大陰史記〜出雲国譲りの真相〜

桜小径

文字の大きさ
上 下
32 / 179
播磨の章

タカヒコとシイネツヒコ

しおりを挟む
シイネツヒコとタカヒコは幼いころに数ヶ月いっしょに暮らしていた。大山祇から大国主への人質として出雲に預けられていたのだ。二人は歳も近く仲も良かった。数年振りの再会をお互い喜んだ。シイネツヒコと入れ違いにやってきたホアカリは彼とは初対面であった。 

タカヒコとホアカリを前に、シイネツヒコは自分の策を披露した。出雲と筑紫を合体させるという壮大な策略である。その策になくてはならないのが大物主になるタカヒコだった。 タカヒコはシイネツヒコの策に乗り気であった。

ここ数年大陸と半島では諍いが続き出雲を拠点とした交易も頭打ちの状態であり、それに反して大和では東国経営の成功もあり賑わっている。これからも成長をつづけるのはタカヒコらにもわかっていた。

そして何より守るのに適した地形でもあり、これからの倭国の都として相応しい。 タカヒコとシイネツヒコはお互いのもつ情報を交換し、これからの動きを確認しあった。

二人の思惑は「革新に見せかけた保守」である。筑紫にあって出雲にないもの。それは東アジアにおける国際的な国主としての正当性であった。

簡単に言うと晋から新たに贈られた「倭王の印綬」である。これを握っているからこそオモイカネ親子は筑紫国主として、また倭国の代表者然としていられるのだ。

今大陸は混乱期に入ったとはいえ晋の皇帝がこの世に存在する限り「倭王の印綬」も効力を発揮しつづけるのだ。もちろん実力のないものが印綬を手にいれてもそれは単なる飾り物に過ぎない。倭国に存在する諸勢力の実力が拮抗しているからこそ余計に印綬は輝きだすのだ。 

「さて、そろそろ日矛を見舞いに行くか」 

シイネツヒコは座を立ちながら呟いた。 

「よし、私も行こう」 

「いや、タカヒコ殿は大和へ向かわれよ。後のことはこのシイネツヒコにお任せあれ」 

「しかし・・・」 

「アカルヒメ様の事がご心配か?」 

「それはそうだ」 

「しかし、大物主さまは相当危ないと聞いておる。その死に目に間に合わなくてはすんなり跡目につけるかどうか?もめまするぞ。イワレヒコやイリヒコら橿原勢は先代大物主の血をひくマキヒメを擁してニギハヤヒに対抗しようとしておるらしい。今宰相のニギハヤヒと橿原が本格的に争うようなことになれば大和は荒れますぞ」 「ふむ、それも一理あるが・・・。」 

「タカヒコ様」 

傷ついた体を起こしホアカリがタカヒコに話かけた。  

「ここは私とシイネツヒコ殿に任せて先を急いでください。このホアカリ一命を賭してでもアカルヒメ様の御命は守ります。どうか・・・。」 

「よしわかった。ホアカリ、シイネツヒコよ、アカルヒメとツヌガアラシトのことは任せた。私は大和へ急ぐとしよう」 

タカヒコは先の戦闘で残った無傷のシコオの軍を二手にわけ20騎ずつとし、一方をホアカリに預けも一方をひきつれて相野から夢前川のほうへ抜ける陸路から日女道丘を抜け海岸線沿いに大和を目指して旅だっていった。 

その頃、日矛の残党らは一計を案じていた。但馬、丹波に残っているアラシトや日矛たちの一族を動かすつもりである。

吉備の本隊が身動きをとれない以上、数の上ではシコオたちと戦っても絶対的な不利は目に見えている。但馬丹波方面は出雲からの圧迫が強すぎて表面的には出雲に従っているが血を分けた子供たちと彼らの家族がいるのだ。 

シコオたちの総大将オオナンジが但馬方面で起こった騒乱を鎮めるために出陣しているが、これも播磨のアシハラシコオ全軍を相手にすれば戦闘状態が長くなり外交活動もきなくなるのをさけるため、シコオ軍を二手に分けさせようとしたアラシトの計略によるものだ。

ほとんどのアシハラシコオの軍を引き連れて但馬へ向かった伊和大神はまんまとアラシトの策に嵌った格好である。 

タカヒコを見送ったシイネツヒコとホアカリは早速アカルヒメ救出のための行動を起こした。アラシトを縛り付けたまま船に乗せ、一行は川下で野営している日矛らのもとへと急いだ。 

「上手く行きますか」 

ホアカリは背中の痛みを堪え、向かいに座っているシイネツヒコに話しかけた。 

「人質の交換なら、向こうは一も二もなく飛びつきましょう。なにしろ吉備の大王を返すというのですから。しかしそれでは芸がない」 

「というと?」
「倭国動乱の引鉄となった天之日矛を根こそぎ叩き潰すチャンスでもある。吉備の水軍はこちらが完全にくいとめています。相手には何の武器もない。アラシトの智謀だけが奴らの武器なのです。かといってタカヒコ様が大和に向かわれた今我々にも奴らを完全に叩くほどの武力がない。下手に動いて混乱している但馬、丹波にでも逃げられればそれこそ、元の木阿弥になり第二のアラシトがでてくるやも知れぬ。」 

「では、どういう手立てを?」

「そこです。ホアカリ殿とアカルヒメ様をアラシトの養子とし、天之日矛の軍団をあなたに率いてもらうというのはどうでしょう?そうすれば後顧の憂いは絶てます。」 
しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

