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燃え尽きた船
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「本当にいるんだな」
「いますよ、嘘だと思ったんですか?」
落ち着かない様子でソファーとドアの間を行ったり来たりしていたジュリア。その姿にからかうように声をかけると心外だと言わんばかりに睨まれ、毛を逆立てる猫みたいだと苦笑する。
「嘘とは思わなかったが、怖気づくかとは思った」
「怖気づくだなんて、ありえませんわ」
挑むように見上げられ笑みがこぼれる。そんな場合ではないのに、成長ぶりに喜んでしまうのだ。
「あんなに落ち着かなそうに彷徨いていたのに?」
「あっ、あれは、貴方が来て下さらなかったらどうしようかと」
「俺がジリーとの約束を破ったことがあったか?」
「ありません」
ジュリアの男性恐怖症はちょっとやそっとで治るようなものではない。その根底には根強い不信感もあるだろう。
だからこそ決して彼女との約束を破ったことはない。
守れそうにない約束なら最初からしない。どうしてもと頼まれた場合、それが流れてしまうかもしれないと伝えていた。
「そういうところも含めて、貴方をお慕いしています。ニコラス様」
「ジュリア、その」
「貴方は私がよそへ行っても本当に平気なのですか?
仮初めとは言え一度は妻となった私が、他の殿方の隣に立ち、その方の腕に抱かれ、子を生す姿を見ても全く胸は痛まないのですか?
そんなにも私は魅力がないのでしょうか」
涙ぐみながら言い募る姿に、自分がしっかり纏っていた鎧が剥がれ落ちるのを感じる。
「…………参った。そうだな、落ち着いて話そう」
ニコラスの誘導に従いソファーに向かうと、徐ろに後ろを向くジュリア。どうしたのかと見ていると、ガウンを脱ぎこちらに向き直る。
「っ何て格好をしているんだ!」
「私の覚悟を知ってほしいんです」
真っ赤な顔で立つ彼女が着ているナイトウェアは、後ろ側は紐をクロスさせただけの攻めたデザインだ。しかし背中はドレスで見慣れているので油断した。
問題はうっかり直視してしまった前側だ。何のために布が存在するのか疑問なまでに透けていて、何も隠れていない。流石に下着は穿いているが、上半身は曝け出されている。
裸よりよほど煽情的な姿に目眩がしそうだ。
「もう大人になったでしょう? 胸は平均より大きめだそうですし、形が綺麗だと言われましたわ」
「誰に言われた?」
ニコラスの眉間に皺が刻まれ、低い声がいっそう低くなる。
「メイドやお姉様に」
「キャロル夫人か」
彼女の六歳上の姉は、頼りにならない母に代わり何かと妹を守っていた。彼女になら何でも相談できるだろう。
とりあえず彼女に良からぬことが起こったのではないようだ。安心して力の抜けたニコラスの表情は些か情けない。
「ニック様、どうしました?
