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出雲の章
シタテルヒメ
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タカヒコは、加茂の館に通され昼の饗宴を受けた。どうやらテルヒメの同道はホヒの献策らしいが詳しいことはカブロギクシミケヌにも伝えられてないようであった。加茂の郷から播磨へ抜けるには中国山地を越えねばならない。
山道を知る加茂の民の先導なくしては迷うのは知れている。今回先導に立つのは加茂のタニグクという若者ら数十名である。彼らは大和宇陀のウカシ兄弟同様戦闘力にも優れている。山間部の戦いにおいては一人で数十名を倒せるほどの剛の者ばかりだ。いわば数百の軍隊を手に入れたのも同様である。
タカヒコは饗宴で彼らと親睦を深め山での戦いを伝え聞いた。経験のある海戦とは違ってタカヒコにとっては目新しい戦い方である。加茂の民は彼らしか知らない罠を中国山地一帯に仕掛けているらしい。そこに出くわした敵を誘い込み一網打尽にするのだ。一種のゲリラ戦であり彼らの戦い方は後の忍者や山伏などに継承されるのである。
昼の食事も終わった頃テルヒメの一行が加茂の郷にやってきた。一行のリーダーはなんとワカヒコであった。タカヒコは再会を喜ぶのも忘れ、テルヒメの同道の理由を問いただした。ワカヒコがいうには、万が一大和が混乱しツヌガアラシトらが攻めてきた場合テルヒメを人質にしてツヌガアラシトとの休戦の条件にするということだった。休戦しているうちに軍備を整え大和の救援にむかうためのいわば時間かせぎである。アラシトが初めてこの地にやってきたとき大国主の娘との縁談を迫ったことがあるからだ。
「あ兄上・・・・。」
テルヒメの休憩に使われた館の中でテルヒメは兄の姿をみつけ泣き出した。無理もない。楽しみにしていたワカヒコとの祝言を邪馬台連合との戦が終わるまで御預けとなったと思えば、今度は婚約者のワカヒコに連れられツヌガアラシトというもはや老人の域に達した男へ人身御供として送られるのだから・・・・。
「ワカヒコ!なんで反対しなかった!!」
と叫びながらタカヒコはワカヒコに殴りかかった。ワカヒコはその拳をよけもせず殴られた。
「しょうがなかった。大和からの伝令は急を要するものだった。大物主様は危篤に陥り、ニギハヤヒとイワレヒコは衝突間違いなしだ。そこへ吉備のアラシトが攻めこめば一枚岩でなくなった大和は一たまりもない。出雲としてはこの手によって邪馬台連合との戦いで後背を気にしなくてよくなる。」
と、ワカヒコは涙を流しつつタカヒコにすがりついた。驚きと怒りに震えたタカヒコはワカヒコを突き放し、館の柱から壁、所構わず腰に提げていた鉄剣で切りつけた。その切れ味はすさまじく館はあっという間に崩れ落ちてしまった。白日に晒されたワカヒコたちはその場に立ちすくんだ。タカヒコは妹の両肩をやさしく両手でつかみ泣き出した。
「テルヒメよ、すまぬ。この兄の無力を許しておくれ。母について美保などに行かねばよかった。私なら父の決定を覆すことができたのに・・・・。」
「兄上、もう良いのです。私は兄上のお怒りの様子を見てほんの少し溜飲が下がりました。ありがとう・・・。」
テルヒメは、兄の胸に顔をうずめ泣きつづけた。タカヒコはテルヒメの顔を起こしやさしく話かけた。
「よし、テルヒメ、そなたここでワカヒコと共に死ぬのだ。そして生まれ変わり吉備の鬼人ツヌガアラシトを惑わすアカルヒメとなれ。」
それを聞いていたカムロノミコトはゆっくりと近づきながらこう言った。
「そうじゃ、テルヒメ、ワカヒコよそなたらここで祝言をあげいっしょに死ぬのだ。そして二人で生き直せ。それぞれ名を変えて違う人生を生きるのじゃ。生きとおせばいつの日か願いが叶うかもしれぬ。テルヒメはタカヒコの言う通り【アカルヒメ】と名乗り、ワカヒコは、【ホアカリ】と名乗るがよかろう。ホアカリとは加茂武角身の随身であった三輪の初代大物主の幼名じゃ。今後タカヒコの陰日なたとなり二人で大和を立てなおすのじゃ。今夜は祝言じゃ。タカヒコ殿、流石に大国主の御子、見事な采配でござる。こな老体も感服いたしました。」
タカヒコとカムロノミコトにより、二人は結ばれた。しかし明日の朝には、二人とも名をこの地に葬り、別れなくてはいけない。今夜は最初で最後の夫婦としての夜であった。
