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出雲の章
スクナヒコナ
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(スクナヒコナ様には御子はいなかったはず?)
「そうじゃ、本当の子孫ではない。わしはスクナヒコナの神の知恵をうけついだもの。この大智をおまえに授けるのがわしの使命じゃ。これがわしの最後の仕事なのだ。今後はおまえ達出雲族の知恵として宮へ持ちかえり教え広めよ。スクナヒコナの大智は福を呼ぶのも禍を呼ぶのも使うものの心得次第。スクナヒコナの大智のうち、何を民に教え、何を民から隠すかはそなたに任せよう。それを過たないためにそなたは大智の全てを理解しなくてはいけない。」
(そんなこといわれたって・・・・・。)
「お主の父も、同じ修行をしたのだ。ただしスクナヒコナの大智を全て教えたわけではない。すべてを教えるのはおまえが最初で最後だ。まだ信用できぬようじゃな。では今からわしについてこい。スクナヒコナの大智を見せてやる。」
トシロは怪しみながらもサルタヒコについていくことにした。
サルタヒコとトシロは小船で海にでて美保関の北の岸壁までやってきた。海から岸壁を見ると岸壁に洞窟の入り口のような穴があった。穴の大きさは小船がなんとか通れるほどであった。
「トシロよ。あれが黄泉の穴じゃ。あの奥にスクナヒコナの大智が隠されておる。」
二人は松明に火をつけ船で穴に進入した。しばらく暗闇の中を進んでいると小さな陸地があり、そこが行き止まりのようだった。サルタヒコは 船から降り、行き止まりの壁に持っていた杖を突き刺した。すると壁が人一人通れるくらいに開いた。さらに進むとその奥は小さな部屋のようになっていた。
「どうじゃ?」
サルタヒコが指差した部屋の壁を見ると、巻物の竹簡が堆く積まれていた。
「これがスクナヒコナの知恵の秘密じゃ。スクナヒコナが大陸の仙人から授かった法、商、兵、道、儒の全てが網羅された竹簡じゃ。倭の民には、まだまだ難しすぎてつかいきれない知恵ばかり。これをどう使うかはそなた次第じゃ。そなたの父は商と兵を学び大国主となった。木簡の中にある太公望の兵書などは暗記しておるはずじゃ。倭の地にもやがてこの全てが必要になろう。さて、今から15日のあいだこの木簡全てをおまえのために読み下し講義してやる。一言一句聞き逃さず学ぶがよい。」
こうして、トシロは大国主になるための最後の試練に立ち向かうことになった。
その少し前、美保の宮にはタギリヒメを追ってきたタカヒコがやってきていた。やはり掟を破るのをそのままにはしておけなかったのである。杵築での徴兵をワカヒコに任せ母タギリヒメを追ってきたのだ。
「母上、トシロにはお会いになれましたか?」
「いいえ、あの子はこの宮に帰ってきませんでした」
「トシロには大国主になるための試練があるのです。邪魔をせず私と共に杵築へもどりましょう。途中父上の船と出会いました。父上もトシロに会わずかえってくるようにとの仰せでした。」
「せめて、一目だけ・・・。遠くから見るだけでよいのです。タカヒコやトシロを探してきておくれ・・・・。」
「・・・・・。わかりました。一目だけですよ」
タカヒコは、母の願いを聞き入れてトシロを探すことにした。
海上で行き遭った父の船に乗っていたものの話によると美保の宮の裏にある岡の上にいたらしいのでそこを探すことにした。月明かりに照らされた山道を上っていくとやがて海が見える岡の上にたどりついた。
「トシロ!トシロ!」
声をかけたが返事はないし、岡の上には人のいる気配もしない。
「どこへ行ったんだろう?」
とつぶやきながら周囲を見回したが何も見つからなかった。ぼんやり夜の中海の方角を見ているとの対岸の岸壁にユラユラと光る船にとりつけられている灯籠のような光りが見えた。
「なんだ?灯籠の火のようだ。まさか中海の方に出たのか?」
と思いながらもタカヒコは船が諸手舟の繋いである美保の港へ向かって一目散に駆け下りていった。杵築から最速で漕いできた漕ぎ手たちはタカヒコの舟の傍らで休みをとっていた。彼らに何か見なかったかと問いただすと、タカヒコが美保の宮に向かうのと入れ違いのように老人と子供が中海の方に小舟で漕ぎ出したという。
タカヒコの直感はその子供はトシロ本人だと告げた。何やら胸騒ぎがして「あそこへかなくては」との思いがタカヒコの意識を支配していった。
「あの灯籠舟のことか?」
と漕ぎ手たちに問いただすと、そうだという。既にかなり離されてはいるが中海にいくのなら自分達が漕げばそんなに掛からずに追いつくはずだという。タカヒコは灯籠を用意させ小舟を追うように命じた。灯籠を用意し、取り付けるのに手間取ったがタカヒコが乗った諸手舟は灯籠舟を追って水面を走りだした。ほなはなほ)ひねはひはのなひひなはほは