もしかして妬きましたか?」
「ああ、妬いた。そんな筈はないと分かっているのに、隠れて君に不埒な真似をした男がいたのかと頭に血がのぼった。
もしそうなら、そいつを殺してやりたいくらいにな」
「ニコラス、さま? からかっているのですか?」
冗談で言っただけで、嫉妬してくれるなんて端から期待していない。
なのにあっさり肯定され、とてもではないが信じられなかった。
「そのことを話したかったんだが、誰かさんが刺激的な姿を見せつけるから」
「っ! だって、どうしても意識してほしくて」
「とりあえず着てくれ。
目の保養、じゃなくて目の毒だ」
盛大に溜め息をつき、ソファーの背にかけたガウンを羽織らせるニコラス。それは似たような意味ではないかと突っ込むべきかジュリアが迷う程に、今の彼には余裕がないのが見てとれる。
そこまで彼を動揺させられたのなら、恥ずかしい思いに耐えた甲斐があったと嬉しくなった。精神面は色々と削られたけど。
そんな彼はソファーに落ち着いてからもジュリアの手を握って離さない。
「ニック様の手、大きくて安心できます。
不思議ですね。男の人の手なんて、恐ろしくて仕方なかったのに。父よりずっと大きな手なのに」
この手がなければ自分は今頃どうなっていたのか。少なくとも学園で首席にはなれなかっただろう。
早くから娶った妻に高等教育を受けさせるなんて普通はあり得ない。しかもジュリアは押し付けられた形だけの妻なのに。
「彼はもうこの世にいない。君を脅かす者は消えたから」
「それを聞いた時に喜んでしまったのですよね。自分がとんでもない化け物になった気がしたものです」
「あの男は父親なんかじゃない。アイツこそが化け物だった。ジリーの反応は当たり前のことだよ」
「あの時もそう言って下さいました。
いつもニック様に救われて、ここまでやって来られたのです」
口元を綻ばせる彼女の姿に、もう子供ではないのだと改めて実感する。
本当に綺麗になった。怯え、抑えつけられる生活から解放され、本来の知力を発揮できるようになり自信がついたのだろう。
それが彼女をいっそう輝かせている。
抗うなど最初から無理な話だった。
「もう自分をごまかすのは終わりにする。
ジュリア、俺は君のことが好きだ。
子供ではなく、一人の女性として」
驚愕に目を見開き、口元が震える彼女を見て苦く笑う。もう取り返しがつかない。でも仕方ないことだ。
散々逃げ道を示してやったのに、わざわざ捕まりに来るのだから。
自分はよく堪えたと思う。もう許してやっても良いではないか。
「うそです」
「嘘じゃない」
「だって、守り育てる対象だと、そう言ったではないですか」
「そうだ、そのつもりで娶った。だから大人になる君を、そういう目で見ないように心がけていた。
君は可愛い娘のような存在なのだから、と」
所詮、無駄な足掻きだったが。
自嘲の念を滲ませ呟くニコラスを見て、本当の気持ちだと気付く。
「信じて良いのですね?」
「ああ、誓って本当だ」
「嬉しい。ニック様、ずっと傍にいて下さいね」
「ああ、もう離してやらないからな」
満面の笑みで抱きつく彼女を抱きとめながら、その額に口付けを落とす。今までは親愛の情を示すため、頬に口付けられたお返しだったそれの意味が完全に変わった。
「では、早速ですが子作りをしましょう!」
少し身体を離して手をとり、なされた宣言に頭痛がする。この子の情操教育は完全に失敗したようだ。
「何でそうなる?! おまけに誘い文句も酷すぎる。身も蓋もないな!!」
「いつまた貴方の気が変わるか分からないじゃないですか!
万が一にも無効にされないように、しっかり結合して子種を仕込んでおかないと」
「言葉を選べ。それに信用なさすぎだろう、俺のせいだけど」
落ち着けと言いながら髪を撫でた途端に大人しくなる。この手触りを懐かしく思い返す日が来ると覚悟していたのに。
「ジュリア、これが最後のチャンスだ。今ならまだ逃がしてやれる。本当に俺の妻になるか?」
「勿論です。貴方こそ、もう私以外は駄目ですよ」
「もう、というか君を迎え入れてからは、誰とも」
