大陰史記〜出雲国譲りの真相〜

桜小径

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出雲の章

アジスキタカヒコネノミコト

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「伝える事は伝えるが、亡き火神子様は出雲大王に何を求めたのか?我には解らん。出雲大王と日の国となったヤマタイを争わせるのが目的なのか?それで再び火の神の祭祀を取り戻すのが目的なのか?」

思案しているワカヒコにナキメは一言だけ答えた。

「とにかく(伝えよ)と申されました。」

「うーむ。出雲を戦乱を巻き込む事はできぬ。しかも我の故国と今の我が国の争い じゃ。」 

そこへ大国主の息子の一人であるタカヒコ(あじすきたかひこねのみこと)が訪れてきた。母は宗像のタギリヒメで彼の同母妹のテルヒメとワカヒコは大国主の越からの帰還をまって祝言を上げ、婚姻を結ぶ事になっていた。

ワカヒコとタカヒコは歳も同じで背格好も似ており、本当の兄弟のように顔まで似ていた。

たまにしか会わぬ者はたびたび人違いするほどそっくりで、幼い頃からの親友でもあった。タカヒコは男子の跡継ぎのない大和の大物主に、養子になって大和大物主の三代目を継ぐよう懇請されたため大和に話し合いに向かう前にワカヒコに挨拶にきたのだった。

ワカヒコはタカヒコの姿を見て、事の時代を相談することにした。

「ちょうど良いところに見えられた我が義兄よ」

と喜びタカヒコに筑紫の事を相談した。タカヒコは一通り話をきくと神妙な顔つきで

「越の国に遠征してらっしゃる父上に早船を送り、美保で禊をしているトシロ(ことしろぬしのみこと=次の大国主)を迎えに行かねばならぬようだ。一先ず、大和への下向は取りやめじゃ。混乱している筑紫島は今こそ落とし時、呪力が強いと噂の名高い火神子亡き今、何を遠慮する事があろう。相手が火神子だからこそ父上も 筑紫攻めを諦めておられたのじゃ。奴らの後ろ盾の晋の国も混乱しておる倭国新参者の伊都の奴輩に一泡ふかせてやる。」

と興奮を隠さずまくし立てた。

タカヒコの反応をみたワカヒコもすっかり伊都国攻めに乗り気となり、酒が入った上とはいえ出雲西部の将軍として騎馬軍をしたてて一気に関門海峡まで押し寄せるという作戦まで披露した。

「とにかく、我は杵築に立ち戻り、諸手舟の早舟をしたて戦の準備にはいる。ワカヒコよ生まれ故郷に攻め入るは気が重かろうが、今やヤマタイは貴様の産まれた国とは別の国、心して準備せよ。我らもいつまでも父やタケミナカタの兄上の武略に頼っていてはいかん。ここが名を建てるための踏ん張り所だ。共に力を合わせ伊都国を打ち倒そうぞ!」

と息巻いてタカヒコは杵築に舞い戻った。

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