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序章 転生したのに、なんで不幸なんですか
6.二度目の転生は農家の娘で殺されました
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やや寒冷で乾燥した気候のノードオースト王国は決して豊かな国では無かったが、鉱物資源に恵まれていた。歴代の王家は鉱物資源を武器に堅実で聡明な治世に努め、この数年間、隣国を脅かした黒死病の蔓延を食い止める事にも成功していた。
だが、この数年間は凶作も多く、国内情勢は決して安定していなかった。それでも王家は食糧増産に向けた政策を進め、新大陸からもたらされた芋の試験栽培や麦の交配実験に注力している。その為、農家には新たな作物を植えるべく開墾の命令が下され、豪農達は小作人だけでは賄いきれない労力を、奉公に出される商家の末息子や、孤児院から職能訓練の体で呼び寄せた子供達により賄っていた。
ゴールトスト家も例外なく多忙で、孤児院から健康な子供を引き取って手伝いに当たらせていた。
(こんなに小さな子供まで……)
末娘のレルヒェは小作人達の昼食の準備を手伝っていたが、休憩に戻ってきた若者に交じって年端も行かない子供が働いている事に胸を痛めていた。だが、試験栽培で割り当てられた雑穀の栽培に成功していたゴールトスト家には食用可能な穀物の備蓄が多く、労働力として呼ばれた子供達は孤児院に居るよりも多くの食事にありつけていた。
とはいえ、小さな子供達が労働力となっている事を、子供達が労働力でない世界を知っているレルヒェは不憫に思った。そしてレルヒェは仕事の合間を見つけては子供達に読み書きを教え、仕事をしながら簡単な計算を教えてやるようになった。やがて、下働きの子供達の為にも尽くすレルヒェの評判は広まり、縁談が舞い込んできた。それは隣村の豪農ヴァクストーム家の長男との縁談話で、誰もがうらやむ豪農一族同士の結婚だった。
こうして十五歳になったレルヒェはヴァクストーム家の長男と結婚し、婚家でもよく働いた。しかし、その頃ノードオースト王国では悪しき魔女の噂が広まり、罪の無い女性達が次々と魔女裁判にかけられていた。魔女と呼ばれた女性達はみな敬虔な信仰心を持つ貞淑な女性だったが、神の奇跡とされる病気治療を行ったとして裁かれていたのだ。しかし、彼女達は深い信仰心に基づく慈愛を持って、病気に苦しむ家族の為に薬草の使い方を求め、古い時代に行われていた治療法を再現しようとしていただけだった。
ヴァクストーム家に嫁いだレルヒェもまた、幼い頃から教えられていた神への信仰とそれに基づく慈愛、そして、別の肉体で生きていた頃の記憶に基づく子供達への施しの心を持ち、小作人達の傷や患いを少しでも助けようと書物を読み、薬草の使い方を覚えていた。だが、その行いはやがて、同じく敬虔な信仰心を持つ婚家の姑や舅の猜疑心を掻き立ててしまった。
そしてある日、春が近づく中で保存食の肉が腐敗し始めた頃の事だった。年の離れた夫の妹が腐った肉を原因とする食あたりに遭い、酷く苦しむ事になってしまった。レルヒェは食あたりに効果が有るとされる薬草の干したものを作っており、すぐに義理の妹にそれを煎じて飲ませた。幸いにして症状はすぐに収まったが、その経緯を知った夫は激怒し、レルヒェと妹を連れて教会に走った。
「あぁ、神よ、懺悔いたします、私の妻が魔女でした! その魔女の悪しき術にかかった我が妹をお助け下さい!」
妹はその言葉を否定する事が出来なかった。自分を助けてくれた義理の姉を守りたいと思いながらも、此処でレルヒェが魔女である事を否定すれば、自分もまた殺されてしまう事を知っていたのだ。
