大陰史記〜出雲国譲りの真相〜

桜小径

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邪馬台国の滅亡

火神子の洞窟

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ここは崩れ落ちた火神子の洞窟。

護衛らしき男を従えた男が岩に縋って泣いている。

そこにやってきたのは出雲造の鎧を見に纏った男が数名。

出雲モノらしき男たちの代表者が泣いている男に声を掛けた。

「オモイカネ様、お久しぶりぶりです。」

泣いていた男は振り返ってその姿をマジマジと見つめた。

「ホヒ!」

「やはりここでしたか、吉野ヶ里に忍びこませた密偵から数日前に阿蘇に立ったと聞き探しました。」

「敗者に情けでもくれるつもりか?」

「敗者?まだ戦ってないでしょう。オモイカネ様の知識を投入し尽くしたあの要塞、なかなか落とせるモノではないでしょう。いや難攻不落と言っても良い。さすがは邪馬台国連合随一の知恵者です。」

「ふん。お追唱を言いにこんな山の中まで来たのではあるまい」

「もちろん、今後の事を」

「今後?もう全面戦争しかないだろう?私には私について来てくれた伊都国の民、邪馬台国連合の民を守る必要がある」

「そうでしたな。」

ホヒは遠い目をして阿蘇の山を見上げた。

「そういえば、ここでした。私が出雲に行くように火神子様、タカミムスビ様に命ぜられたのは」

「よくも裏切ってくれたな」

「裏切る?私はあくまでも友好の証の人質として送られたのです。出雲では、大国主様ひきいるクニの進歩性に驚かされる毎日でした。」

「進歩性?いちいち神の託宣を受ける必要がないことか?」

「そうですな。それが一番」

「そんなことは我々も分かっていた。だから…」

「だから火神子様を殺めたと?」

「そうだ」

「何も殺めずとも良かったです。まつりごとの移譲を認めさせればそれで。」

「ホホデミ様が許さなかったのだ」

「火神子様の代官ですからね。代わりに国王の地位を約束すれば良かったのでは?」

「ホホデミ様は古すぎるのだ。この度の議長もホホデミ様と聞いた。何も纏まるまい。」

「託宣を得られないですからね」

と、アメノホヒは微笑んだ。

「何が言いたい?人質にされた恨み言か?」

「いえ、出雲に行かせてもらえたのは、私もワカヒコも感謝しておりますよ。まあ若い頃でしたので寂しくはありましたが、出雲の活気に触れ、大国主様の近くで漢籍をはじめ、いろいろ学ばせてもらいました。火神子様、タカミムスビ様、オモイカネ様には感謝しております。」

「どうだか」

「出雲のまつりごとのやり方を邪馬台国連合に持ち込むお積りだったのでしょう?」

「そうだ。父タカミムスビが考えたついた大陸からの知識と火の神よりの託宣との融合というやり方は最早時代おく遅れになっていた。大陸の混乱のおかげで文物の輸入もできず、窓口さえはっきりしない。晋の国が分裂したせいで、親魏倭王の印の影響力も落ちてしまったのだ。」

「出雲は別の道筋で半島、大陸の文物、とくに文化を得ています」

「そうであろうな」

「壱岐はどうなのです?」

「早々と連合から抜けたような状況になっていた。大陸の影響をうけすぎたのだ」

「なるほど」

「て、お主は何をしにここまで来たのだ?昔話をしにきたわけではあるまい?」

「はい、降伏の勧告です。」

「ふん。そうであろうなあ。半年やそこらなら負ける気はせんが、それ以上になると、吉野ヶ里でも苦しい。」

「あなたの命で、あなたの民を救って下さい。」

「考えさせてくれ」

「もう打つ手はないはずです。吉野ヶ里の要塞に籠り一時の休息は手に入れたが、あなた方を助ける勢力はもう倭国周辺にはいない。」

「ホヒ、お主と大国主がそうし向けたのであろう?」

オモイカネは、その一言だけ残して、阿蘇の岩屋跡から移動していった。

アメノホヒはただ何も言わずそれを見送った。

「吉野ヶ里が半年も持つだと?これは予想以上の要塞だな。正面突破はできそうもない。大国主様に報告せよ」

「はい。わかりました」

従者の一人が走りだした。それほどの蓄えをしているのだけが出雲にとっては予想外だった。半年も粘られると、壱岐もどう動くかわからない。この戦争は少しでも早く終わらせねばならない。ホヒは火神子の岩屋前で柏手を打ち、祈った。
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