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番外編3:森のくまさん夏野菜シチュー
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温室の苺がジャムとシロップになったかと思えば木苺の収穫が近づいていた、梅雨のある日。
まかないの冷製パスタを食べようとケフリーが地下へ向かったところ、連絡通路の扉が開いた。
「あ、くまちゃん!」
姿を見せたのは、金髪の男と、茶髪の男。それぞれ、その頭にはクマの耳があった。
「ケフリーだ」
「おはよう」
「いや、もうお昼もとっくに過ぎてるけど……どうし」
扉の奥から持ち込まれた籠にケフリーは言葉を切った。
「……なにそれ」
「かぼちゃとオクラとトマトとピーマンと……」
「要するに夏野菜」
茶髪の男はナスとピーマンのたっぷり詰め込まれた籠を廊下に下ろす。
「いや、それは分かるんだけどさ、クーヘン……別に、野菜、頼んでなかったよね」
「沢山取れたからおすそわけ」
「いや、そんなにたくさんいらないよ!」
金髪の男は更に籠を廊下へと下ろす。
「要らないって言われても僕達もこんなに要らないから」
「いや、そんないっぺんに持ってこられても困るってアウルム……」
「あら、お客さん?」
厨房の仕事を切り上げたミーリャは、地価の廊下に並ぶ籠に首を傾げて問いかけた。
「あ、ミーリャ。クーヘンとアウルムが来てるんだ……山盛りの野菜持って」
「あら、良いわねぇ」
ミーリャは籠のかぼちゃをひとつ手に取り、何を作ろうかと呟く。
「くまちゃん達は何がいい?」
「シチュー」
「え」
同時に帰ってきた言葉に、ミーリャは思わず首を傾げた。
「どうして?」
「雨降ったら寒い」
「冷房点けると寒い」
ミーリャは黙って籠の野菜を見遣る。
「……じゃ、明日のまかないはトマトシチューね」
「え、トマトシチューにするの?」
目を丸くして問い掛けたのはケフリーだった。
「そ、そうよ」
「それ、ミネストローネと何が違うの?」
「ミネストローネにはミルク入れないでしょ?」
「ミルクとトマト一緒にするの!」
ケフリーは信じられないと言わんばかりにミーリャへと詰め寄った。
「……ケフリー、トマトとミルクの組み合わせ、嫌い?」
「嫌い」
「何がどう嫌いとか、ある?」
「折角ミルク甘いのに、なんでトマトで酸っぱくするのか分かんない!」
これが猫の味覚かと思いながら、ミーリャは苦笑いを浮かべた。
「分かったわ。トマトはペンネにでもするわね」
「うん。でも……夏にシチューって言うのが、やっぱ分からないな。好きだけど……それじゃ、僕はご飯食べてくるね」
ケフリーの言葉に、アウルムとクーヘンは顔を見合わせた。
「二人の分も何か作るわ」
「ありがと」
「ところでミーリャ」
クーヘンは首を傾げて問いかけた。
「さっき、明日のまかないって言ったけど……シチュー、明日作るの?」
「そうよ」
「じゃあ、僕達はどうすればいいの」
「そうねー……屋上の菜園の手入れでもしてちょうだい。折角来てくれたんだし」
あっけらかんとしたミーリャの言葉に、クーヘンとアウルムは再び顔を見合わせた。
「それじゃ、野菜はこっちの倉庫に持ってきてくれる?」
二人は黙って籠を両手に持ち、ミーリャに従った。
まかないの冷製パスタを食べようとケフリーが地下へ向かったところ、連絡通路の扉が開いた。
「あ、くまちゃん!」
姿を見せたのは、金髪の男と、茶髪の男。それぞれ、その頭にはクマの耳があった。
「ケフリーだ」
「おはよう」
「いや、もうお昼もとっくに過ぎてるけど……どうし」
扉の奥から持ち込まれた籠にケフリーは言葉を切った。
「……なにそれ」
「かぼちゃとオクラとトマトとピーマンと……」
「要するに夏野菜」
茶髪の男はナスとピーマンのたっぷり詰め込まれた籠を廊下に下ろす。
「いや、それは分かるんだけどさ、クーヘン……別に、野菜、頼んでなかったよね」
「沢山取れたからおすそわけ」
「いや、そんなにたくさんいらないよ!」
金髪の男は更に籠を廊下へと下ろす。
「要らないって言われても僕達もこんなに要らないから」
「いや、そんないっぺんに持ってこられても困るってアウルム……」
「あら、お客さん?」
厨房の仕事を切り上げたミーリャは、地価の廊下に並ぶ籠に首を傾げて問いかけた。
「あ、ミーリャ。クーヘンとアウルムが来てるんだ……山盛りの野菜持って」
「あら、良いわねぇ」
ミーリャは籠のかぼちゃをひとつ手に取り、何を作ろうかと呟く。
「くまちゃん達は何がいい?」
「シチュー」
「え」
同時に帰ってきた言葉に、ミーリャは思わず首を傾げた。
「どうして?」
「雨降ったら寒い」
「冷房点けると寒い」
ミーリャは黙って籠の野菜を見遣る。
「……じゃ、明日のまかないはトマトシチューね」
「え、トマトシチューにするの?」
目を丸くして問い掛けたのはケフリーだった。
「そ、そうよ」
「それ、ミネストローネと何が違うの?」
「ミネストローネにはミルク入れないでしょ?」
「ミルクとトマト一緒にするの!」
ケフリーは信じられないと言わんばかりにミーリャへと詰め寄った。
「……ケフリー、トマトとミルクの組み合わせ、嫌い?」
「嫌い」
「何がどう嫌いとか、ある?」
「折角ミルク甘いのに、なんでトマトで酸っぱくするのか分かんない!」
これが猫の味覚かと思いながら、ミーリャは苦笑いを浮かべた。
「分かったわ。トマトはペンネにでもするわね」
「うん。でも……夏にシチューって言うのが、やっぱ分からないな。好きだけど……それじゃ、僕はご飯食べてくるね」
ケフリーの言葉に、アウルムとクーヘンは顔を見合わせた。
「二人の分も何か作るわ」
「ありがと」
「ところでミーリャ」
クーヘンは首を傾げて問いかけた。
「さっき、明日のまかないって言ったけど……シチュー、明日作るの?」
「そうよ」
「じゃあ、僕達はどうすればいいの」
「そうねー……屋上の菜園の手入れでもしてちょうだい。折角来てくれたんだし」
あっけらかんとしたミーリャの言葉に、クーヘンとアウルムは再び顔を見合わせた。
「それじゃ、野菜はこっちの倉庫に持ってきてくれる?」
二人は黙って籠を両手に持ち、ミーリャに従った。
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