その頃、アラシトは大急ぎで大和に向かっていた。潮待ちで日延べするのを嫌い、途中から馬に乗り人目をさけ河内入りするつもりである。播磨室津の海岸にさしかかったところ播磨灘の沖から小船の船団が近づいてきた。陸上のアラシトには迫り来る海神の使いのように見えた。
山道を知る加茂の民の先導なくしては迷うのは知れている。今回先導に立つのは加茂のタニグクという若者ら数十名である。彼らは大和宇陀のウカシ兄弟同様戦闘力にも優れている。山間部の戦いにおいては一人で数十名を倒せるほどの剛の者ばかりだ。いわば数百の軍隊を手に入れたのも同様である。
タカヒコは饗宴で彼らと親睦を深め山での戦いを伝え聞いた。経験のある海戦とは違ってタカヒコにとっては目新しい戦い方である。加茂の民は彼らしか知らない罠を中国山地一帯に仕掛けているらしい。そこに出くわした敵を誘い込み一網打尽にするのだ。一種のゲリラ戦であり彼らの戦い方は後の忍者や山伏などに継承されるのである。
昼の食事も終わった頃テルヒメの一行が加茂の郷にやってきた。一行のリーダーはなんとワカヒコであった。タカヒコは再会を喜ぶのも忘れ、テルヒメの同道の理由を問いただした。ワカヒコがいうには、万が一大和が混乱しツヌガアラシトらが攻めてきた場合テルヒメを人質にしてツヌガアラシトとの休戦の条件にするということだった。休戦しているうちに軍備を整え大和の救援にむかうためのいわば時間かせぎである。アラシトが初めてこの地にやってきたとき大国主の娘との縁談を迫ったことがあるからだ。
「あ兄上・・・・。」
テルヒメの休憩に使われた館の中でテルヒメは兄の姿をみつけ泣き出した。無理もない。楽しみにしていたワカヒコとの祝言を邪馬台連合との戦が終わるまで御預けとなったと思えば、今度は婚約者のワカヒコに連れられツヌガアラシトというもはや老人の域に達した男へ人身御供として送られるのだから・・・・。
「ワカヒコ!なんで反対しなかった!!」
と叫びながらタカヒコはワカヒコに殴りかかった。ワカヒコはその拳をよけもせず殴られた。
「しょうがなかった。大和からの伝令は急を要するものだった。大物主様は危篤に陥り、ニギハヤヒとイワレヒコは衝突間違いなしだ。そこへ吉備のアラシトが攻めこめば一枚岩でなくなった大和は一たまりもない。出雲としてはこの手によって邪馬台連合との戦いで後背を気にしなくてよくなる。」
と、ワカヒコは涙を流しつつタカヒコにすがりついた。驚きと怒りに震えたタカヒコはワカヒコを突き放し、館の柱から壁、所構わず腰に提げていた鉄剣で切りつけた。その切れ味はすさまじく館はあっという間に崩れ落ちてしまった。白日に晒されたワカヒコたちはその場に立ちすくんだ。タカヒコは妹の両肩をやさしく両手でつかみ泣き出した。
「テルヒメよ、すまぬ。この兄の無力を許しておくれ。母について美保などに行かねばよかった。私なら父の決定を覆すことができたのに・・・・。」
「兄上、もう良いのです。私は兄上のお怒りの様子を見てほんの少し溜飲が下がりました。ありがとう・・・。」
テルヒメは、兄の胸に顔をうずめ泣きつづけた。タカヒコはテルヒメの顔を起こしやさしく話かけた。
「よし、テルヒメ、そなたここでワカヒコと共に死ぬのだ。そして生まれ変わり吉備の鬼人ツヌガアラシトを惑わすアカルヒメとなれ。」
それを聞いていたカムロノミコトはゆっくりと近づきながらこう言った。
「そうじゃ、テルヒメ、ワカヒコよそなたらここで祝言をあげいっしょに死ぬのだ。そして二人で生き直せ。それぞれ名を変えて違う人生を生きるのじゃ。生きとおせばいつの日か願いが叶うかもしれぬ。テルヒメはタカヒコの言う通り【アカルヒメ】と名乗り、ワカヒコは、【ホアカリ】と名乗るがよかろう。ホアカリとは加茂武角身の随身であった三輪の初代大物主の幼名じゃ。今後タカヒコの陰日なたとなり二人で大和を立てなおすのじゃ。今夜は祝言じゃ。タカヒコ殿、流石に大国主の御子、見事な采配でござる。こな老体も感服いたしました。」
タカヒコとカムロノミコトにより、二人は結ばれた。しかし明日の朝には、二人とも名をこの地に葬り、別れなくてはいけない。今夜は最初で最後の夫婦としての夜であった。
その頃、アラシトは大急ぎで大和に向かっていた。潮待ちで日延べするのを嫌い、途中から馬に乗り人目をさけ河内入りするつもりである。播磨室津の海岸にさしかかったところ播磨灘の沖から小船の船団が近づいてきた。陸上のアラシトには迫り来る海神の使いのように見えた。
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