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大和の章

オオモノヌシ 二十四

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コヤネは、このニギハヤヒとのやり取りの中で一つの事に気が付いた。ニギハヤヒが万が一敗れることになった場合、イワレヒコ一族を利用することによって東国支配権の確立が図れるのではないかということである。

ニギハヤヒの代理としてイワレヒコの館に赴いたことは、今後の彼らとの付き合いを深める上で自らの立場を有利に働かせる切っ掛けになるのではないかということに。

コヤネにとって、強国大和、そしてニギハヤヒの存在は東国支配の根拠の一つになっている。所謂、後ろ盾だ。その大和の中枢に時間をかけてやっと手が届いたのである。

出雲的な世界では、常陸などの東国はまだまだその他大勢の一つ。このまま座していると、やがて越の大王となるタケミナカタによって蹂躙されるであろう。



しかしそれには、より一層の深謀遠慮が必要だ。後、コヤネの中央に残ることになった子孫たちは、壽詞職という列島内部勢力の間においての外交官的役割を一族の識として持つ事になる。それが王族や部族、豪族の中を取り持つことになる『中臣』である。

そしてその立場を利用し列島が一つの王国としてまとまる途上において、彼氏の子孫達は重要なポジションを占めつづけることになるが、それはまた別のお話し・・・・・・・・・・。




コヤネが放ったヤタたち偵察員が舞い戻ってきた。タカヒコらを捕捉したのだ。といっても攻撃を仕掛けるほどの人数ではなかったので、穴師山中にいるタカヒコ、トミビコらの配置を確認しただけである。

ヤタは、トミビコらがタカヒコと合流してはいるが、精々のところ十数人しかいないことを報告した。

ニギハヤヒはその報告をうけ、勝ち目を感じた。とりあえず、橿原やニギハヤヒの息子達によるオオナンジらとタカヒコとの分断策が成功したのだ。

今すぐにも攻め込みたい気がしたが夜間に少人数を襲ってもそこからまた逃げ出されると厄介だ。

寧ろ山道を大人数で駆け上がってはタカヒコらに気づかれる。かれらが何処に潜んでいるかわかった今、そこから三輪山への道筋さえ完全に抑えればよいのだ。

まもなく夜明けだ。ニギハヤヒは、まだ寝込んでいる兵達を起こし、穴師山への真正面に整列させた。夜明けと共に穴師山に向けて先制攻撃を仕掛けるのだ。夜明けまでの短い間、ニギハヤヒは執務室にこもった。

薬香を嗅ぐためである。大陸産のケシの実の未熟なものに傷をつけ滲みでた乳状の液を乾燥させて作ったこの薬香は後に阿片と呼ばれる代物である。

ニギハヤヒはこの数日間、薬香のお陰で疲労と眠気を麻痺させてきたのだ。逆にいえば、薬香がないとニギハヤヒは今にも崩れ落ちそうなほどの疲労感にとらわれているだ。

「ニギハヤヒ様、まもなく夜明けです。」

室外から兵の呼ぶ声がした。一時のまどろみの中からニギハヤヒの意識が戻ってきた。すっくと立ちあがったニギハヤヒの目は疲れを知らぬ獣の如く爛々と輝いていた。

いよいよタカヒコと、いや出雲と、そして古い倭国と対峙するときが来たのだ。ほんのりと東の空の端が赤くなり始めていた。

まもなく太陽が三輪山の陰から顔を出すだろう。その前に出動させねばならない。大物主とタカヒコを会わせてはならない。タカヒコらにも無用なパフォーマンスをさせるわけにはいかない。

ニギハヤヒは整列した100名ほどの精鋭の前にたち声高に叫んだ。

「さあ、みなの者!大倭の大物主様に仇を成そうとしている者供が、穴師山に潜んでいる。これを見つけ出して征伐せねばならぬ。鳥見山のトミビコも謀反を起こそうとしている。」

ナガスネヒコ謀反と聞いて集められた兵達がざわめいた。ニギハヤヒは兵を見渡し更に続けた。

「このまほろばの国を守るのは、出雲人ではない。我々ここに暮らす者達だ」

トミビコとナガスネヒコの強さを骨の髄まで経験している兵達は唾をごくっと飲み込んだ。彼らを敵に回すという恐怖が兵達に充満しているのが見てとれた。

ニギハヤヒはそれを眺めながら笑ってみせた。

「トミビコ、ナガスネヒコが強いのは、お前達、ヤマトの猛き強者どもが付いているからだ!よいか!」

兵達は自発的に吠えた。その咆哮を満足気に聞いたニギハヤヒは穴師の方向に向けて采を振るった。

「さぁ今からこのヤタの案内に従って賊を討つのだ!」

兵達は、その声に更なる雄たけびで答えた。ヤタの率いる数人が砦からまず出発した。それに続くように大和の三輪山の精鋭達は穴師山に向かっていくのだった。
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