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Recitative: Requiem for Past

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 楽曲のプロデューサーには、プリズム・オブ・サインを手掛けたベテランが協賛という形で就任し、ウェブメディアは伝説のロックバンドが蘇る、新進気鋭の劇団主催のロックミュージカルとイベントを取り上げた。
「面倒事はクビになったし、なんかデモテープでも作るか?」
「そう……だね」
 コンビニエンスストアの駐車場に車を止め、ドライソーセージを手に二人の男は律子を待っていた。
「ところで……あの子、雇うの?」
「どうしても行くあてが無いなら、若い仲居は歓迎だろうけど……古株の仲居と折り合えずに、夏休みのバイトでさえ一週間持たないから、勧めはしないが……戻って来たみたいだな」
 手にしていた袋を助手席の天津に押し付け、星野は座席を適当な位置に戻した。
「早かったな」
「そう、ですか?」
「あぁ」
「まあ、完成した原稿のデータをお渡しして、変更の反映された契約書を貰って来ただけですから……」
「そう、か」
 シートベルトの止まる音を確かめると、星野もまたシートベルトを止める。
「それで、納得のいく金は貰える事になってるのか?」
「え……」
 律子はバックミラーを見るが、星野の表情は覗えない。
「原案提供って事は、この先アンタのアイディアは反映されないんだろ?」
「それも込みで、それなりの額は、受け取る予定ですけど……」
「そうか」
 ゆっくりと車体は出口に向かい、車の隙間へと進みでて車道に入る。
「あの……」
 律子は徐に切り出した。
「ところで、その、仲居さんの件……私、旅館に住み込みで働くと言って家を出たんですけど、天野さんの所で御厄介になっていた期間、誤魔化してもらえるんでしょうか」
「は?」
「何かのはずみで、給与明細とか、ばれても困るんですけど」
「まぁ、寮に空きが無かったから、若旦那の家の離れに間借りをしていたとでも言えばいいんだが……」
「そう、ですか……それで、その、いつから働くんでしょう。私は……今すぐでも、良いんですが」
 星野は苦笑いを浮かべ、停止線を見て減速する。
「確かに、うちの旅館は万年人手不足ではあるけど……古株の仲居と偏屈な板前が定年するまでは、気軽に働いてくれと言えたもんじゃなくてな……古株と家内がぶつかるのが目に見えてたから、山の中にあったじいさんの家のリフォーム頼み込んで別居して、未だに自力であちこち補修して住んでる有様だし、子供が生まれてからはあの偏屈なおっさんが何を言うかするか分かったもんじゃねぇから、経理事務以外の仕事はさせてない始末でな……」
 律子は目を伏せた。
「でも……今からすぐに部屋を借りて暮らしていけるだけの仕事なんて見つからないです……水商売にしたって、五百円のファンデーションと三百円のマニキュアじゃ勤められないですし……脚本のお金は公演の後に貰うし……」
「別に、公演が終わるまで居候したところで、コイツは独り身だし、アンタさえよけりゃ無理に旅館で働かずとも、別に寮のある仕事を探すくらい出来そうだがな」
「でも」
「何なら、本当にうちの離れに来てもいいんだぜ? 尤も、恐ろしく山の中で、隙間風が吹き抜けるがな。農機具さえ気にならなきゃ、悪くはないと思うが」
 信号が変わり、緩やかに車体は加速する。
 そんな声の消えた車内で、天津は僅かに目を伏せていた。
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