「あーっ!! それは知ってます。でも、それ以前のことも貴方の口から聞きたくないので言わないで下さい」
ジュリアが成人して以降、かつてニコラスと関係があった女性たちに絡まれることが何度もあった。そして彼が如何に凄かったかなど、望んでもないのに説明されたことも数えきれない。
その度に微笑んで聞き流していたが、内心では傷付いていた。自分は女として全く意識されていないのに、こんなに沢山の女性たちを相手していたのか、と。
ニコラスの悪友であるミルズ公爵が、ジュリアを受け入れてからは誰とも関係していないと教えてくれたから、何とか耐えられたのだ。
そのことを話すとニコラスは顔をしかめた。
「口が堅い上に、人に悟らせないように上手く遊ぶ相手を選んでいたのに」
「貴方が誰のものにもならないから諦めていたのでしょう。
なのにこんな小娘を迎え入れた挙げ句、もう危険も去ったのに未だに手元に置いている。
面白くなかったのでしょうね」
後腐れのない関係だと言っても、ニコラスに抱かれて意識しない筈がない。本気になっても望みがないから自分を抑えつけていたのだろう。
その証拠に、彼女たちのジュリアを見る目は恋敵を見るものだった。
「すまない、君に嫌な思いをさせた」
「知り合う前どころか、私が生まれる前のことまで気にしても仕方ないとは思うのです。
なのにどうしても……」
「それは当然だろう」
もし立場が逆なら嫉妬に狂う自信しかない。
これでよく他の男に嫁がせるだなんて言えたものだ。実際そうなったら相当苦しんだだろう。昔、婚約者に裏切られた時の比ではないくらいに。
ずっとジュリアを手放すのが最善だと思っていた。正直なところ、今でもそう思う。
それでもお互いが想い合うのなら、周囲の雑音など捨て置いても良いのではないか。
「今の俺には君しかいない。生涯、と言えないのは申し訳ないが」
「年齢差を考えたら仕方のないことです。
その代わり、私で最後にして下さいね」
「ああ、誓うよ」
「誓い……」
「そう言えば、あの誓いを破ることになるな」
ジュリアと婚姻した際、怯える彼女に誓った言葉。
『君とは決して本当の夫婦にはならない。
大人になったら何の問題もなく好きな相手の元に嫁げるよう、いつでも無効に出来るようにするから』
事ある毎にそれを繰り返し聞かせていた。
「あっさり誓いを破った男なんて信用できないよな」
「そんな訳ないでしょう、私が懇願したせいなのに」
「せい、ではなく、君のおかげだ。
ありがとう、諦めないでいてくれて」
抱き寄せると嬉しそうに擦り寄る無邪気な姿に、愛しいと素直に思える。今までのように可愛い娘だと自分をごまかす必要もない。
「もう手放してやれない、すまないな」
「それこそが私の望みです。
絶対に離れて差し上げないので覚悟して下さいね」
「いますよ、嘘だと思ったんですか?」
落ち着かない様子でソファーとドアの間を行ったり来たりしていたジュリア。その姿にからかうように声をかけると心外だと言わんばかりに睨まれ、毛を逆立てる猫みたいだと苦笑する。
「嘘とは思わなかったが、怖気づくかとは思った」
「怖気づくだなんて、ありえませんわ」
挑むように見上げられ笑みがこぼれる。そんな場合ではないのに、成長ぶりに喜んでしまうのだ。
「あんなに落ち着かなそうに彷徨いていたのに?」
「あっ、あれは、貴方が来て下さらなかったらどうしようかと」
「俺がジリーとの約束を破ったことがあったか?」
「ありません」
ジュリアの男性恐怖症はちょっとやそっとで治るようなものではない。その根底には根強い不信感もあるだろう。
だからこそ決して彼女との約束を破ったことはない。
守れそうにない約束なら最初からしない。どうしてもと頼まれた場合、それが流れてしまうかもしれないと伝えていた。
「そういうところも含めて、貴方をお慕いしています。ニコラス様」
「ジュリア、その」
「貴方は私がよそへ行っても本当に平気なのですか?
仮初めとは言え一度は妻となった私が、他の殿方の隣に立ち、その方の腕に抱かれ、子を生す姿を見ても全く胸は痛まないのですか?
