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大和の章
オオモノヌシ 七
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「もしや、三輪山が彼らの手に落ちたのでは?」
「そうかもしれんな、だからあんな三輪山のすぐ近くに筑紫者を置くなと大物主様には言っておいたんだが・・。」
「ちょっと待ってください」
と、タカヒコが口を挟んだ。
「三輪山が落ちるほどの政変が起こったのなら、河内に伝わらぬはずはないでしょう?ヤソタケルの情報収集力はご存知でしょう?」
「ということは??」
「橿原が、大和の代表として我らを迎えにきたか、もしくは・・・」
「もしくは??」
オオナンジはタカヒコを急かすように問いを重ねた。
「ニギハヤヒが橿原を味方に引き入れた?」
「迎えに参ったということはないだろう。こっそり見張ってたようだから・・。」
「ふむ。いずれにせよここから橿原を抜けるまで何があるかわからんということだ!」
と、オオナンジは吐き捨てるように言い放った。
その瞬間、二上山から大きな音が鳴り響いた。
『ベキッ、べきっ』
大木をへし折るような音だ。山に目をやると木々が次から次へと横倒しになっていく。
「くっ!まずい!」
と、山の様子を見ていた加茂のタニグクが叫んだ。
「大岩が落ちてきます!!さぁみんな船に!!!」
どうやら、山上から大岩を落されたようである。ここは狭い川原、直撃は避けられない。岩の勢いによって山の一部の崩れはじめたようだ。あわててその場に居た全員が川へと逃げ込んだ。
岩は、川原につないでいた五艘の船の内、三艘に直撃しそれを道連れに川に転げ落ちた。残りの二艘も岩に押し出される格好で川の中ほどまで流されてしまった。川原は土砂でうまり休憩所の建物は残骸も見えない。
川に飛び込んだタカヒコは、船までなんとか泳ぎ着いた。船に上がり、辺りを見回したが伊和大神らの姿が見えない。休憩を取っていた川原の反対側の岸は断崖である。ニ上山からの大岩落しを合図にしたのか、断崖の上からも川に向かって投石が始められた。
なんとご丁寧にも一々石を真赤な色になるまで焼いているようだ。石が着水する水しぶきの音に混じり、水の蒸発する「ジュジュー」という音が混じっている。
一艘が断崖からの投石で沈んだ。暫くすると、崖の上からの投石は止んだ。この上にはヤソタケルが管理している烽火台があるはずだ。ということはもうこのあたりの烽火台は制圧されてしまっていると見たほうがいい。
船の上から、何人かの加茂の民と播磨のシコオを助け上げたが、伊和大神やナガスネヒコ、タケミカヅチ、タニグクら主要な人物の姿は、川下へと流されてしまったのか見当たらない。
引き上げた者たちに操船を任せ、タカヒコは尚も周囲に目を凝らした。少し川上で見覚えのある鹿皮の鎧を着た男が泳いでいるのに気がついた。どうやらタケミカヅチのようだ。
向こうも船に気がついたらしく、まっすぐこちらに向かって泳ぎ出し、その姿は見る見るうちに近づいてきた。
「ミカヅチ、大事ないか?」
と、船に縋りついたミカヅチを引き上げながらタカヒコは問い掛けた。
「私は、無事でございます。しこたま大和川の水を馳走してもらいましたが・・・。タカヒコ様はお怪我はなさいませんでしたか?」
「ふっ、軽口がでるようなら安心だな。しかし伊和様とナガスネヒコが見当たらないのだ。それとタニグクもおらぬ。」
タカヒコの船にミカヅチが助けられたのを、断崖の上から覗き込んでいたものがいる。名はヒオミ、橿原の臣(大伴氏の祖とされる)である。
彼が率いる久米軍はイワレヒコが筑紫を発ったときから随っているいわば股肱の臣である。
「どうだ?下の様子は???」
と、ヒオミは部下の物見の兵に聞いた。
「は、ヒオミ様のご計画とおり、一艘だけ残して残りの全部を沈没させました。」
「これで、生き残ったものは全部あの船に集まってくる。そこをこの真赤に焼いた大石で留めを指すのだ。」
「了解しました」
タケミカヅチはタカヒコに進言した。
「とにかく、早くここから離脱しましょう。オオナンジ様もナガスネヒコ様も山岳戦を得意とそれています。あのお二人のことならご心配はいらないと思います。」
「いや、そうはいかない。ナガスネヒコはともかく、オオナンジ様は御高齢、これを打ち捨てて私だけ逃れるわけにはいかない」
「いや、しかし・・・」
と二人が問答を繰り返していると船の下からタニグクの声がした。
「タカヒコ様、ここはタケミカヅチ様の言われるとおり、全速で通りぬけられた方がよろしいと思います。オオナンジ様とナガスネヒコ様は私が探します。」
「おう!タニグク無事であったか!!しかしそれはできぬ。よそ者の私が味方を捨てて逃げたとあっては大和を治めることなどできなくなる。しかもあれほど世話になったオオナンジ様を見捨てるなどあっては成らぬ。大物主の座うんぬんよりも父・大国主に申し訳が立たん!!」
