幻の宿

詩方夢那

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大禍時

幕間 記録

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(夕刻五時頃からの記録)
 二階へ上がっている途中、友人とはぐれるという理解の出来ない状況が生じた。
 午後五時前の事だろうか。
 同じ階段を上ったはずなのに、気が付くと友人とはぐれ、私は絵描きらしい婿養子という男性と三階に行く事になっていた。
 そう、あの水彩画の画廊だ。
 だが、その水彩画が、経年劣化して見えたのが、実に薄気味悪い。
 私が見た時には、確かに美しい状態であったし、もっと明るい状態でそれを見たというのに。

 その後、二階の部屋に戻った所で友人と合流したが、友人は“出っ歯の骨董商”と話したという。
 そして、私が話をした婿養子という男性は知らないという。
 二人して同じ神楽面を見ているというのに……。

 そんな、私の腕時計で午後六時を過ぎた頃、夕食の支度が整ったと、初めて顔を見る仲居さんが部屋にやって来た。
 私と友人が宿泊しているのは二階・竜胆の間。三階は菊の間、四階は蓮の間となっている。
 仲居さんは私と同じくらいの年頃。ただ、少々不思議な事に、その仲居さんは日本髪の様な結い方で髪を結っていた。例えるなら、京都の舞妓さんだ。

 料理は精進料理であるが、印象としては仏前のお供えの様な印象。
 だが、妙な事に、雑穀ご飯がカビた様にすえた臭いで、とても食べられない。
 他の料理も、古い家屋の奥の様な臭いがして、とても箸が付けられない。
 友人に言わせると、全体的に“雨上がりの山奥の臭い”だという……。 
 
 午後六時過ぎ現在、激しい雷雨が続いている。


(腕時計で午後十時)
 二階・竜胆の間に、私と友人、ジャングル・ウォーカーズの四名が集まっている。
 
 午後六時を過ぎた頃、三階・菊の間で傷害事件が起こった。
 被害者は仲居の女性。加害者は宿泊客の男(見覚えのある女性と連れ立っていた男)
 男はお膳で仲居さんを殴っており、悲鳴を聞いたジャングル・ウォーカーズの方々が駆け付け、その騒ぎで私達も三階へと足を踏み入れた。
 仲居さんは血を流す程の怪我をしていたが、タヌさんが呼んできた女将さんはその仲居さんをぶった。
 口ぶりからして、どうも、その仲居さんは春をひさぐ事もしているらしいが、よく分からない。
 また、恐ろしい事に、加害者の男の姿が消えている。何処に居るか、誰にも分からないが、ジャングル・ウォーカーズの方々の気が付いた時にはもう居なかったらしい。
 それ故、女二人だけで居るのは危ないからと、同じ部屋に籠城する事になった。

 更によく分からないのが、あの女の人。
 目の前で女性を殴る様な男がいつ戻ってくるか分からないと言うのに、私達と一緒に居る事を拒んだ。
 それどころか、悲しげな様に見えたが、酷く不機嫌そうでもあり、不可解だ。
 
 雨はまだ止まない。
 それどころか、次第に強まっている様にすら思う。
 また、一時は遠のいていた雷も、また音を立て始めた。
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