辺境伯と幼妻の秘め事

睡眠不足

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訪れた変化 ☆

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「大好きなジュリアと一緒にいたら、触れたくなるのは当然だろう?」

 そう言う彼は何かに耐えているようで苦しそうだ。さっきから少し声が掠れているのも気になる。
 もしかして本当は自分を抱きたくないのに、無理をしているのではないかとジュリアは少し怖かった。

 彼は嘘をつかない。少なくともジュリアには。だから好きだという言葉を疑ってはいない。
 でも、自分が誘った時の彼の反応は、そうすることを望んでいるようには見えなかった。
 ニコラスはこの先を望んでいなかったのではないか。自分を女として想ってくれていても、今までは保護者として接していた彼が、それを望まなくても不思議はない。

 だから中断された時、このまま何も変わらない関係になってしまうのを恐れた。
 なのに触れたいと言われても、それが欲によるものだとは思えない。


「今まで、そんな素振りを見せなかったのに、急にそんなことを言われても」
「信用できないか」
「ちがっ! そうじゃなくて、実感が湧かないの」
「そりゃあ自分をごまかしていたからな。
 君を大切に思うのも、守りたいと思うのも、以前と同じ庇護欲だけだ、と」

 ニコラスは嘘をつかない。ただ、全てを教えてくれる訳ではないし、上手くごまかすことも多い。
 そのことはジュリアも承知している。
 彼自身をもごまかしていたのなら、自分が気付けないのは当然だ。だったら触れたいというのは本当なのだろうか。

「君は分かっていないだろうが、今の俺は少しでも気を抜くと抑えが利かなくなって君に酷いことをしてしまう。
 だから俺を煽らないように気を付けてくれ」
「酷い、こと?」
「そうだ。君がどんなに泣いて懇願しようとも構わずに続けて、もう閨事なんてしたくないと思うようなことだ」

 どのみち少し頼まれたくらいじゃ手を緩めないだろうがな、と呟く彼の目に宿る光をジュリアは見逃してしまった。それを見ていたら、もう少し慎重に言葉を選んだかもしれないのに。



「もう落ち着いたみたいだから、また少し触れるぞ」
「……はい」


 またあの感覚に翻弄されるのだろうか。少し身を固くしたジュリアだが、優しく口付けられ緊張が緩む。

「っ!」

 完全に力が抜けた時に舌が入ってきて少し驚いたが、これは話に聞いていたし覚悟も出来ていた。それにいきなり奥まで侵入することもない。落ち着いていられた。


 口付けで緊張が解けるジュリアの反応に、ニコラスはそっと舌を伸ばしてみた。それでも少し肩が跳ねただけで何の抵抗もなく、されるがままだ。
 本音を言えば思いきり貪ってしまいたい。
 その欲を抑えて小さな舌先をしばらく擽っていると甘い声が聞こえる。固くなっていた舌も少し柔らかい。
 もっと奥に入り込み舌を絡めとると、流石に驚いたのか身が固くなる。そんな彼女を宥めるように背中を撫でながら攻める場所を変えていく。

 口付けがこんなにも快くて幸せなものだとは、ニコラスは今まで知らなかった。
 夢中になって求めていると、気が付けば完全にジュリアを押し倒してしまっている。まるで初めてのガキのようだと内心で笑いながらも、求める自分を抑えられない。
 舌の裏側を攻めると大きな反応があった。気を良くして攻め続けると、背に手を回してしがみつく。
 耳を指で擽りながら舌を絡め続けると、さっきより激しくジュリアの身体が震え始めた。

「んんっ! あっ、ねえ、ニックさま、へんな感じなの」
「どんな感じがするんだ?」

 首を振って逃れようとする様が可哀想で解放してやると、少し回らない舌で訴える。

「なんだか、お腹のおくが、熱いような……それと、むずむず、する? ような感じで」
「うん、それは正常な反応だな」

 今の自分は欲にまみれた酷い顔をしているだろうとニコラスは思う。そんな自分に警戒することもなく縋り、答を求めるジュリアは自らを追いつめていると気付かないようだ。

「そうなの、ですか?」
「そうだ。だから、また触るけど頑張れるか?」
「はい」

 素直に頷くジュリアを見て、何も知らない子供を騙す悪い大人のようだと少し後ろめたい。だけどこの先を望んだのは彼女だ。
 なら、あまり遠慮するのも良くないだろう。

 強く刺激しすぎないよう控えめに耳に口付け、手を身体の線に沿って下ろしていく。
 一度腰まで下ろした手を今度は前側に這わせ胸に触れた。しばらく手を置いたままで反応を見ても、特に拒絶する様子も見せない。

 頭や頬を撫でて気を逸らしながらガウンをはだけ、その姿を見下ろす。
 眼福とはまさにこのことを言うのだろう。
 先ほども見たが、あまりに薄い白い布は何も隠さず美しい肢体に纏わりついている。
 衣服とは身を飾るだけでなく、守るためのものである筈だ。なのに一体これで何を守れると言うのか。男の欲を煽るためなら、正しいあり方なのかもしれないが。
 まだ誰にも触れさせていないせいか、少し硬さの残る胸の中心の突起は薄桃色で、まだ小さい。

