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播磨の章
オオナンジ 三
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オオナンジの事を知らないタケミカヅチには何がどうなっているのかさっぱり理解できなかった。
「まだ解らぬか、このままでは我等は全滅するやもしれぬ。早々に住吉の港まで退却するのだ。あそこならコヤネの配下いる。河内まで退却もできよう、さあ、全軍退却だ!!」
「はっはい!」
大和軍は、圧倒的優位の状態からホンの一時ほどで一気に劣勢となってしまった。馬首をかえした大和騎馬軍だったが、退却すべき道も封じられてしまった。背後の摂津方面からも水が出て行く手を阻んだ。
さらにシコオ軍の弓隊が射撃をしながら押し寄せてきたのだ。播磨軍は上流で既に二手に分かれていたのだ。川からはオオナンジ率いる本隊、摂津方面の陸上からはシコオの弓隊。押すも退くもできなくなった大和軍は円陣を組みナガスネヒコとミカヅチを中心に集まった。
「万事休すとはまさにこのこと。」
ナガスネヒコは悟ったような顔つきで、抵抗をやめさせた。一方シコオたちもじわじわと包囲を狭めてはくるが、大和軍が円陣組んでからは一本の矢さえ撃ってこない。 川船を岸につけたオオナンジは、部下にタカヒコたちを迎えに行かせた。まるでナガスネヒコらを無視するかのような態度である。まずタカヒコと初対面の柏手の儀式と挨拶を済ませたオオナンジはナガスネヒコとタケミカヅチを自分たちの方へと呼び出した。
「また、ニギハヤヒの策略だな?ナガスネよ?」
オオナンジは憎々しげにナガスネヒコに問うた。
「いえこれは、大物主様のご意志でございます。」
「ふん、トボケるな。ワシラ播磨勢を偽の情報で但馬におびき出し、その隙に大和きの周囲の国々を奪おうという魂胆であろう?」
「いえ、そのようなことは・・・・。」
「では何故、タカヒコ様の大和入りを邪魔する??うん?答えてみろナガスネ!」
オオナンジは強い口調でナガスネヒコを詰問した。ナガスネヒコは恐れ畏まり平伏した。
「我等は、大物主様の命令として、ニギハヤヒ様より命令をうけております」
「ニギハヤヒには、忠義だてするのか?」
「いえニギハヤヒ様ではなく、大物主様、ひいては大国主様に忠を尽くしているつもりです」
「ニギハヤヒのいう事を聞くという事は、大物主様、大国主様に弓を引くということになるのがまだ解らぬか!現にこの東国の若僧は大国主様の御子であり大物主様のご養子になり次ぎの大物主となられるタカヒコ様に弓ひいたというではないか!この失態は如何にするつもりだ!!!」
「如何にも、申し開きはでき申さぬ。このナガスネめとミカヅチの首をオオナンジ様、タカヒコ様に奉りましょう。」
と、ナガスネヒコは更に平伏して答えた。それを聞いたオオナンジはまずタケミカヅチから処刑するように命じた。その時ずっと横でオオナンジの詰問を黙って聞いていたタカヒコが初めて口を挟んだ。
「オオナンジ様、そこまですることはないでしょう。このミカヅチと申す者の武勇には恐れ入りました。川をまたいで矢を射通すなど倭国広しといえどもざらには居ますまい。その力が惜しゅうございます。これから筑紫との闘いも本格化するでしょうし是非ミカヅチやナガスネヒコ殿の力は是非とも必要だと思います。」
「いや、こやつらのような節操のないものを生かしておいても、将来の禍根になりますぞ。タカヒコ様。」
「ならば、この二人を私の直属の家臣に頂けないでしょうか?私が責任をもちます」
「うーん、そこまでミカヅチの武勇にご執心ですか。撃たれたあなたがそういうならばこの失態は不問と致しましょう。しかし大物主様から与えられた両者の権益は剥奪する事を、私から直接大物主様に申し上げます。以降はあなた様の直臣として教育なされよ。東国者はその心ねの変えようが難しいです。肝に命じなされよ。タカヒコ様。」
