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大和の章
オオモノヌシ 二十七
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そのとき、三輪山の影から太陽が顔を出した。周辺を探索しながら展開している兵たちも太陽に気が付き、一斉に太陽の出てくる姿を拝した。倭人の習慣の一つである。戦闘態勢とはいえ、探索段階であり兵達はつい日常の行動をとってしまい太陽の方角に座しその光を浴び、天道を拝んだ。
太陽は光の筋を発し、その光の道はタカヒコたちの潜んでいる場所にも届いた。タカヒコはその光を受けた一瞬のうちに出雲を出るときに出雲の父なる山々から昇る太陽に誓った「出雲の敵は全て私にお与え下さい」という、自らの願いの言葉を思い起こした。
タカヒコの体が登りゆく太陽につられて勝手に動き出した。黄金色に眩く輝く銅剣『金鵄の剣』を頭上に振りかざしながら兵が展開している路上に踊り出た。
「われこそは出雲大国主の息子、アジスキタカヒコなるぞ!!」
太陽を拝んでいた兵は慌ててタカヒコの声がする方向へと向き直った。すると、タカヒコが振りかざしていた金鵄の剣に反射した太陽の光が兵たちの目を射抜いた。
「うっ眩しい」
数10名いた兵たちのほとんどは、反射の光の眩しさに目がくらみ、そのまま立ちすくんでしまった。その様子を見渡したタカヒコは、金鵄の剣をかざしたまま兵達に向かって厳しく言い放った。
「やあやあ、ここにいる兵たちよ、お前達は三輪山の兵か?わざわざ出迎えご苦労。さあ、我らを三輪山へと案内せよ!」
そして、まだ潜んいたカヤナルミたちを自分の側へと来るように促した。その様子を暫し呆然と眺めていたコヤネが叫んだ。
「何を不埒な、ニギハヤヒ様から出雲のタカヒコを名乗る不届き者が侵入してきているから退治せよとご命令を受けているのだ。兵達よ、あの男を叩き殺せ!!さあ行くのだ!!!」
その声に反応した数名がタカヒコたちに切りかかってきた。タカヒコはカヤナルミを籠ごと木の後ろに隠し、手にしていた金鵄の剣で一太刀目を叩き落としたかと思うと、舞うように向かってきた兵たちを交わしながら一撃を食らわし、次々と兵たちを撃退した。
「どうした!三輪の兵とやらはこんなにもだらしないのか!私が大物主の座についたら鍛え直してやる。」
と、コヤネの目前に踊り出てその身体をしたたかに打ち据えた。転びながら逃げ出したコヤネは全員で取り囲めと命じた。
展開していた兵たちがタカヒコの周りに集まってくる。流石のタカヒコも数10人に一度に討ちかかられてはたまらない。
金鵄の剣を両の手で握り締めた。手に汗をかいているのはタカヒコ自身にも認識できた。
まさに絶対絶命だ。そのとき、死角になっていま曲り道の方角からトミビコたちが騎馬を駆って表れた。
トミビコたちは兵達の後ろから急襲したためタカヒコを囲もうとした兵達のほとんどは馬に蹴散らされてしまった。
「タカヒコ様、ご無事で!」
「おお、トミビコ殿良いところに来てくれた。」
タカヒコたち全員はトミビコたちの馬に乗りその場を離脱した。タカヒコはトミビコの馬に相乗りした。
「三輪山に侵入しようとしたのですが、失敗しました。三輪山の砦には橿原のイリヒコたちの兵まで到着し、蟻の入り込む隙さえありません。数百名の兵が纒向の都にひしめいております。」
「そうか、ここまで、手を打たれているとは、私も思わなかったよ」
「さて、これからどうしましょう?」
「逃げてもしようがない。出雲の敵は私が倒さなければならない。」
「とおっしゃいますが、あまりの大軍にございます。鳥見山の兵全員を集めてもどうにもなりません。」
「ここらに展開している兵だけなら蹴散らすことも可能ですが・・・」
「一人でいく」
「はっ?今なんと??」
「真正面から大物主様に面会を願い出るしかない」
「そんなことは通用しますまい。大物主さまの宮の前まで到底近づくこともできません。」
「しかし、それ以外の手はない。お前達は、ありったけの弓矢を用意して、援護してくれ。それと籠の中にいるカヤナルミを安全なところへ隠してくれ。私はこれから一人で行動する。」
タカヒコはトミビコと、砦の正面に立つタイミングだけを討ち合わせ、一人三輪山のほうへと歩いて行った。
その頃、夜のうちに纒向の都に潜入していたミカヅチは、タカヒコを探すというタニグクと別れ、兵達の目が穴師山方面に向いていることを幸いに、ミカヅチの父コヤネの宿舎に一人でもぐり込んでいた。