「そんな……そんな!」
何度も平手打ちを受け、殴られ、体中を痣だらけにしたレルヒェは絶望のまま崩れ落ちた。しかし、その絶望は始まりに過ぎなかった。程無くしてヴァクストーム家の主人とその妻が、鎌と棍棒を持って教会に現れたのだ。
「魔女を縛り上げろ!」
主人の叫びにレルヒェの夫はすぐさま傷だらけのレルヒェを縛り上げ、司祭の演説台に縛り付けた。抵抗しようと声を上げればそれだけレルヒェは棍棒で打たれ、遂に抵抗する事を諦めた。
やがて隣村に住むレルヒェの両親が、村の教会で借り受けた銀のナイフと聖なる紋章の入った木槌を持ってやって来た。
「この様な魔女を産み育ててしまったのはわたくしでございます、その責任は、わたくしがとります!」
レルヒェの母親は銀のナイフを振り上げた。レルヒェは絹を裂く様な悲鳴を上げるが、すぐに悲鳴を上げる事の出来ない状態にされた。母親のナイフはその細い腕からは考えられないほどの勢いで振り下ろされ、レルヒェの脳天を貫いたのだ。
「二度と蘇らないよう、心臓を貫き、首を切り落とせ!」
ヴァクストーム家の主人の怒号に合わせ、レルヒェの父親は動く事の出来なくなったレルヒェを床に横たわらせると、レルヒェの夫に杭を手渡し、聖なる紋章の入った木槌を振り下ろした。
「蘇ったりしたら、承知しないぞ、この魔女が!」
ヴァクストーム家の主人は渾身の怒りを込め、一番切れ味の良い鎌をレルヒェの首にかけ、その死を確実な物とする。
「何をしているの、あなたも手伝いなさい!」
ヴァクストーム家の夫人は主人から鎌を受け取り、息子を怒鳴りつけた。そして二人はレルヒェの四肢と胴体を切り離し、教会の裏に在る沼地の傍でそれを火にかけた。それは火葬ではなく、形式的な火刑で、燃料に乏しい炎はすぐに消えてしまったが、言い様の無い刺激臭がその場に居合わせる者の鼻を突いた。
「沼に捨てなさい」
ヴァクストーム家の夫人の言葉に、主人と息子、そしてレルヒェの父親は無残に壊れた亡骸を有毒な藻の浮かぶ沼へと放り込んだ。
だが、この数年間は凶作も多く、国内情勢は決して安定していなかった。それでも王家は食糧増産に向けた政策を進め、新大陸からもたらされた芋の試験栽培や麦の交配実験に注力している。その為、農家には新たな作物を植えるべく開墾の命令が下され、豪農達は小作人だけでは賄いきれない労力を、奉公に出される商家の末息子や、孤児院から職能訓練の体で呼び寄せた子供達により賄っていた。
ゴールトスト家も例外なく多忙で、孤児院から健康な子供を引き取って手伝いに当たらせていた。
(こんなに小さな子供まで……)
末娘のレルヒェは小作人達の昼食の準備を手伝っていたが、休憩に戻ってきた若者に交じって年端も行かない子供が働いている事に胸を痛めていた。だが、試験栽培で割り当てられた雑穀の栽培に成功していたゴールトスト家には食用可能な穀物の備蓄が多く、労働力として呼ばれた子供達は孤児院に居るよりも多くの食事にありつけていた。
とはいえ、小さな子供達が労働力となっている事を、子供達が労働力でない世界を知っているレルヒェは不憫に思った。そしてレルヒェは仕事の合間を見つけては子供達に読み書きを教え、仕事をしながら簡単な計算を教えてやるようになった。やがて、下働きの子供達の為にも尽くすレルヒェの評判は広まり、縁談が舞い込んできた。それは隣村の豪農ヴァクストーム家の長男との縁談話で、誰もがうらやむ豪農一族同士の結婚だった。
