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序章
ヤマタイ
しおりを挟む筑紫島では、火(阿蘇火山)を祭る女王、火神子(卑弥呼)が死んで40年におよぶ混乱が続いていた。ヤマタイ国の女王の座は宗女のトヨタマヒメ(台与)がついではいたが、有名無実の存在であった。トヨタマヒメには先代の火神子ほどの呪力はなく、傘下の各国は独立が進み倭国大乱の時代へ後戻りしたかのような状態であった。
トヨタマヒメは、先代火神子の弟である伊都国王の尾羽張(イザナギ)の庇護をうけ、阿蘇の山を鎮め奉る秘術を行っていたが阿蘇の鳴動は収まらなかった。この自然現象が火神子の呪力低下を筑紫島全体に知らしめたのである。老若男女、すべての人々に恐れられていた火神子の権威は失墜していた。
かつて「火神子」は二人いた。北の阿蘇に奴国王、南の霧島に狗奴国王がそれぞれ君臨していたが、狗奴国では火(火山)を祭る儀式から太陽を祭る儀式へと変換していた。一方、北の奴国では太陽派と火(火山)派が分裂し、かつての大国の権威はすでになく、もともと属国であった伊都国に火山の祭祀を奪われていた。
先代の火神子は伊都国の出身である。伊都国は奴国の分裂による国力低下のすきに大陸との交易で得た莫大な富により、阿蘇つまり山都(やまと)を支配下におき、前伊都国王の娘であったイザナミを「火神子」の座につけ、ヤマタイ連合の影の支配者となったのである。今の伊都国の尾羽張(先代の火神子の弟イザナギ)は、ヤマタイ連合を魏と結びつける事により北九州全体を支配下に収めた。彼はその功績により魏との結びの神つまりタカミムスビノカミという称号をヤマタイの長老達から受けていた。(魏は高いという意味もある。筆者注)
しかし彼も老齢である。齢は100歳に届こうとしていた。安川のちかくの集落では、邪馬台国連合の代表者があつまり、遠くで火を吹き上げ る阿蘇の噴火音を聞きながら邪馬台国連合の今後について協議していた。火神子は祭祀上の王だが、実質の政治、軍事、外交などはこの協議で決定されていた。火神子は最終決定を阿蘇の火の神から託宣を受けるのが役目であり、決定しかねる大問題は、いつも火神子が受けた託宣によって可否を占っているのであった。
「もはや、トヨタマヒメの火の呪力で国をまとめるのは無理かもしれん。」
ヤマタイ連合の長老が集まった席でタカミムスビは力なくつぶやいた。
「では、どうするのがよいのだ」
と長老達は口々につぶやきあった。
「わしによい考えがある。」
とタカミムスビの子オモイカネが口を開いた。彼は魏への使節になった事があり、魏の文化にも造詣が深く、いわば知恵袋としてこの協議に参加していた。
「阿蘇のお山は、もう長いこと火をふきあげ火神子様も託宣を受けにくいようじゃ。阿蘇があのまま火を吹きつづけると、われらの糧もえられなくるのは当然の事。そこでじゃ、この際、阿蘇をすてようではないか?」
「どういう事だ?」
タカミムスビは慌てて叫んだ。他の長老たちもびっくりしたような顔でオモイカネの方を見つめた。
「大陸にはの、火の山はないのじゃ。それでもあの国はわれら火の神の守りを受ける民より好い生活をしておる。なぜかわかるか?」
と、オモイカネは一同の顔を見まわしながら問い掛けたが、答えを聞く前に話を続けた。
「それはの、お天道さまじゃ、日の動きを知りそこから万物の恵みを得る方法を知っておるからじゃ。出雲の国もそうじゃ。奴らもお天道さんの動きからいろんな事を知り、生活にいかしておる。そこでじゃ、わしらも火の神様に仕えるのを止めこれからは日の神に仕えるのじゃ。そうすれば火におびえる事もなしじゃ」
「それは、無理じゃ、わしらは火の神に従ってここまで生きてきた。それをいまさら・・・・・。」
「しかし火の神は、狗奴国との戦が再び始まってから火を吹きっぱなしじゃ。作物もとれん。」
邪馬台国はゆれにゆれていた。ライバル狗奴国は火から日に祭祀を移しまさに日のでの勢いである。今回の協議は、火神子に一任するという結論となり、火の神の託宣を待った。
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