「そうじゃ、本当の子孫ではない。わしはスクナヒコナの神の知恵をうけついだもの。この大智をおまえに授けるのがわしの使命じゃ。これがわしの最後の仕事なのだ。今後はおまえ達出雲族の知恵として宮へ持ちかえり教え広めよ。スクナヒコナの大智は福を呼ぶのも禍を呼ぶのも使うものの心得次第。スクナヒコナの大智のうち、何を民に教え、何を民から隠すかはそなたに任せよう。それを過たないためにそなたは大智の全てを理解しなくてはいけない。」
(そんなこといわれたって・・・・・。)
「お主の父も、同じ修行をしたのだ。ただしスクナヒコナの大智を全て教えたわけではない。すべてを教えるのはおまえが最初で最後だ。まだ信用できぬようじゃな。では今からわしについてこい。スクナヒコナの大智を見せてやる。」
トシロは怪しみながらもサルタヒコについていくことにした。
サルタヒコとトシロは小船で海にでて美保関の北の岸壁までやってきた。海から岸壁を見ると岸壁に洞窟の入り口のような穴があった。穴の大きさは小船がなんとか通れるほどであった。
「トシロよ。あれが黄泉の穴じゃ。あの奥にスクナヒコナの大智が隠されておる。」
二人は松明に火をつけ船で穴に進入した。しばらく暗闇の中を進んでいると小さな陸地があり、そこが行き止まりのようだった。サルタヒコは 船から降り、行き止まりの壁に持っていた杖を突き刺した。すると壁が人一人通れるくらいに開いた。さらに進むとその奥は小さな部屋のようになっていた。
「どうじゃ?」
サルタヒコが指差した部屋の壁を見ると、巻物の竹簡が堆く積まれていた。
「これがスクナヒコナの知恵の秘密じゃ。スクナヒコナが大陸の仙人から授かった法、商、兵、道、儒の全てが網羅された竹簡じゃ。倭の民には、まだまだ難しすぎてつかいきれない知恵ばかり。これをどう使うかはそなた次第じゃ。そなたの父は商と兵を学び大国主となった。木簡の中にある太公望の兵書などは暗記しておるはずじゃ。倭の地にもやがてこの全てが必要になろう。さて、今から15日のあいだこの木簡全てをおまえのために読み下し講義してやる。一言一句聞き逃さず学ぶがよい。」
こうして、トシロは大国主になるための最後の試練に立ち向かうことになった。
その少し前、美保の宮にはタギリヒメを追ってきたタカヒコがやってきていた。やはり掟を破るのをそのままにはしておけなかったのである。杵築での徴兵をワカヒコに任せ母タギリヒメを追ってきたのだ。
「母上、トシロにはお会いになれましたか?」
「いいえ、あの子はこの宮に帰ってきませんでした」
「トシロには大国主になるための試練があるのです。邪魔をせず私と共に杵築へもどりましょう。途中父上の船と出会いました。父上もトシロに会わずかえってくるようにとの仰せでした。」
「せめて、一目だけ・・・。遠くから見るだけでよいのです。タカヒコやトシロを探してきておくれ・・・・。」
「・・・・・。わかりました。一目だけですよ」
タカヒコは、母の願いを聞き入れてトシロを探すことにした。
海上で行き遭った父の船に乗っていたものの話によると美保の宮の裏にある岡の上にいたらしいのでそこを探すことにした。月明かりに照らされた山道を上っていくとやがて海が見える岡の上にたどりついた。
「トシロ!トシロ!」
声をかけたが返事はないし、岡の上には人のいる気配もしない。
「どこへ行ったんだろう?」
とつぶやきながら周囲を見回したが何も見つからなかった。ぼんやり夜の中海の方角を見ているとの対岸の岸壁にユラユラと光る船にとりつけられている灯籠のような光りが見えた。
「なんだ?灯籠の火のようだ。まさか中海の方に出たのか?」
と思いながらもタカヒコは船が諸手舟の繋いである美保の港へ向かって一目散に駆け下りていった。杵築から最速で漕いできた漕ぎ手たちはタカヒコの舟の傍らで休みをとっていた。彼らに何か見なかったかと問いただすと、タカヒコが美保の宮に向かうのと入れ違いのように老人と子供が中海の方に小舟で漕ぎ出したという。
タカヒコの直感はその子供はトシロ本人だと告げた。何やら胸騒ぎがして「あそこへかなくては」との思いがタカヒコの意識を支配していった。
「あの灯籠舟のことか?」
と漕ぎ手たちに問いただすと、そうだという。既にかなり離されてはいるが中海にいくのなら自分達が漕げばそんなに掛からずに追いつくはずだという。タカヒコは灯籠を用意させ小舟を追うように命じた。灯籠を用意し、取り付けるのに手間取ったがタカヒコが乗った諸手舟は灯籠舟を追って水面を走りだした。ほなはなほ)ひねはひはのなひひなはほは
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