大陰史記〜出雲国譲りの真相〜

桜小径

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大和の章

オオモノヌシ 四十一

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橿原勢先頭の楯の集団が同じリズムを維持しながら一歩一歩、じわじわと広場の中ほどまで進む。1歩、また1歩と射程距離に近づいてくる。タカヒコが号令をかけた。

「射て!」

10名の弓兵が一斉に射撃する。そのほとんどが橿原勢の楯に阻まれた。タカヒコが迎撃に出てきたことを知ったイリヒコは中軍から離れ先頭集団に合流してきた。イリヒコは相手の弓兵の攻撃が薄いことを知っていたので楯兵の間から、強弓兵を前に出した。

橿原勢の強弓勢が矢を番え、弦を引き絞り始めたとき、タカヒコが号令を下す。

「ヤマタノオロチを前へ!」

弓兵が引っ込みそこへ「ヤマタノオロチ」が登場した。

「なっなんだあれは!!!」

「だっ大蛇だ!!!!」

橿原勢はヤマタノオロチの異様さに驚き戦列が乱れ、弓を引き絞る手も緩んだ。三輪山の神の化身は蛇の姿をしているというのは大和の民にとっては常識である。それを目の前にした兵達はコヤネから受けたこの戦いの意味する話が頭から消え失せ、ただ畏れた。

「何をしている!!射て!!あんなものは作り物だ!!!」

イリヒコが号令をかけるが兵列はすぐには立て直せない。それを遠目でみていたタカヒコがヤマタノオロチに号令をかけた。

「さあ!ヤマタノオロチよ!奴らを吹き飛ばすのだ!!」

オロチの口から、長槍が発射される。八本の長槍はものすごいスピードで、橿原勢の正面へと突き刺さった。

並んでいた数10名の兵が槍に貫かれ、吹き飛ばされる。逃げ惑う兵たちの混乱は極みに達した。イリヒコの眼前に並んでいた楯兵も弓兵も、あるものは突き抜かれ、あるものは逃げ惑い、陣形は総崩れになってしまった。

戦闘意欲を維持しているらしい兵はイリヒコの周囲を守っている数名だけのようだ。

「今だ!」

タカヒコは、ヤマタノオロチのあまりに大きな攻撃力に驚嘆しつつも、勝機を見逃さなかった。

金鵄の剣を振るい、先頭をきってイリヒコ軍へ突進していった。トミビコ、タニグクらもこれに続いた。戦う前は約20倍の兵力差だった。

敵軍には未だ戦線に参入してない200名近い兵力が麓に残っているとはいえ、今この戦闘状況においては、ヤマタノオロチによるたったの一撃で互角の兵力になってしまった。戦意を考えるとタカヒコ軍の方が完全に優位にたったのだ。

「まずい!退却だ!」

イリヒコは采配用に持っていた幅広の銅剣を振るい、慌てて号令をかけるが、混乱のせいで周囲の兵もうまく動けない。

そこへタカヒコたちが襲いかかった。タカヒコはイリヒコの姿を発見し、一直線にイリヒコのところへ向かってくる。イリヒコは退路が気になっているためタカヒコの接近に気がつかない。

「イリヒコ!覚悟せよ!!!」

タカヒコが走ってきた勢いに任せたまま、跳びあがってイリヒコに斬りかかる。

イリヒコの横にいた兵が槍をタカヒコと剣を合わせるが、軽くいなされる。

そのままタカヒコの金鵄の剣はイリヒコに向っていくが、イリヒコは手にしていた幅広銅剣で辛うじてその攻撃をうけとめた。

そこへタニグクらも突っ込んできた。両軍入り乱れての乱戦が繰り広げられる。ヤマタノオロチの出現と攻撃に浮き足立った橿原勢の殆どはタカヒコ軍の相手にならない。つぎつぎと追い払われる始末だ。

イリヒコとタカヒコは向かい合って剣を切り結ぶ。お互い銅剣なので一撃で留目を刺すような攻撃にはならない。

ぱっと後ろに跳んで距離をとったイリヒコは銅剣を投げ捨て、腰に佩いていた鉄剣フツノミタマの剣を握る。タカヒコは追いかけて斬りかかる。

「ギン」

二人の剣が、合わされた音が響く。フツノミタマの剣は金鵄の剣に食い込んだ。二人とも剣を引けない。

こうなったらお互い力勝負である。つばぜり合いのような格好でふたりは押し合い、また引き合う。

追いついてきたトミビコがイリヒコに斬りかかるが、イリヒコがかわそうと身を捩ったため、剣先はイリヒコではなく、ちょうど食い込んでいたフツノミタマの剣を叩いた。

その衝撃でフツノミタマと金鵄の剣はひき離された。引き合っていた二人は、ちょうど綱引きの縄が真中で切れたように、しりもちをついて後ろに転んでしまった。

「タカヒコ様、大丈夫ですか?」

タニグクが転んだタカヒコを助け起こす。イリヒコは離れたことを幸いに転んだまま、自軍の兵達の後ろに紛れ込む。

その時、ヤマタノオロチ登場に続く今日2度目の異常が起こった。先発隊として大物主の宮付近に忍んでいたイリヒコの兵達の一部が、戦闘に参加してきたのである。形成は再び逆転する。

タカヒコ達は上下かろ挟み撃ちになった格好である。

「万事休す。」

タカヒコの頭の中でその言葉が渦巻いた。
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