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播磨の章
タカヒコとシイネツヒコ
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シイネツヒコとタカヒコは幼いころに数ヶ月いっしょに暮らしていた。大山祇から大国主への人質として出雲に預けられていたのだ。二人は歳も近く仲も良かった。数年振りの再会をお互い喜んだ。シイネツヒコと入れ違いにやってきたホアカリは彼とは初対面であった。
タカヒコとホアカリを前に、シイネツヒコは自分の策を披露した。出雲と筑紫を合体させるという壮大な策略である。その策になくてはならないのが大物主になるタカヒコだった。 タカヒコはシイネツヒコの策に乗り気であった。
ここ数年大陸と半島では諍いが続き出雲を拠点とした交易も頭打ちの状態であり、それに反して大和では東国経営の成功もあり賑わっている。これからも成長をつづけるのはタカヒコらにもわかっていた。
そして何より守るのに適した地形でもあり、これからの倭国の都として相応しい。 タカヒコとシイネツヒコはお互いのもつ情報を交換し、これからの動きを確認しあった。
二人の思惑は「革新に見せかけた保守」である。筑紫にあって出雲にないもの。それは東アジアにおける国際的な国主としての正当性であった。
簡単に言うと晋から新たに贈られた「倭王の印綬」である。これを握っているからこそオモイカネ親子は筑紫国主として、また倭国の代表者然としていられるのだ。
今大陸は混乱期に入ったとはいえ晋の皇帝がこの世に存在する限り「倭王の印綬」も効力を発揮しつづけるのだ。もちろん実力のないものが印綬を手にいれてもそれは単なる飾り物に過ぎない。倭国に存在する諸勢力の実力が拮抗しているからこそ余計に印綬は輝きだすのだ。
「さて、そろそろ日矛を見舞いに行くか」
シイネツヒコは座を立ちながら呟いた。
「よし、私も行こう」
「いや、タカヒコ殿は大和へ向かわれよ。後のことはこのシイネツヒコにお任せあれ」
「しかし・・・」
「アカルヒメ様の事がご心配か?」
「それはそうだ」
「しかし、大物主さまは相当危ないと聞いておる。その死に目に間に合わなくてはすんなり跡目につけるかどうか?もめまするぞ。イワレヒコやイリヒコら橿原勢は先代大物主の血をひくマキヒメを擁してニギハヤヒに対抗しようとしておるらしい。今宰相のニギハヤヒと橿原が本格的に争うようなことになれば大和は荒れますぞ」 「ふむ、それも一理あるが・・・。」
「タカヒコ様」
傷ついた体を起こしホアカリがタカヒコに話かけた。
「ここは私とシイネツヒコ殿に任せて先を急いでください。このホアカリ一命を賭してでもアカルヒメ様の御命は守ります。どうか・・・。」
「よしわかった。ホアカリ、シイネツヒコよ、アカルヒメとツヌガアラシトのことは任せた。私は大和へ急ぐとしよう」
タカヒコは先の戦闘で残った無傷のシコオの軍を二手にわけ20騎ずつとし、一方をホアカリに預けも一方をひきつれて相野から夢前川のほうへ抜ける陸路から日女道丘を抜け海岸線沿いに大和を目指して旅だっていった。
その頃、日矛の残党らは一計を案じていた。但馬、丹波に残っているアラシトや日矛たちの一族を動かすつもりである。
吉備の本隊が身動きをとれない以上、数の上ではシコオたちと戦っても絶対的な不利は目に見えている。但馬丹波方面は出雲からの圧迫が強すぎて表面的には出雲に従っているが血を分けた子供たちと彼らの家族がいるのだ。
シコオたちの総大将オオナンジが但馬方面で起こった騒乱を鎮めるために出陣しているが、これも播磨のアシハラシコオ全軍を相手にすれば戦闘状態が長くなり外交活動もきなくなるのをさけるため、シコオ軍を二手に分けさせようとしたアラシトの計略によるものだ。
ほとんどのアシハラシコオの軍を引き連れて但馬へ向かった伊和大神はまんまとアラシトの策に嵌った格好である。
タカヒコを見送ったシイネツヒコとホアカリは早速アカルヒメ救出のための行動を起こした。アラシトを縛り付けたまま船に乗せ、一行は川下で野営している日矛らのもとへと急いだ。
「上手く行きますか」
ホアカリは背中の痛みを堪え、向かいに座っているシイネツヒコに話しかけた。
「人質の交換なら、向こうは一も二もなく飛びつきましょう。なにしろ吉備の大王を返すというのですから。しかしそれでは芸がない」
「というと?」
「倭国動乱の引鉄となった天之日矛を根こそぎ叩き潰すチャンスでもある。吉備の水軍はこちらが完全にくいとめています。相手には何の武器もない。アラシトの智謀だけが奴らの武器なのです。かといってタカヒコ様が大和に向かわれた今我々にも奴らを完全に叩くほどの武力がない。下手に動いて混乱している但馬、丹波にでも逃げられればそれこそ、元の木阿弥になり第二のアラシトがでてくるやも知れぬ。」