と、その時断崖の上の方から辺りから喚声が響いた。
「そうかもしれんな、だからあんな三輪山のすぐ近くに筑紫者を置くなと大物主様には言っておいたんだが・・。」
「ちょっと待ってください」
と、タカヒコが口を挟んだ。
「三輪山が落ちるほどの政変が起こったのなら、河内に伝わらぬはずはないでしょう?ヤソタケルの情報収集力はご存知でしょう?」
「ということは??」
「橿原が、大和の代表として我らを迎えにきたか、もしくは・・・」
「もしくは??」
オオナンジはタカヒコを急かすように問いを重ねた。
「ニギハヤヒが橿原を味方に引き入れた?」
「迎えに参ったということはないだろう。こっそり見張ってたようだから・・。」
「ふむ。いずれにせよここから橿原を抜けるまで何があるかわからんということだ!」
と、オオナンジは吐き捨てるように言い放った。
その瞬間、二上山から大きな音が鳴り響いた。
『ベキッ、べきっ』
大木をへし折るような音だ。山に目をやると木々が次から次へと横倒しになっていく。
「くっ!まずい!」
と、山の様子を見ていた加茂のタニグクが叫んだ。
「大岩が落ちてきます!!さぁみんな船に!!!」
どうやら、山上から大岩を落されたようである。ここは狭い川原、直撃は避けられない。岩の勢いによって山の一部の崩れはじめたようだ。あわててその場に居た全員が川へと逃げ込んだ。
岩は、川原につないでいた五艘の船の内、三艘に直撃しそれを道連れに川に転げ落ちた。残りの二艘も岩に押し出される格好で川の中ほどまで流されてしまった。川原は土砂でうまり休憩所の建物は残骸も見えない。
川に飛び込んだタカヒコは、船までなんとか泳ぎ着いた。船に上がり、辺りを見回したが伊和大神らの姿が見えない。休憩を取っていた川原の反対側の岸は断崖である。ニ上山からの大岩落しを合図にしたのか、断崖の上からも川に向かって投石が始められた。
なんとご丁寧にも一々石を真赤な色になるまで焼いているようだ。石が着水する水しぶきの音に混じり、水の蒸発する「ジュジュー」という音が混じっている。
一艘が断崖からの投石で沈んだ。暫くすると、崖の上からの投石は止んだ。この上にはヤソタケルが管理している烽火台があるはずだ。ということはもうこのあたりの烽火台は制圧されてしまっていると見たほうがいい。
船の上から、何人かの加茂の民と播磨のシコオを助け上げたが、伊和大神やナガスネヒコ、タケミカヅチ、タニグクら主要な人物の姿は、川下へと流されてしまったのか見当たらない。
引き上げた者たちに操船を任せ、タカヒコは尚も周囲に目を凝らした。少し川上で見覚えのある鹿皮の鎧を着た男が泳いでいるのに気がついた。どうやらタケミカヅチのようだ。
向こうも船に気がついたらしく、まっすぐこちらに向かって泳ぎ出し、その姿は見る見るうちに近づいてきた。
「ミカヅチ、大事ないか?」
と、船に縋りついたミカヅチを引き上げながらタカヒコは問い掛けた。
「私は、無事でございます。しこたま大和川の水を馳走してもらいましたが・・・。タカヒコ様はお怪我はなさいませんでしたか?」
「ふっ、軽口がでるようなら安心だな。しかし伊和様とナガスネヒコが見当たらないのだ。それとタニグクもおらぬ。」
タカヒコの船にミカヅチが助けられたのを、断崖の上から覗き込んでいたものがいる。名はヒオミ、橿原の臣(大伴氏の祖とされる)である。
彼が率いる久米軍はイワレヒコが筑紫を発ったときから随っているいわば股肱の臣である。
「どうだ?下の様子は???」
と、ヒオミは部下の物見の兵に聞いた。
「は、ヒオミ様のご計画とおり、一艘だけ残して残りの全部を沈没させました。」
「これで、生き残ったものは全部あの船に集まってくる。そこをこの真赤に焼いた大石で留めを指すのだ。」
「了解しました」
タケミカヅチはタカヒコに進言した。
「とにかく、早くここから離脱しましょう。オオナンジ様もナガスネヒコ様も山岳戦を得意とそれています。あのお二人のことならご心配はいらないと思います。」
「いや、そうはいかない。ナガスネヒコはともかく、オオナンジ様は御高齢、これを打ち捨てて私だけ逃れるわけにはいかない」
「いや、しかし・・・」
と二人が問答を繰り返していると船の下からタニグクの声がした。
「タカヒコ様、ここはタケミカヅチ様の言われるとおり、全速で通りぬけられた方がよろしいと思います。オオナンジ様とナガスネヒコ様は私が探します。」
「おう!タニグク無事であったか!!しかしそれはできぬ。よそ者の私が味方を捨てて逃げたとあっては大和を治めることなどできなくなる。しかもあれほど世話になったオオナンジ様を見捨てるなどあっては成らぬ。大物主の座うんぬんよりも父・大国主に申し訳が立たん!!」
と、その時断崖の上の方から辺りから喚声が響いた。
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