香炉から仄かな香りが上がっている密室で息を潜めていると、兵達に担がれたコヤネが戻ってきた。
先程、タカヒコの攻撃を背中に受けたコヤネは痛そうにうめきながら兵達によって寝台にうつ伏せに寝かされた。金鵄の剣は実用性より祭祀に使うことを念頭に作られた剣であり、コヤネは斬られたわけではない。言うなれば棍棒で殴られたような打撲傷である。
うめいてるコヤネを置いて、兵達は戦いの場へと引き返して行った。部屋にいるのはコヤネとミカヅチの親子二人だけである。
太陽は光の筋を発し、その光の道はタカヒコたちの潜んでいる場所にも届いた。タカヒコはその光を受けた一瞬のうちに出雲を出るときに出雲の父なる山々から昇る太陽に誓った「出雲の敵は全て私にお与え下さい」という、自らの願いの言葉を思い起こした。
タカヒコの体が登りゆく太陽につられて勝手に動き出した。黄金色に眩く輝く銅剣『金鵄の剣』を頭上に振りかざしながら兵が展開している路上に踊り出た。
「われこそは出雲大国主の息子、アジスキタカヒコなるぞ!!」
太陽を拝んでいた兵は慌ててタカヒコの声がする方向へと向き直った。すると、タカヒコが振りかざしていた金鵄の剣に反射した太陽の光が兵たちの目を射抜いた。
「うっ眩しい」
数10名いた兵たちのほとんどは、反射の光の眩しさに目がくらみ、そのまま立ちすくんでしまった。その様子を見渡したタカヒコは、金鵄の剣をかざしたまま兵達に向かって厳しく言い放った。
「やあやあ、ここにいる兵たちよ、お前達は三輪山の兵か?わざわざ出迎えご苦労。さあ、我らを三輪山へと案内せよ!」
そして、まだ潜んいたカヤナルミたちを自分の側へと来るように促した。その様子を暫し呆然と眺めていたコヤネが叫んだ。
「何を不埒な、ニギハヤヒ様から出雲のタカヒコを名乗る不届き者が侵入してきているから退治せよとご命令を受けているのだ。兵達よ、あの男を叩き殺せ!!さあ行くのだ!!!」
その声に反応した数名がタカヒコたちに切りかかってきた。タカヒコはカヤナルミを籠ごと木の後ろに隠し、手にしていた金鵄の剣で一太刀目を叩き落としたかと思うと、舞うように向かってきた兵たちを交わしながら一撃を食らわし、次々と兵たちを撃退した。
「どうした!三輪の兵とやらはこんなにもだらしないのか!私が大物主の座についたら鍛え直してやる。」
と、コヤネの目前に踊り出てその身体をしたたかに打ち据えた。転びながら逃げ出したコヤネは全員で取り囲めと命じた。
展開していた兵たちがタカヒコの周りに集まってくる。流石のタカヒコも数10人に一度に討ちかかられてはたまらない。
金鵄の剣を両の手で握り締めた。手に汗をかいているのはタカヒコ自身にも認識できた。
まさに絶対絶命だ。そのとき、死角になっていま曲り道の方角からトミビコたちが騎馬を駆って表れた。
トミビコたちは兵達の後ろから急襲したためタカヒコを囲もうとした兵達のほとんどは馬に蹴散らされてしまった。
「タカヒコ様、ご無事で!」
「おお、トミビコ殿良いところに来てくれた。」
タカヒコたち全員はトミビコたちの馬に乗りその場を離脱した。タカヒコはトミビコの馬に相乗りした。
「三輪山に侵入しようとしたのですが、失敗しました。三輪山の砦には橿原のイリヒコたちの兵まで到着し、蟻の入り込む隙さえありません。数百名の兵が纒向の都にひしめいております。」
「そうか、ここまで、手を打たれているとは、私も思わなかったよ」
「さて、これからどうしましょう?」
「逃げてもしようがない。出雲の敵は私が倒さなければならない。」
「とおっしゃいますが、あまりの大軍にございます。鳥見山の兵全員を集めてもどうにもなりません。」
「ここらに展開している兵だけなら蹴散らすことも可能ですが・・・」
「一人でいく」
「はっ?今なんと??」
「真正面から大物主様に面会を願い出るしかない」
「そんなことは通用しますまい。大物主さまの宮の前まで到底近づくこともできません。」
「しかし、それ以外の手はない。お前達は、ありったけの弓矢を用意して、援護してくれ。それと籠の中にいるカヤナルミを安全なところへ隠してくれ。私はこれから一人で行動する。」
タカヒコはトミビコと、砦の正面に立つタイミングだけを討ち合わせ、一人三輪山のほうへと歩いて行った。
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