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西遷の章
カムヤイミミノミコト
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イワレヒコは、タギシを見つめ問いかけた。
「何だと?お前はイツセの恨みを晴らすため、我を殺すんじゃなかったのか?」
「俺は俺のやり方でやる。あんたにはその餌になってもらうことにするよ。」
イワレヒコは、タギシの一味によって攫われてしまった。
大物主つまりタカヒコに差し出す気なのだ。タギシはイワレヒコ捕縛の功績によって大物主の近づくつもりなのだ。イリヒコが、イワレヒコの従者の報告を聞き、押っ取り刀で竈山に駆けつけると、既にイワレヒコもタギシ一味もいなくなっていた。
むなしく荒川村に戻ると、船の用意ができたという。イワレヒコ救出に向かうか、残った兵をまとめ淡路へ向かうか、イリヒコにとっては決断しきれない難問である。イリヒコは宿舎に開けてもらった民家に一人で篭って思案していた。その民家へ妙齢の女性が一人で忍び込んだが、イリヒコは思案のあまりその気配に気がつかなかった。その後、少しの時間を置いて一人の男がイリヒコの篭る民家に入ってきた。男の名はカムヤイ、イワレヒコの長男であった。
「イリヒコ殿。」
と、一人悩むイリヒコにカムヤイが声を掛けた。カムヤイはイワレヒコにとって実の子供でありまた長男であるが、才気が乏しく度胸も無い。血統的には本来なら彼が橿原の族長になるはずだった。イワレヒコにカムヤイが進言したことが1つある。
「私の力では、橿原にとって何の利益ももたらさないことでしょう。族長となって橿原を率いる立場に立つべきではないのです。この度、配下に入ったものにイリヒコという傑物がいます。これをマキヒメの婿に迎え義弟となし、族長の地位につけましょう。私はイリヒコを助け祖先の祭祀を司りましょう。長兄の私がその立場につけば他の弟たちも私に習い、イリヒコに従うことでしょう。」
イワレヒコはイリヒコを実験し、カムヤイの言葉が正しいことを知り、それを受け入れたのだった。つまりカムヤイはイリヒコの後見人でもある。カムヤイは言葉を違えずイリヒコに従いつづけている。今回の戦がはじまってからも今まで、カムヤイはイリヒコに意見の1つもした事が無いのである。そのカムヤイがイリヒコに話しかけたのだ。
「これは、カムヤイ殿。困ったことになりました。義父を救いに戻るべきか、このまま筑紫に向かうのが良いのか。。。。」
「筑紫へ行きましょう。」
「しかし。。。」
「これは私だけが父から聞かされていたのですが、実は父は、もともと竈山に留まる気だったのです。伯父イツセの御魂と共に。。。」
「なんと!」
「父はもう高齢です。足手まといになるのが嫌だったのでしょう。」
「しかし義兄上、イワレヒコ様が居なくて、義兄たち、そして兵達は私に付いて来てくれるでしようか?そして筑紫の王族たちは私達を受けいれてくれるのでしょうか?」
「そのために私が居ます。私は血統的な族長、貴方は実質的な族長なのです。私は父イワレヒコから受け継いだ祖先の名をそらんじることができます。同族だと主張し筑紫王族の協力を得るためには祖先の名を共有しているという事実が必要です。私はそのために祖先の祭祀を学んできたのです。父イワレヒコは既に決断しているはず。次ぎは、父の日嗣たる貴方が決断する番だ。」
イリヒコは、カムヤイの言を聞き筑紫へ向かうことを決断した。カムヤイは一族のものたちに、その決定を伝えるために出て行った。兵にはイリヒコから伝えることになる。
筑紫の日向は、イリヒコ本人にとっては馴染みのない国である。出雲や播磨の周辺はアラシトと共に駆け巡り、そして大和でイワレヒコと会った。
今、イリヒコを説得したカムヤイにしても父の故郷でしかない。カムヤイ本人は大和生まれなのである。倭国では、先祖の名を重要視する。とはいえ血は繋がっていても初対面の人間ばかりである。
しかも、日向の国自体がヤマタイと狗奴国に挟まれた、いわば緩衝地帯である。そんなところに駆け込んで果たして庇護、援護を受けることは可能なのか?イリヒコは決断したとはいえ、不安で一杯である。カムヤイを、いや日向王族の血を信じてよいのか。。。
しかも、同族のタギシは叔父であるイワレヒコを奪い、大物主タカヒコの下へ行くという。この行動を目の前にして、更なる不安に苛まれる。
そこへ、アラカワトベのところにいた男がやってきた。
「早くこの場をでられよ。ここにいても何も変わらぬとアラカワトベが仰っている。ヒメを助けたあなたをここで殺すわけにはいかない」
「しかし」
「タギシ、いやイワレヒコが心配か?」
「、、、」
「赤の他人だと、タギシもあの場でイワレヒコを殺したであろう。タギシはそうはしなかった。」
「それは、大物主に取り入るため、、、」
「それだけではない。お主らを逃がすためでもある。」
「何故?」
「大物主さまに対して、大和の国に対して責任を取る者が必要だ。お主らでは決められんだろう。かと言って全員を逃がしてしまえばワシらが罪に問われる。」
