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序章 転生したのに、なんで不幸なんですか
5.いきなりリスポーンは傷だらけで崖の下
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急な傾斜の先にある小川のほとり、一人の少女が体を起こした。
「悪いのう。何分この娘、この崖から落ちよったもので、おかしな所にリスポーンさせてしまった」
少女の目の前に居るのは、艶やかなのに禍々しい黒髪と、満月にも似た狼の様な琥珀色の瞳を持つ女。
「あなたは……もしかして、神様?」
「いかにも。思い出したか?」
少女は小さく頷いた。この少女の人生としてではないが、目の前の存在は確かに何処かで出会った存在だった。
「それで、その、此処は……」
「ノードオースト王国、今はゲールト三世七年の八月じゃ」
少女はおそらく自分が落ちてきたのであろう崖の上を見上げる。
「私は……あの上から落ちてきたの?」
「ああ、随分な距離を落ちた様じゃな。とはいえ、手頃な死体に変わりは無かった。私の蘇生技術も、この前よりはマシになったしのう」
「蘇生、技術……」
少女は眉を顰めながら、神々しくも禍々しい女に目を移す。
「この前はまだ、死にかけた人間をどうにかする事しか出来んかったが、ほぼ死んだも同じ人間を、動ける状態にまで戻す事は出来る様になったのじゃ」
少女は違和感を覚える後頭部に触れる。嫌な湿り気とぬめりが、透き通る様に白い指先を汚した。
「その体の主は、この一帯でも指折りの豪農ゴールトスト家の三女レルヒェ、この崖から落ちて、本来なら死んでいた娘じゃ」
少女はその人生ではない人生で感じていた、女である事を恨み男に生まれた事を喜んだ事を思い出し、また女になってしまった事を残念に思う。だが、仮令その地域では珍しい物では無いとしても、美しい黄金色の巻き毛と透き通る緑色の瞳は、申し分ない容姿を織りなしていた。
「せっかく男になれたと思ったのに、また女になっちゃったんだ」
「仕方があるまい。とはいえ、女の体の扱いには慣れておるのじゃろ? 別に女に生まれたとて、それなりの家に嫁げば食うに困る事はそうそう無い。開き直って女の幸せを追求してもいいのではないか?」
「女の幸せ、ねぇ」
少女は、その肉体では無い肉体で生きていた頃の事に思いを馳せる。仕事に追われ、捨てられずに山積してゆくゴミの隙間で僅かな睡眠を得ながら、借金の返済にまで追い立てられる日々の事を思い出す。其処には女としての幸せなど存在していなかった。恋愛に奥手だった事が災いし、過酷な労働の中に男女の交際をする機会を失い、女である事を恨んだままその肉体は死んでしまった。
「……悪くないのかな、この世界なら、女でも」
「あぁ、悪くは無い。どんなに落ちぶれようが、この世界なら売春婦とて立派な職業、女の方が楽に生きていける」
「そっか……」
「せいぜい、今度は幸せになるがいい」
黒髪の女は少女を蹴り倒して姿を消した。程無くして、少女を探していた若い小作人が、崖の下へと降りてゆく。
「居ました! 居ましたよ! お嬢様はこちらです!」
「悪いのう。何分この娘、この崖から落ちよったもので、おかしな所にリスポーンさせてしまった」
少女の目の前に居るのは、艶やかなのに禍々しい黒髪と、満月にも似た狼の様な琥珀色の瞳を持つ女。
「あなたは……もしかして、神様?」
「いかにも。思い出したか?」
少女は小さく頷いた。この少女の人生としてではないが、目の前の存在は確かに何処かで出会った存在だった。
「それで、その、此処は……」
「ノードオースト王国、今はゲールト三世七年の八月じゃ」
少女はおそらく自分が落ちてきたのであろう崖の上を見上げる。
「私は……あの上から落ちてきたの?」
「ああ、随分な距離を落ちた様じゃな。とはいえ、手頃な死体に変わりは無かった。私の蘇生技術も、この前よりはマシになったしのう」
「蘇生、技術……」
少女は眉を顰めながら、神々しくも禍々しい女に目を移す。
「この前はまだ、死にかけた人間をどうにかする事しか出来んかったが、ほぼ死んだも同じ人間を、動ける状態にまで戻す事は出来る様になったのじゃ」
少女は違和感を覚える後頭部に触れる。嫌な湿り気とぬめりが、透き通る様に白い指先を汚した。
「その体の主は、この一帯でも指折りの豪農ゴールトスト家の三女レルヒェ、この崖から落ちて、本来なら死んでいた娘じゃ」
少女はその人生ではない人生で感じていた、女である事を恨み男に生まれた事を喜んだ事を思い出し、また女になってしまった事を残念に思う。だが、仮令その地域では珍しい物では無いとしても、美しい黄金色の巻き毛と透き通る緑色の瞳は、申し分ない容姿を織りなしていた。
「せっかく男になれたと思ったのに、また女になっちゃったんだ」
「仕方があるまい。とはいえ、女の体の扱いには慣れておるのじゃろ? 別に女に生まれたとて、それなりの家に嫁げば食うに困る事はそうそう無い。開き直って女の幸せを追求してもいいのではないか?」
「女の幸せ、ねぇ」
少女は、その肉体では無い肉体で生きていた頃の事に思いを馳せる。仕事に追われ、捨てられずに山積してゆくゴミの隙間で僅かな睡眠を得ながら、借金の返済にまで追い立てられる日々の事を思い出す。其処には女としての幸せなど存在していなかった。恋愛に奥手だった事が災いし、過酷な労働の中に男女の交際をする機会を失い、女である事を恨んだままその肉体は死んでしまった。
「……悪くないのかな、この世界なら、女でも」
「あぁ、悪くは無い。どんなに落ちぶれようが、この世界なら売春婦とて立派な職業、女の方が楽に生きていける」
「そっか……」
「せいぜい、今度は幸せになるがいい」
黒髪の女は少女を蹴り倒して姿を消した。程無くして、少女を探していた若い小作人が、崖の下へと降りてゆく。
「居ました! 居ましたよ! お嬢様はこちらです!」
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