大陰史記〜出雲国譲りの真相〜

桜小径

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播磨の章

オオナンジ 一

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タカヒコは一瞬身構えたが、たじろぐ様子もなくミカヅチの方へと馬を進ませた。 

「聞こえぬのか?止まらぬと今度は御主めがけて矢を射るぞ!」 

とタケミカヅチは更に声をかけた。それを見ていたアシハラシコヲの一人がタカヒコに声をかけた。

「タカヒコ様、ここは私が様子を見てきましょう」

 彼はタカヒコの返事を待たずタカヒコの前に馬を踊らせせた。 

「やあやあ、我等は播磨のアシハラシコヲはなる者。こちらに坐すのは、大和大物主様の招きにより大和へと向かう出雲大国主様の御子、アジスキタカヒコネ様なるぞ!」

シコオは大きな声でミカヅチらに呼びかけながら馬を進めた。シコオが向こう岸に辿りつく寸前、タケミカヅチらは一斉にシコオに向けて矢を放った。何本かの矢がシコオの跨る馬に命中し、シコオは川に投げ出された。馬から落ちたシコオが川から身を起こした瞬間、ミカヅチの強弓から飛び出した矢がシコオの体を打ちぬいた。 

一瞬何が起こったかタカヒコには理解できなかった。 

「まずい!全員岸に戻れ、何か変だ!」

 加茂の里からずっと一緒だったタニグクが慌ててタカヒコの馬を引っ張り、播磨側の 川岸まで退却させた。 川岸に戻ったタカヒコたちは考え込んだ。 

「大物主の家来がどうして我々を阻むのだ??」

 タニグクが答えに窮していると、同じく加茂の民であるカガセオが口を開いた。 

「おそらく、ニギハヤヒとかいう新参者の罠でしょう」 

「どういう事だ?」 

「詳しいことは解りませんが、カブロギクシミケヌ様がニギハヤヒには気をつけろと私に 言いつけられました」 

それを聞いていたアシハラシコヲの一人が独り言のように呟いた。 

「くそっ!ニギハヤヒめ。」 

「シコオ達で何か知っておるものはいないか?」 

とタカヒコはシコオたちの方を見た。一人がタカヒコの前に進み出て答えた。 

「実は、オオナンジ様も同じことをおっしゃってたのです。『ニギハヤヒに気をつけろ』と・・・」 

「どういう事なんだ?ニギハヤヒは大物主を助ける有能な人物と聞いておったが?」 

「伊和大神様がおっしゃる事には『ニギハヤヒは、どうやら大国主様の支配から抜けようとしているかもしれない』とのことでした」 「なんと!どうしてだ??」

「大国主様からみれば播磨のオオナンジ様も大和の大物主様も讃岐のコンピラ様も伊予のオオヤマツミ様々なみな同じ 立場のはずですよね?」 

とシコオはタカヒコの目をじっと見て尋ねた。 

「そうだ、本当の親子、兄弟ではないにせよ、皆同じ血縁をもった家族だ。大国主様は播磨 も大和もみんな子供のように思ってらっしゃるはずだし、私もそう聞かされて育っ た。」

「それがタカヒコ様、ニギハヤヒはオオナンジ様に貢物を要求してきたのです」

「貢物だと?それは僭越な!大和には東国の貢物の管理は任せておるが、その他の 国々は直接出雲に貢ぐことになっているはずだ」

「それが・・・・」

「それでオオナンジ様は貢いだのか?大物主様に?」 

「いえ、直接大物主様に確認したところ手違いであるとの仰せでした。しかし・・・」

「しかし、何だ!早く申せ!」

「その直後、ニギハヤヒに10数年前の日矛撃退戦の戦費を要求されました。あの戦争のおり、日矛らに田畑を焼かれた播磨の国では兵糧を賄うことができず、大和から大量に援助してもらっていたのです。それを返せという事で・・・。オオナンジ様は『あの戦は出雲大国主様の号令で行われたもの。その年、大和は出雲への貢物を免除されているはずだ』と突っぱねたのですが、すると今度は、淡路の海人を抱き込んで海産物を高値で我等に商おうとする始末、それも大物主様との直接交渉で撤回させたようですが、このところ大物主様と直接の連絡がとれなくなってきておるようです。そんなこんなに限らず、大和の優位を出雲直属の他国に知らしめようとしておるようです」 

「ふむぅ。大国主様に東国の支配の代行を大和がする事の許しを願ってきたのもニギハヤヒが宰相になってからの事。近隣の西国にまでとは!国作りに熱心だと思うておったが・・・」

「先ほどの剛弓もおそらくニギハヤヒが仕向けた東国の者でしょう。大和のものたちならば大国主様の御子と名乗るものに弓を射かけたりは致しますまい」

「大物主様の御心はどうなのだろう?本当にニギハヤヒでなく私に後を継がせたいのであろうか?」

「それはそうでございましょう。ニギハヤヒが立てばもう一方の雄橿原のイワレヒコ一族が黙っておりませぬ。かといって橿原のものは筑紫邪馬台の血を継ぐもの。そうなれば加茂の民や大和の他の豪族も黙ってはおりますまい。大和の誰が後をついでも一悶着あるのは避けられない。だからこそ大物主様だけでなく我が主のオオナンジ様はタカヒコ様の後大和下向を願ったのでしょう」 
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