな」
苦笑いを浮かべるエステレラにメテオーロは再び溜息を吐いた。
「傲慢極まりないな、帝国の人間どもは……」
「それこそ、君の様な純血のエルフからしたら、人間こそ劣っている様に見えるかもしれないな」
「別に優劣をつけるつもりは無いが……数が多い分、俺達には想像もつかねえほどのとんでもねぇ馬鹿が居るとは思うぜ」
「しかもそれが皇帝へーかだ」
笑うしかなくなり、メテオーロは引き攣った笑いを浮かべた。
「あぁ、そろそろ石鹸を引き取りにお客が来るんだった」
エステレラは資料を詰め込んだ棚の一角から何かの包みを取り出す。
「此処に客は通さない、倉庫の仕事が終わるまではゆっくりしていってくれ」
エステレラはその包みを机に出して広げる。その中に有ったのは、質素な保存食の様な焼き菓子だった。
「今は副業の方が儲かってるんじゃないのか?」
「インクの汚れ落としはいろいろと応用できるからね、作ってくれた錬金術師に感謝しなきゃ……とはいえ、彼女は研究熱心な割に、女ってだけで出世できなくて不憫だし、いっそ石鹸屋を作ろうかと悩んでるよ」
苦笑しながらエステレラは石鹸の包みを取り出した。
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