「さあ行かれよ、日向へ。アラカワトベもそれを望んでおられる」
それだけを伝え、男はイリヒコの側から離れていった。
「何だと?お前はイツセの恨みを晴らすため、我を殺すんじゃなかったのか?」
「俺は俺のやり方でやる。あんたにはその餌になってもらうことにするよ。」
イワレヒコは、タギシの一味によって攫われてしまった。
大物主つまりタカヒコに差し出す気なのだ。タギシはイワレヒコ捕縛の功績によって大物主の近づくつもりなのだ。イリヒコが、イワレヒコの従者の報告を聞き、押っ取り刀で竈山に駆けつけると、既にイワレヒコもタギシ一味もいなくなっていた。
むなしく荒川村に戻ると、船の用意ができたという。イワレヒコ救出に向かうか、残った兵をまとめ淡路へ向かうか、イリヒコにとっては決断しきれない難問である。イリヒコは宿舎に開けてもらった民家に一人で篭って思案していた。その民家へ妙齢の女性が一人で忍び込んだが、イリヒコは思案のあまりその気配に気がつかなかった。その後、少しの時間を置いて一人の男がイリヒコの篭る民家に入ってきた。男の名はカムヤイ、イワレヒコの長男であった。
「イリヒコ殿。」
と、一人悩むイリヒコにカムヤイが声を掛けた。カムヤイはイワレヒコにとって実の子供でありまた長男であるが、才気が乏しく度胸も無い。血統的には本来なら彼が橿原の族長になるはずだった。イワレヒコにカムヤイが進言したことが1つある。
「私の力では、橿原にとって何の利益ももたらさないことでしょう。族長となって橿原を率いる立場に立つべきではないのです。この度、配下に入ったものにイリヒコという傑物がいます。これをマキヒメの婿に迎え義弟となし、族長の地位につけましょう。私はイリヒコを助け祖先の祭祀を司りましょう。長兄の私がその立場につけば他の弟たちも私に習い、イリヒコに従うことでしょう。」
イワレヒコはイリヒコを実験し、カムヤイの言葉が正しいことを知り、それを受け入れたのだった。つまりカムヤイはイリヒコの後見人でもある。カムヤイは言葉を違えずイリヒコに従いつづけている。今回の戦がはじまってからも今まで、カムヤイはイリヒコに意見の1つもした事が無いのである。そのカムヤイがイリヒコに話しかけたのだ。
「これは、カムヤイ殿。困ったことになりました。義父を救いに戻るべきか、このまま筑紫に向かうのが良いのか。。。。」
「筑紫へ行きましょう。」
「しかし。。。」
「これは私だけが父から聞かされていたのですが、実は父は、もともと竈山に留まる気だったのです。伯父イツセの御魂と共に。。。」
「なんと!」
「父はもう高齢です。足手まといになるのが嫌だったのでしょう。」
「しかし義兄上、イワレヒコ様が居なくて、義兄たち、そして兵達は私に付いて来てくれるでしようか?そして筑紫の王族たちは私達を受けいれてくれるのでしょうか?」
「そのために私が居ます。私は血統的な族長、貴方は実質的な族長なのです。私は父イワレヒコから受け継いだ祖先の名をそらんじることができます。同族だと主張し筑紫王族の協力を得るためには祖先の名を共有しているという事実が必要です。私はそのために祖先の祭祀を学んできたのです。父イワレヒコは既に決断しているはず。次ぎは、父の日嗣たる貴方が決断する番だ。」
イリヒコは、カムヤイの言を聞き筑紫へ向かうことを決断した。カムヤイは一族のものたちに、その決定を伝えるために出て行った。兵にはイリヒコから伝えることになる。
筑紫の日向は、イリヒコ本人にとっては馴染みのない国である。出雲や播磨の周辺はアラシトと共に駆け巡り、そして大和でイワレヒコと会った。
今、イリヒコを説得したカムヤイにしても父の故郷でしかない。カムヤイ本人は大和生まれなのである。倭国では、先祖の名を重要視する。とはいえ血は繋がっていても初対面の人間ばかりである。
しかも、日向の国自体がヤマタイと狗奴国に挟まれた、いわば緩衝地帯である。そんなところに駆け込んで果たして庇護、援護を受けることは可能なのか?イリヒコは決断したとはいえ、不安で一杯である。カムヤイを、いや日向王族の血を信じてよいのか。。。
しかも、同族のタギシは叔父であるイワレヒコを奪い、大物主タカヒコの下へ行くという。この行動を目の前にして、更なる不安に苛まれる。
そこへ、アラカワトベのところにいた男がやってきた。
「早くこの場をでられよ。ここにいても何も変わらぬとアラカワトベが仰っている。ヒメを助けたあなたをここで殺すわけにはいかない」
「しかし」
「タギシ、いやイワレヒコが心配か?」
「、、、」
「赤の他人だと、タギシもあの場でイワレヒコを殺したであろう。タギシはそうはしなかった。」
「それは、大物主に取り入るため、、、」
「それだけではない。お主らを逃がすためでもある。」
「何故?」
「大物主さまに対して、大和の国に対して責任を取る者が必要だ。お主らでは決められんだろう。かと言って全員を逃がしてしまえばワシらが罪に問われる。」
「さあ行かれよ、日向へ。アラカワトベもそれを望んでおられる」
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