 ここに来て緊張する。散々口付けておいて今更だが、彼女に触れる最初の男が自分なのだと改めて実感した。
 もう優しい保護者ではない。どうしても消えない罪悪感は見ないように、ニコラスは改めて口付けながらその膨らみに手を伸ばした。


 耳に触れられてもさっきよりは控えめなせいか、まだ耐えられる。そのうちに撫でられ口付けを受け、身体が解けていく。
 だから少しの変化にジュリアは気付けなかった。

「んん? んー!」

 何かが胸に触れている。いや、この状況でジュリアに触れられるのはニコラスだけ。むしろ彼以外なら大問題だ。
 それでも身体に走る衝撃につい余計なことを考えてしまう。そうしていないと、羞恥のあまりに自分がどうにかなりそうだから。


 胸を包むように撫で擦り、それに対し首を振って何かを主張するジュリアを素知らぬ顔で押さえながら、中心の飾りを指でかすめた。
 撫でた後に指先で軽く弾くようにすると、絡めた舌が縮こまるのを感じる。指で挟んで捏ねると身体がいっそう熱を上げ、ニコラスも熱くさせた。
 必死になって身を捩るジュリアの様子に解放してやると、物足りないと言わんばかりの顔をする。
 ならばと続けたら、無意識なのだろうが腿をすり合わせ腰をくねらせる様がこの上なく煽情的だ。まだ何も知らない筈なのに、追いつかない心を置き去りに身体は貪欲に快楽を追い求めている。
 今まで彼女を前にして欲を感じずにいられたのが不思議な程だ。一度でも手を伸ばすと彼女に触れずにはいられない。
 誰かに溺れたことはないニコラスでも、ジュリアからは二度と離れられないと確信した。


 恥ずかしいのに、不思議な感覚が怖いのに、やめてほしくない。いや、最初はやめてほしかったのに。
 ニコラスが手を離したら少し不満に思ってしまった。それが分かっているのか、意地悪な顔で笑いながら続ける彼に翻弄される。
 彼の指で捏ねられる胸の先端が疼き、それと共に下腹の辺りが熱くなる。耳に触れられた時もそうだった。どうして触れられるのと違う場所が熱いのか分からない。
 何もかもが理解できないのに、それでもこの感じが嫌ではなくて、もっと浸っていたくなる。
 ジュリアは初めての感覚に戸惑いながらも、これが快感だと理解しつつあった。

「ニックさま、これが、気持ちいいってこと?」
「…………ああ、そうだな。ジュリアは今、気持ち良くなってるんだろう」

 多分そうだけど分からない。だからニコラスに訊いたら、何故か彼の目の色が変わったように見えた。一瞬だけ金に光って見えたその目は、今はいつもと同じ綺麗な青。
 どうしてそう見えたのかジュリアには分からない。目の錯覚なのだろう。けれど、本当に違っていたとしても構わない。彼がニコラスでありさえすれば。


 ジュリアが自分の快感に気付き質問した瞬間、ニコラスは全身の血が沸騰するかのような感覚に襲われた。昔から敵に囲まれた時などにこれと似た感じを覚えはしたが、それとは違って不快感はなく、ただひたすらに気分が良い。
 こんな感じは初めてだが、何故かこれを待っていたような気がする。それと同時に彼女を今すぐ貪り尽くしたくなり、慌てて己を抑えた。
 もうすっかり身を任せている彼女に触れながら鎖骨に口付け、下に向かおうとして我に返る。このままソファーで続けるのは如何なものか。

「ジュリア、ちょっと移動するぞ」
「え? どこに?」
「そこのベッドまで」

 そう言うとこの先を意識したのか、一段と顔が赤くなった。今更だろうとは思うが、あんなに夢中になっていたら何も考えられなかっただろう。

 抱き上げると当然のように首に腕を回して身を委ねる。
 こうやって何度となく運んでやったことを思い出し、向かう先で何をするのかを考えるとニコラスは胸が痛んだ。なのに息を荒げ、頬を紅潮させるジュリアを見るとそれも吹き飛んでしまう。
 あんなに責め苛んでいた罪悪感が、すっかり鳴りを潜めてしまった。さっきの不思議な感覚と共に自分の意識が変わったのだろう。まだ残っていた保護者としての自分が役目を終えたかのように消えている。

 また現れて自分を苛むかもしれないが、少なくとも今夜はもう出て来ない筈だ。
 良かった。初めて触れる夜なのに、罪悪感で集中できないなどジュリアに失礼だから。もしも彼女がそれを知ったら、きっと傷つくだろう。
 今からは夫婦で迎える初めての夜。大切な時間を何ものにも邪魔させない。それが自分自身であっても。

 たどり着いたベッドに愛しい妻の身体を下ろし、その横に乗り上げた。
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