こうして十五歳になったレルヒェはヴァクストーム家の長男と結婚し、婚家でもよく働いた。しかし、その頃ノードオースト王国では悪しき魔女の噂が広まり、罪の無い女性達が次々と魔女裁判にかけられていた。魔女と呼ばれた女性達はみな敬虔な信仰心を持つ貞淑な女性だったが、神の奇跡とされる病気治療を行ったとして裁かれていたのだ。しかし、彼女達は深い信仰心に基づく慈愛を持って、病気に苦しむ家族の為に薬草の使い方を求め、古い時代に行われていた治療法を再現しようとしていただけだった。
ヴァクストーム家に嫁いだレルヒェもまた、幼い頃から教えられていた神への信仰とそれに基づく慈愛、そして、別の肉体で生きていた頃の記憶に基づく子供達への施しの心を持ち、小作人達の傷や患いを少しでも助けようと書物を読み、薬草の使い方を覚えていた。だが、その行いはやがて、同じく敬虔な信仰心を持つ婚家の姑や舅の猜疑心を掻き立ててしまった。
そしてある日、春が近づく中で保存食の肉が腐敗し始めた頃の事だった。年の離れた夫の妹が腐った肉を原因とする食あたりに遭い、酷く苦しむ事になってしまった。レルヒェは食あたりに効果が有るとされる薬草の干したものを作っており、すぐに義理の妹にそれを煎じて飲ませた。幸いにして症状はすぐに収まったが、その経緯を知った夫は激怒し、レルヒェと妹を連れて教会に走った。
「あぁ、神よ、懺悔いたします、私の妻が魔女でした! その魔女の悪しき術にかかった我が妹をお助け下さい!」
妹はその言葉を否定する事が出来なかった。自分を助けてくれた義理の姉を守りたいと思いながらも、此処でレルヒェが魔女である事を否定すれば、自分もまた殺されてしまう事を知っていたのだ。
「そんな……そんな!」
何度も平手打ちを受け、殴られ、体中を痣だらけにしたレルヒェは絶望のまま崩れ落ちた。しかし、その絶望は始まりに過ぎなかった。程無くしてヴァクストーム家の主人とその妻が、鎌と棍棒を持って教会に現れたのだ。
「魔女を縛り上げろ!」
主人の叫びにレルヒェの夫はすぐさま傷だらけのレルヒェを縛り上げ、司祭の演説台に縛り付けた。抵抗しようと声を上げればそれだけレルヒェは棍棒で打たれ、遂に抵抗する事を諦めた。
やがて隣村に住むレルヒェの両親が、村の教会で借り受けた銀のナイフと聖なる紋章の入った木槌を持ってやって来た。
「この様な魔女を産み育ててしまったのはわたくしでございます、その責任は、わたくしがとります!」
レルヒェの母親は銀のナイフを振り上げた。レルヒェは絹を裂く様な悲鳴を上げるが、すぐに悲鳴を上げる事の出来ない状態にされた。母親のナイフはその細い腕からは考えられないほどの勢いで振り下ろされ、レルヒェの脳天を貫いたのだ。
「二度と蘇らないよう、心臓を貫き、首を切り落とせ!」
ヴァクストーム家の主人の怒号に合わせ、レルヒェの父親は動く事の出来なくなったレルヒェを床に横たわらせると、レルヒェの夫に杭を手渡し、聖なる紋章の入った木槌を振り下ろした。
「蘇ったりしたら、承知しないぞ、この魔女が!」
ヴァクストーム家の主人は渾身の怒りを込め、一番切れ味の良い鎌をレルヒェの首にかけ、その死を確実な物とする。
「何をしているの、あなたも手伝いなさい!」
ヴァクストーム家の夫人は主人から鎌を受け取り、息子を怒鳴りつけた。そして二人はレルヒェの四肢と胴体を切り離し、教会の裏に在る沼地の傍でそれを火にかけた。それは火葬ではなく、形式的な火刑で、燃料に乏しい炎はすぐに消えてしまったが、言い様の無い刺激臭がその場に居合わせる者の鼻を突いた。
「沼に捨てなさい」
ヴァクストーム家の夫人の言葉に、主人と息子、そしてレルヒェの父親は無残に壊れた亡骸を有毒な藻の浮かぶ沼へと放り込んだ。
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