そんなにも私は魅力がないのでしょうか」
涙ぐみながら言い募る姿に、自分がしっかり纏っていた鎧が剥がれ落ちるのを感じる。
「…………参った。そうだな、落ち着いて話そう」
ニコラスの誘導に従いソファーに向かうと、徐ろに後ろを向くジュリア。どうしたのかと見ていると、ガウンを脱ぎこちらに向き直る。
「っ何て格好をしているんだ!」
「私の覚悟を知ってほしいんです」
真っ赤な顔で立つ彼女が着ているナイトウェアは、後ろ側は紐をクロスさせただけの攻めたデザインだ。しかし背中はドレスで見慣れているので油断した。
問題はうっかり直視してしまった前側だ。何のために布が存在するのか疑問なまでに透けていて、何も隠れていない。流石に下着は穿いているが、上半身は曝け出されている。
裸よりよほど煽情的な姿に目眩がしそうだ。
「もう大人になったでしょう? 胸は平均より大きめだそうですし、形が綺麗だと言われましたわ」
「誰に言われた?」
ニコラスの眉間に皺が刻まれ、低い声がいっそう低くなる。
「メイドやお姉様に」
「キャロル夫人か」
彼女の六歳上の姉は、頼りにならない母に代わり何かと妹を守っていた。彼女になら何でも相談できるだろう。
とりあえず彼女に良からぬことが起こったのではないようだ。安心して力の抜けたニコラスの表情は些か情けない。
「ニック様、どうしました?
もしかして妬きましたか?」
「ああ、妬いた。そんな筈はないと分かっているのに、隠れて君に不埒な真似をした男がいたのかと頭に血がのぼった。
もしそうなら、そいつを殺してやりたいくらいにな」
「ニコラス、さま? からかっているのですか?」
冗談で言っただけで、嫉妬してくれるなんて端から期待していない。
なのにあっさり肯定され、とてもではないが信じられなかった。
「そのことを話したかったんだが、誰かさんが刺激的な姿を見せつけるから」
「っ! だって、どうしても意識してほしくて」
「とりあえず着てくれ。
目の保養、じゃなくて目の毒だ」
盛大に溜め息をつき、ソファーの背にかけたガウンを羽織らせるニコラス。それは似たような意味ではないかと突っ込むべきかジュリアが迷う程に、今の彼には余裕がないのが見てとれる。
そこまで彼を動揺させられたのなら、恥ずかしい思いに耐えた甲斐があったと嬉しくなった。精神面は色々と削られたけど。
そんな彼はソファーに落ち着いてからもジュリアの手を握って離さない。
「ニック様の手、大きくて安心できます。
不思議ですね。男の人の手なんて、恐ろしくて仕方なかったのに。父よりずっと大きな手なのに」
この手がなければ自分は今頃どうなっていたのか。少なくとも学園で首席にはなれなかっただろう。
早くから娶った妻に高等教育を受けさせるなんて普通はあり得ない。しかもジュリアは押し付けられた形だけの妻なのに。
「彼はもうこの世にいない。君を脅かす者は消えたから」
「それを聞いた時に喜んでしまったのですよね。自分がとんでもない化け物になった気がしたものです」
「あの男は父親なんかじゃない。アイツこそが化け物だった。ジリーの反応は当たり前のことだよ」
「あの時もそう言って下さいました。
いつもニック様に救われて、ここまでやって来られたのです」
口元を綻ばせる彼女の姿に、もう子供ではないのだと改めて実感する。
本当に綺麗になった。怯え、抑えつけられる生活から解放され、本来の知力を発揮できるようになり自信がついたのだろう。
それが彼女をいっそう輝かせている。
抗うなど最初から無理な話だった。
「もう自分をごまかすのは終わりにする。
ジュリア、俺は君のことが好きだ。
子供ではなく、一人の女性として」
驚愕に目を見開き、口元が震える彼女を見て苦く笑う。もう取り返しがつかない。でも仕方ないことだ。
散々逃げ道を示してやったのに、わざわざ捕まりに来るのだから。
自分はよく堪えたと思う。もう許してやっても良いではないか。
「うそです」
「嘘じゃない」
「だって、守り育てる対象だと、そう言ったではないですか」
「そうだ、そのつもりで娶った。だから大人になる君を、そういう目で見ないように心がけていた。
君は可愛い娘のような存在なのだから、と」
所詮、無駄な足掻きだったが。
自嘲の念を滲ませ呟くニコラスを見て、本当の気持ちだと気付く。
「信じて良いのですね?」
「ああ、誓って本当だ」
「嬉しい。ニック様、ずっと傍にいて下さいね」
「ああ、もう離してやらないからな」
満面の笑みで抱きつく彼女を抱きとめながら、その額に口付けを落とす。今までは親愛の情を示すため、頬に口付けられたお返しだったそれの意味が完全に変わった。
「では、早速ですが子作りをしましょう!」
少し身体を離して手をとり、なされた宣言に頭痛がする。この子の情操教育は完全に失敗したようだ。
「何でそうなる?! おまけに誘い文句も酷すぎる。身も蓋もないな!!」
「いつまた貴方の気が変わるか分からないじゃないですか!