「では、どういう手立てを?」
「そこです。ホアカリ殿とアカルヒメ様をアラシトの養子とし、天之日矛の軍団をあなたに率いてもらうというのはどうでしょう?そうすれば後顧の憂いは絶てます。」
タカヒコとホアカリを前に、シイネツヒコは自分の策を披露した。出雲と筑紫を合体させるという壮大な策略である。その策になくてはならないのが大物主になるタカヒコだった。 タカヒコはシイネツヒコの策に乗り気であった。
ここ数年大陸と半島では諍いが続き出雲を拠点とした交易も頭打ちの状態であり、それに反して大和では東国経営の成功もあり賑わっている。これからも成長をつづけるのはタカヒコらにもわかっていた。
そして何より守るのに適した地形でもあり、これからの倭国の都として相応しい。 タカヒコとシイネツヒコはお互いのもつ情報を交換し、これからの動きを確認しあった。
二人の思惑は「革新に見せかけた保守」である。筑紫にあって出雲にないもの。それは東アジアにおける国際的な国主としての正当性であった。
簡単に言うと晋から新たに贈られた「倭王の印綬」である。これを握っているからこそオモイカネ親子は筑紫国主として、また倭国の代表者然としていられるのだ。
今大陸は混乱期に入ったとはいえ晋の皇帝がこの世に存在する限り「倭王の印綬」も効力を発揮しつづけるのだ。もちろん実力のないものが印綬を手にいれてもそれは単なる飾り物に過ぎない。倭国に存在する諸勢力の実力が拮抗しているからこそ余計に印綬は輝きだすのだ。
「さて、そろそろ日矛を見舞いに行くか」
シイネツヒコは座を立ちながら呟いた。
「よし、私も行こう」
「いや、タカヒコ殿は大和へ向かわれよ。後のことはこのシイネツヒコにお任せあれ」
「しかし・・・」
「アカルヒメ様の事がご心配か?」
「それはそうだ」
「しかし、大物主さまは相当危ないと聞いておる。その死に目に間に合わなくてはすんなり跡目につけるかどうか?もめまするぞ。イワレヒコやイリヒコら橿原勢は先代大物主の血をひくマキヒメを擁してニギハヤヒに対抗しようとしておるらしい。今宰相のニギハヤヒと橿原が本格的に争うようなことになれば大和は荒れますぞ」 「ふむ、それも一理あるが・・・。」
「タカヒコ様」
傷ついた体を起こしホアカリがタカヒコに話かけた。
「ここは私とシイネツヒコ殿に任せて先を急いでください。このホアカリ一命を賭してでもアカルヒメ様の御命は守ります。どうか・・・。」
「よしわかった。ホアカリ、シイネツヒコよ、アカルヒメとツヌガアラシトのことは任せた。私は大和へ急ぐとしよう」
タカヒコは先の戦闘で残った無傷のシコオの軍を二手にわけ20騎ずつとし、一方をホアカリに預けも一方をひきつれて相野から夢前川のほうへ抜ける陸路から日女道丘を抜け海岸線沿いに大和を目指して旅だっていった。
その頃、日矛の残党らは一計を案じていた。但馬、丹波に残っているアラシトや日矛たちの一族を動かすつもりである。
吉備の本隊が身動きをとれない以上、数の上ではシコオたちと戦っても絶対的な不利は目に見えている。但馬丹波方面は出雲からの圧迫が強すぎて表面的には出雲に従っているが血を分けた子供たちと彼らの家族がいるのだ。
シコオたちの総大将オオナンジが但馬方面で起こった騒乱を鎮めるために出陣しているが、これも播磨のアシハラシコオ全軍を相手にすれば戦闘状態が長くなり外交活動もきなくなるのをさけるため、シコオ軍を二手に分けさせようとしたアラシトの計略によるものだ。
ほとんどのアシハラシコオの軍を引き連れて但馬へ向かった伊和大神はまんまとアラシトの策に嵌った格好である。
タカヒコを見送ったシイネツヒコとホアカリは早速アカルヒメ救出のための行動を起こした。アラシトを縛り付けたまま船に乗せ、一行は川下で野営している日矛らのもとへと急いだ。
「上手く行きますか」
ホアカリは背中の痛みを堪え、向かいに座っているシイネツヒコに話しかけた。
「人質の交換なら、向こうは一も二もなく飛びつきましょう。なにしろ吉備の大王を返すというのですから。しかしそれでは芸がない」
「というと?」
「倭国動乱の引鉄となった天之日矛を根こそぎ叩き潰すチャンスでもある。吉備の水軍はこちらが完全にくいとめています。相手には何の武器もない。アラシトの智謀だけが奴らの武器なのです。かといってタカヒコ様が大和に向かわれた今我々にも奴らを完全に叩くほどの武力がない。下手に動いて混乱している但馬、丹波にでも逃げられればそれこそ、元の木阿弥になり第二のアラシトがでてくるやも知れぬ。」
「では、どういう手立てを?」
「そこです。ホアカリ殿とアカルヒメ様をアラシトの養子とし、天之日矛の軍団をあなたに率いてもらうというのはどうでしょう?そうすれば後顧の憂いは絶てます。」
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