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邪馬台国の滅亡

天孫族

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クマノクスヒは続ける。

「そうなのだ。邪馬台国という名が残っても、天孫族が滅んでしまっては元も子もない。邪馬台国の象徴である火神子様はもういない。イリヒコ殿の言う通りではないか?」

ヒルコが発言する。

「私もそう思います。淡路の天孫族のほとんどは出雲か海人族に属し発展しています。魏の国が滅び、晋の国も他地域への支配力を無くしている今、何も邪馬台国に拘る必要もない。それに我らは天孫族、出雲族、海人族も大陸から見れば倭族ではありませんか!」

クマノクスヒが答える。

「そうだな。邪馬台国に拘る必要はない」

オモイカネが叫ぶ。

「では、私達親子がやったことは倭の国には無意味だったと!?」

引き取るようにアメノホヒが答える。

「無意味ではないでしょう。邪馬台国という見本があったおかげで、出雲も大和の地に国造りができたのです。大和をご覧下さい。東国に勢力を広げて今や、本国の出雲より発展している。それは出雲族のみならず、イワレヒコ様ら天孫族、シイネツヒコをはじめとする海人族を味方につけていったからです。」

「なるほど」

ホホデミが呟いた。

「我々は小さなことにこだわり過ぎたのかもしれない。初代の火神子様にまつわる天孫族の王族だけでもここに集まっている以上に増えているはずだ。」

オモイカネは沈黙した。そのオモイカネに問いかけるようにアメノホヒは発言した。

「吉野ヶ里を明け渡しませんか?」

「何を言う、我らの最後の砦ぞ」

「今、皆さんがおっしゃっていたではありませんか、大事なのは人です。伊都国や邪馬台国に拘るべき時代ではありません」

「ふん。出雲族とて吉野ヶ里を落とせんから、そう言うのであろう?」

「いえ、そんな事はありません。出雲には時間があります。時間が経つに連れ援軍が増え、兵糧も集まります。いかに強大な要塞、吉野ヶ里といえども何ヶ月、何年も耐えられるとは思えません。何より最大の後ろだての晋の国が立ち直る可能性はまずありますまい。魏の国のようにやがて滅びます。邪馬台国も同じ道を行かれるのか?オモイカネ殿!」

「うるさい!私は出雲には屈せん」

オモイカネは荒々しく席を立ちあがり、会場から出て行く。その後ろ姿に向かってアメノホヒは叫ぶ。

「では、後ほど一戦、交えましょう。そうしないとオモイカネ殿や伊都国の方々は納得されないようだ。」

「決裂だな」

ホホデミはつぶやいた。

クマノクスヒが発言する。

「オモイカネに付くものは吉野ヶ里に行け、つかぬものは、、、ここ阿蘇に残るのだ。」

オモイカネの後を追い数人の王族が出ていったが、ホホデミ、クスヒ、天孫族の長老たちは阿蘇に残る事を決めた。

ヒルコが残った天孫族に提案する。

「日向の国に集まりませんか?天孫族のやり直しです。今は狗奴国の支配下ですが、この火の国と交換というなら狗奴国も考えるかもしれません」

クマノクスヒは答えた。

「とりあえず二代目火神子様の葬儀を阿蘇で行う。その後、狗奴国とは交渉したい。」

「わかりました。私、ヒルコがキクチヒコ様や狗奴国王ヒミクコ様にお話をもって行きます。」

それを聞いていたアメノホヒは言った。

「私も大国主様と今後を案じます。では」

オモイカネ、アメノホヒが去った阿蘇には空虚が残された。

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