万が一にも無効にされないように、しっかり結合して子種を仕込んでおかないと」
「言葉を選べ。それに信用なさすぎだろう、俺のせいだけど」
落ち着けと言いながら髪を撫でた途端に大人しくなる。この手触りを懐かしく思い返す日が来ると覚悟していたのに。
「ジュリア、これが最後のチャンスだ。今ならまだ逃がしてやれる。本当に俺の妻になるか?」
「勿論です。貴方こそ、もう私以外は駄目ですよ」
「もう、というか君を迎え入れてからは、誰とも」
「あーっ!! それは知ってます。でも、それ以前のことも貴方の口から聞きたくないので言わないで下さい」
ジュリアが成人して以降、かつてニコラスと関係があった女性たちに絡まれることが何度もあった。そして彼が如何に凄かったかなど、望んでもないのに説明されたことも数えきれない。
その度に微笑んで聞き流していたが、内心では傷付いていた。自分は女として全く意識されていないのに、こんなに沢山の女性たちを相手していたのか、と。
ニコラスの悪友であるミルズ公爵が、ジュリアを受け入れてからは誰とも関係していないと教えてくれたから、何とか耐えられたのだ。
そのことを話すとニコラスは顔をしかめた。
「口が堅い上に、人に悟らせないように上手く遊ぶ相手を選んでいたのに」
「貴方が誰のものにもならないから諦めていたのでしょう。
なのにこんな小娘を迎え入れた挙げ句、もう危険も去ったのに未だに手元に置いている。
面白くなかったのでしょうね」
後腐れのない関係だと言っても、ニコラスに抱かれて意識しない筈がない。本気になっても望みがないから自分を抑えつけていたのだろう。
その証拠に、彼女たちのジュリアを見る目は恋敵を見るものだった。
「すまない、君に嫌な思いをさせた」
「知り合う前どころか、私が生まれる前のことまで気にしても仕方ないとは思うのです。
なのにどうしても……」
「それは当然だろう」
もし立場が逆なら嫉妬に狂う自信しかない。
これでよく他の男に嫁がせるだなんて言えたものだ。実際そうなったら相当苦しんだだろう。昔、婚約者に裏切られた時の比ではないくらいに。
ずっとジュリアを手放すのが最善だと思っていた。正直なところ、今でもそう思う。
それでもお互いが想い合うのなら、周囲の雑音など捨て置いても良いのではないか。
「今の俺には君しかいない。生涯、と言えないのは申し訳ないが」
「年齢差を考えたら仕方のないことです。
その代わり、私で最後にして下さいね」
「ああ、誓うよ」
「誓い……」
「そう言えば、あの誓いを破ることになるな」
ジュリアと婚姻した際、怯える彼女に誓った言葉。
『君とは決して本当の夫婦にはならない。
大人になったら何の問題もなく好きな相手の元に嫁げるよう、いつでも無効に出来るようにするから』
事ある毎にそれを繰り返し聞かせていた。
「あっさり誓いを破った男なんて信用できないよな」
「そんな訳ないでしょう、私が懇願したせいなのに」
「せい、ではなく、君のおかげだ。
ありがとう、諦めないでいてくれて」
抱き寄せると嬉しそうに擦り寄る無邪気な姿に、愛しいと素直に思える。今までのように可愛い娘だと自分をごまかす必要もない。
「もう手放してやれない、すまないな」
「それこそが私の望みです。
絶対に離れて差し上げないので覚悟して下さいね」
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すべてフィクションです。不快に思われた方は読むのを止めて下さい。
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