【西南戦争】同胞(はらから)を喰う

りつ
歴史・時代
「即興小説トレーニング」さんにて、お題「地獄の負傷」・1時間で書いたもの。西南戦争辺りを想定した短いお話ですが、あまりきちんと調べられていないため歴史的にも鹿児島弁的にもなんとなく読み流して頂けましたら幸いです。

浅葱色の桜

初音
歴史・時代
新選組の局長、近藤勇がその剣術の腕を磨いた道場・試衛館。 近藤勇は、子宝にめぐまれなかった道場主・周助によって養子に迎えられる…というのが史実ですが、もしその周助に娘がいたら?というIfから始まる物語。 「女のくせに」そんな呪いのような言葉と向き合いながら、剣術の鍛錬に励む主人公・さくらの成長記です。 時代小説の雰囲気を味わっていただくため、縦書読みを推奨しています。縦書きで読みやすいよう、行間を詰めています。 小説家になろう、カクヨム、エブリスタでも載せてます。

織田信長 -尾州払暁-

藪から犬
歴史・時代
織田信長は、戦国の世における天下統一の先駆者として一般に強くイメージされますが、当然ながら、生まれついてそうであるわけはありません。 守護代・織田大和守家の家来(傍流)である弾正忠家の家督を継承してから、およそ14年間を尾張(現・愛知県西部)の平定に費やしています。そして、そのほとんどが一族間での骨肉の争いであり、一歩踏み外せば死に直結するような、四面楚歌の道のりでした。 織田信長という人間を考えるとき、この彼の青春時代というのは非常に色濃く映ります。 そこで、本作では、天文16年(1547年)~永禄3年(1560年)までの13年間の織田信長の足跡を小説としてじっくりとなぞってみようと思いたった次第です。 毎週の月曜日00:00に次話公開を目指しています。 スローペースの拙稿ではありますが、お付き合いいただければ嬉しいです。 (2022.04.04) ※信長公記を下地としていますが諸出来事の年次比定を含め随所に著者の創作および定説ではない解釈等がありますのでご承知置きください。 ※アルファポリスの仕様上、「HOTランキング用ジャンル選択」欄を「男性向け」に設定していますが、区別する意図はとくにありません。

ソラノカケラ    ⦅Shattered Skies⦆

みにみ
歴史・時代
2026年 中華人民共和国が台湾へ軍事侵攻を開始 台湾側は地の利を生かし善戦するも 人海戦術で推してくる中国側に敗走を重ね たった3ヶ月ほどで第2作戦区以外を掌握される 背に腹を変えられなくなった台湾政府は 傭兵を雇うことを決定 世界各地から金を求めて傭兵たちが集まった これは、その中の1人 台湾空軍特務中尉Mr.MAITOKIこと 舞時景都と 台湾空軍特務中士Mr.SASENOこと 佐世野榛名のコンビによる 台湾開放戦を描いた物語である ※エースコンバットみたいな世界観で描いてます()

改造空母機動艦隊

蒼 飛雲
歴史・時代
 兵棋演習の結果、洋上航空戦における空母の大量損耗は避け得ないと悟った帝国海軍は高価な正規空母の新造をあきらめ、旧式戦艦や特務艦を改造することで数を揃える方向に舵を切る。  そして、昭和一六年一二月。  日本の前途に暗雲が立ち込める中、祖国防衛のために改造空母艦隊は出撃する。  「瑞鳳」「祥鳳」「龍鳳」が、さらに「千歳」「千代田」「瑞穂」がその数を頼みに太平洋艦隊を迎え撃つ。

勇者の如く倒れよ ~ ドイツZ計画 巨大戦艦たちの宴

もろこし
歴史・時代
とある豪華客船の氷山事故をきっかけにして、第一次世界大戦前にレーダーとソナーが開発された世界のお話です。 潜水艦や航空機の脅威が激減したため、列強各国は超弩級戦艦の建造に走ります。史実では実現しなかったドイツのZ計画で生み出された巨艦たちの戦いと行く末をご覧ください。

日本が日露戦争後大陸利権を売却していたら? ~ノートが繋ぐ歴史改変~

うみ
SF
ロシアと戦争がはじまる。 突如、現代日本の少年のノートにこのような落書きが成された。少年はいたずらと思いつつ、ノートに冗談で返信を書き込むと、また相手から書き込みが成される。 なんとノートに書き込んだ人物は日露戦争中だということだったのだ! ずっと冗談と思っている少年は、日露戦争の経緯を書き込んだ結果、相手から今後の日本について助言を求められる。こうして少年による思わぬ歴史改変がはじまったのだった。 ※地名、話し方など全て現代基準で記載しています。違和感があることと思いますが、なるべく分かりやすくをテーマとしているため、ご了承ください。 ※この小説はなろうとカクヨムへも投稿しております。

【新訳】帝国の海~大日本帝国海軍よ、世界に平和をもたらせ!第一部

山本 双六
歴史・時代
たくさんの人が亡くなった太平洋戦争。では、もし日本が勝てば原爆が落とされず、何万人の人が助かったかもしれないそう思い執筆しました。(一部史実と異なることがあるためご了承ください)初投稿ということで俊也さんの『re:太平洋戦争・大東亜の旭日となれ』を参考にさせて頂きました。 これからどうかよろしくお願い致します! ちなみに、作品の表紙は、AIで生成しております。

処理中です...