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出雲の章
アカウサギ
しおりを挟む杵築の宮に舞い戻ったタカヒコは、越の国にいる大国主に早舟を送り火神子の最後と筑紫島の事の次第を伝え、自らは杵築の一軍をもって海路から筑紫島へ攻め入る準備をしている事を報告し命があり次第、ワカヒコの騎馬軍とともに先発したいと申し出た。
そのころ、大国主は新羅からの渡来人勢力を追い払うため越の国にいた。今回の討伐では新羅の渡来人達が今までにない組織的な反抗を見せたため戦名人、項羽の再来と名高い長子タケミナカタと、知謀の士アメノホヒをともなって大きな規模の戦争を遂行しようやく渡来人達を追い払う事に成功した。
越の国の押さえとしてタケミナカタを残し出雲へ帰還を始めていた。同行したアメノホヒに騎馬軍を授け先に出雲へ帰し、自らは軍船の修理を待ち越の国を出る準備をしていた。
越の宮は、越前福井にありここを拠点として東国の日本海側の交易港を守備していた。守備といっても東国には大国主に逆らう大きな勢力もないため、韓半島とくに新羅からの渡来人による収奪を阻むためである。
新羅にしても国という組織で攻めてくるのではなく、部族ごとに倭国に新天地を求め移住してくるものが殆どで、今回のように本格的戦争になるのは珍しい事だった。大国主に従属を誓い入植を希望するものには青銅器を授け、倭人となる事を許した。大軍を率いて戦をするのは10年以上前にツヌガアラシト率いる天之日矛(槍)の但馬到来以来の出来事である。
アメノホヒは別れ際にタケミナカタに念を押した。
「渡来人達の動きには何か裏があるはずです。瀬戸の内海に追いやった天之日矛との連係があるのかもしれません。奴らは吉備の海人を支配下にして瀬戸の内海の交易権を手にいれたと聞きます。出石には降服したタジマモリがいますが天之日矛の長ツヌガアラシトと婚姻を結んだとの疑いは晴れていません。越の国の討伐が終わったとはいえくれぐれも油断召されるな。」
と言い残して越を後にした。タケミナカタはアメノホヒの心配を笑い飛ばし、
「なんの、奴らがいくら姑息な手を使おうとも倭国最強の出雲八千矛の軍をもってひとたたきにたたいてやるわ。」
と嘯いた。
タケミナカタは強気である。今回の越での戦も後発のタケミナカタ率いる出雲八千矛軍がやってきたとたん戦況膠着を打破し勝利を手にする事ができたのである。個人技の戦闘でも、兵を率いた戦術でもタケミナカタは無類のつわものであった。
さて、軍船の修理も終わり、明日の出港を待つ大国主は供のもの数名と越の国の海に沈む夕日を眺めていた。静かな夕暮れである。八雲が立つような見事な夕焼けは大国主の心に出雲の海を思い起こさせていた。しばらく眺めていると遠くの波間に小舟が一槽頼りなげにゆらゆらと浮かんでいた。
「あれは、舟か?何か舟にのっているようだ。誰ぞあの小船をここまで曳いてこい」
と大国主は供に命じた 供の者達が諸手舟を用意している間も興味をそそられたのかじっと海に浮かぶ小船を眺めていた。供の者は諸手舟を漕ぎ出しゆっくりと波間に浮かぶ小船に近付いた。舟を小船に横付けし中を覗いてみると、ー巫女の赤装束が何かを覆うように小舟の中央あたりにかぶせられていた。赤装束は真ん中あたりが、こんもりと盛り上がっており、その下には何か大きなものがあるようだった。不審に思いその赤装束をひょいと持ち上げると若そうな女が一人、素っ裸で舟底にうずくまっていた。供の者達は慌てて女を助け起こし、諸手舟に乗せ変え、大国主の居る海岸の方に船首をむけ、ゆっくりと漕ぎ出した。
女は宇佐出身の巫女で、火神子に仕えていたがオモイカネのクーデターの時に筑紫島を逃げ出したのだと言う。その時宇佐の港にいた大陸からの交易船に忍び込んだが大陸への中継港である隠岐の島で見付かり、身ぐるみ剥がされ船を降ろされたらしい。女を船に乗せると彼らの信仰する海の神様が怒るからだ。
隠岐の民に乱暴をうけた後、小舟にのせられ海に流され越までたどりついたということだった。女は大国主の供の者に頼み込み、中継港因幡まで軍船に乗せて行ってもらう事になった。
その夜、女は大国主に礼の言葉奏上するため、越の宮の大国主の居室を訪ねていた。
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