タカヒコのこの二人への命乞いは、後に大きな仇となって返ってくるのだが、タカヒコはこの時二人の豪傑を得た喜びに浸って先のことまで読めなくなっていたのである。
「まだ解らぬか、このままでは我等は全滅するやもしれぬ。早々に住吉の港まで退却するのだ。あそこならコヤネの配下いる。河内まで退却もできよう、さあ、全軍退却だ!!」
「はっはい!」
大和軍は、圧倒的優位の状態からホンの一時ほどで一気に劣勢となってしまった。馬首をかえした大和騎馬軍だったが、退却すべき道も封じられてしまった。背後の摂津方面からも水が出て行く手を阻んだ。
さらにシコオ軍の弓隊が射撃をしながら押し寄せてきたのだ。播磨軍は上流で既に二手に分かれていたのだ。川からはオオナンジ率いる本隊、摂津方面の陸上からはシコオの弓隊。押すも退くもできなくなった大和軍は円陣を組みナガスネヒコとミカヅチを中心に集まった。
「万事休すとはまさにこのこと。」
ナガスネヒコは悟ったような顔つきで、抵抗をやめさせた。一方シコオたちもじわじわと包囲を狭めてはくるが、大和軍が円陣組んでからは一本の矢さえ撃ってこない。 川船を岸につけたオオナンジは、部下にタカヒコたちを迎えに行かせた。まるでナガスネヒコらを無視するかのような態度である。まずタカヒコと初対面の柏手の儀式と挨拶を済ませたオオナンジはナガスネヒコとタケミカヅチを自分たちの方へと呼び出した。
「また、ニギハヤヒの策略だな?ナガスネよ?」
オオナンジは憎々しげにナガスネヒコに問うた。
「いえこれは、大物主様のご意志でございます。」
「ふん、トボケるな。ワシラ播磨勢を偽の情報で但馬におびき出し、その隙に大和きの周囲の国々を奪おうという魂胆であろう?」
「いえ、そのようなことは・・・・。」
「では何故、タカヒコ様の大和入りを邪魔する??うん?答えてみろナガスネ!」
オオナンジは強い口調でナガスネヒコを詰問した。ナガスネヒコは恐れ畏まり平伏した。
「我等は、大物主様の命令として、ニギハヤヒ様より命令をうけております」
「ニギハヤヒには、忠義だてするのか?」
「いえニギハヤヒ様ではなく、大物主様、ひいては大国主様に忠を尽くしているつもりです」
「ニギハヤヒのいう事を聞くという事は、大物主様、大国主様に弓を引くということになるのがまだ解らぬか!現にこの東国の若僧は大国主様の御子であり大物主様のご養子になり次ぎの大物主となられるタカヒコ様に弓ひいたというではないか!この失態は如何にするつもりだ!!!」
「如何にも、申し開きはでき申さぬ。このナガスネめとミカヅチの首をオオナンジ様、タカヒコ様に奉りましょう。」
と、ナガスネヒコは更に平伏して答えた。それを聞いたオオナンジはまずタケミカヅチから処刑するように命じた。その時ずっと横でオオナンジの詰問を黙って聞いていたタカヒコが初めて口を挟んだ。
「オオナンジ様、そこまですることはないでしょう。このミカヅチと申す者の武勇には恐れ入りました。川をまたいで矢を射通すなど倭国広しといえどもざらには居ますまい。その力が惜しゅうございます。これから筑紫との闘いも本格化するでしょうし是非ミカヅチやナガスネヒコ殿の力は是非とも必要だと思います。」
「いや、こやつらのような節操のないものを生かしておいても、将来の禍根になりますぞ。タカヒコ様。」
「ならば、この二人を私の直属の家臣に頂けないでしょうか?私が責任をもちます」
「うーん、そこまでミカヅチの武勇にご執心ですか。撃たれたあなたがそういうならばこの失態は不問と致しましょう。しかし大物主様から与えられた両者の権益は剥奪する事を、私から直接大物主様に申し上げます。以降はあなた様の直臣として教育なされよ。東国者はその心ねの変えようが難しいです。肝に命じなされよ。タカヒコ様。」
タカヒコのこの二人への命乞いは、後に大きな仇となって返ってくるのだが、タカヒコはこの時二人の豪傑を得た喜びに浸って先のことまで読めなくなっていたのである。
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