大陰史記〜出雲国譲りの真相〜

桜小径

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大和の章

オオモノヌシ 四十九

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小男は大男の怪我の具合を細かく調べた。

「指先も動くようですから、少し麻痺しているだけで大丈夫でしょう。スルクは痛み止めにも使えますから、腕の大きな傷の痛みが軽くなっていいんでは?」

と、小男は大男に向かっておどけながら言った。大男は笑みを浮かべ小男をこづいた。

「しかし、剣が折れなかったら危ないところでしたな。このミカヅチと申す男はなかなか強い。」

「うむ。もう少しタケミカヅチとやらが実戦慣れしておったなら、転がっているのはわしの方だったかもしれん。殺すには惜しいが、暴れられても困る。さっきの奴らと一緒に捕縛しておけ。」

「はっ解かりました。しかし、今日は朝から怪我人の手当てばかりだよ。」

と、ぼやきながら小男は仲間の方に行き人数を集め、倒れているミカヅチを縄で括り、イリヒコらが捕まっている大木の下まで運んでいって転がした。

「そうだ、タカヒコはどうした?」

大男は、副官らしき男に聞く。副官は今やっと思い出したような顔をして辺りを探し始めた。すると、衝車の反対側から、声がした。

「タカヒコ様、大丈夫ですか?タカマヒコです。解かりますか??」

気絶しているタカヒコに息があることを確認して声をかけているのは、午前中にこの大男たちに助けられた葛城のタカマヒコだった。

タカマヒコも両腕を痛めているのでタカヒコを抱き起こすことができないでいる。それに気づいた副官らがタカヒコを抱き起こす。

「タカヒコ様、しっかり成されよ。。」

何度か、副官らしい男がタカヒコを抱きかかえたままゆすっているところへ大男が近づいてきた。大男はタカヒコの顔を覗き込み、一喝した。

「タカヒコ!起きよ!!!何時まで呑気に寝ておるのだ!!!」

その声によってタカヒコの意識が戻ってきた。タカヒコは薄目を開けて声の主の顔をぼうっと見て言った。

「あっ、、、」

タカヒコはそのまま、暫しの間、固まってしまった。

「あっ、、、兄上?」

タカヒコは、驚きのあまり二の句が継げなかった。越・諏訪の大王として、また出雲最強の八千矛軍の総大将として越の国に駐屯しているはずの腹違いの兄・タケミナカタが自分の顔を心配そうに覗いていたからだ。

「おっ、やっと、お目覚めかな?」

と、大男つまり越の王でもある出雲八千矛軍総大将のタケミナカタは、機嫌良さそうに言った。ミナカタの傍らには穴師山で別れたタカマヒコもいる。

自分を抱きかかえているのは、兄の副官でその片腕として畏れられてるイセツヒコである。彼はタカヒコの従兄弟でもある。慌てて飛び起きたタカヒコは、イセツヒコに礼を述べた後、怪訝そうに兄に尋ねた。

「兄上らはどうして、ここにいらっしゃるのですか?」

「越の征伐が終わる頃に大物主様から使いが来て、ぜひタカヒコの就任儀式に立ち合ってくれと請われたのでな。」

「それは、知りませんでした。では越の戦から直接こちらへ来られたのですね」

「うむ、ちょうど、伊都への総攻撃に出発する時だった。ホヒ殿からからも、敵の後背を衝くため瀬戸内から豊の国に上陸してほしいという要請もあったので、琵琶湖を渡り、巨椋池から木津川の水路を巡り少し遠回りして大和に寄ったまでのことだ。」

「そうだったのですか!お陰で、助かりました。」

「しかし、大和がこんなことになっていたとは、父もホヒも知るまい。二人はヤマタイへの攻撃に集中しておるからな」

「なんと!いよいよ総攻撃なのですね。私もこの話が無ければ杵築から参加するはずでした。」

「お主は、とりあえずこの大和の国をしらすことに集中せよ。」

「兄上が参戦なさるなら、ヤマタイへの攻撃も盤石でしょう」

「それは分からん。ヤマタイと和議を結んだ狗奴国の動きもある。油断はできん」

「私も出来ることならヤマタイへ行きたい」

「お主らの母者の国ぞ、タギリヒメ様はそれを望んでおられん。今回は我らに任せよ」

「はい」

「まず、出雲と越の主力にて伊都をたたく」

「我らはどうすれば?」

「大和・河内、それに伊予のシイネツヒコには兵糧補給に携わってもらう。」

「補給のみですか?」

「其方ら以外の出雲全軍の主力部隊を集めての攻撃だ。播磨のオオナンジ様にも後詰に入ってもらう。大和はタカヒコに代替わりしたばかり、戦役を負わすのは酷だろうという父上・大国主様のご配慮があった。」

「はい、心して勤めます」

「大和と河内は筑紫との戦の物資補給の要とし、補給線の確保はシイネツヒコら瀬戸内の海人達の担当となる。追ってホヒ殿より詳細な命令が届くだろう。」

「長期戦を見据える訳ですね」

「長引くような事があれば、其方やワカヒコ、トシロにも動いてもらわねばならぬが、そうなったのでは負けと一緒だ」

タケミナカタは自分に言い聞かせるように静かに言い切った。
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