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邪馬台国の滅亡

阿蘇の旧都

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オモイカネは阿蘇の旧都に一番乗りでやってきた。アメノホヒと交渉するためだ。

「ふーっ」

深いため息とともに頭を抱え込んで悩んでいる。まだ決断ができないのだ。

吉野ヶ里では籠城のための兵糧の用意もすませ、フツヌシ、タヂカラヲという二大将軍とほぼ徴兵できる限界の兵も集めた。

一番の悩みは、助けてくれる勢力が見当たらないのだ。半島、大陸からの援助は当てにできない。

邪馬台国連合の王族のニニギ一族も厭戦の雰囲気を強くもっている。いまだに、日向を抑えていた長老のクマノクスヒしか、吉野ヶ里に到着してない。

もちろん、ここ阿蘇をはじめ旧邪馬台国連合の各地域は阿蘇の噴火の後始末に追われているのはわかっている。

このタイミングでの出雲の攻勢はオモイカネにとって最悪だといえよう。

アメノホヒからは、狗奴国の立ち合いがあることも通告がきている。狗奴国は邪馬台国連合にとっての仇敵である。

オモイカネの味方をしてくれるはずもない。何度もオモイカネの策略で狗奴国の北進を食い止めてきたからだ。

狗奴国にとってはオモイカネは邪魔な存在である。

何より、自らの手で火神子を殺したこの地はオモイカネにとって因縁の土地である。

唯一の期待は邪馬台国連合の解散で各国独立体制を出雲が認めることだ。

交渉相手のアメノホヒも元はといえば天孫族、つまりニニギの一族なのだ。ニニギ一族には今でも各国の王としての地位を約束している。

集権的国家への変貌を目指したオモイカネにとっては敗北状態と言って良いだろう。

振り返れば、先代の火神子の時代がもっとも集権的であったという皮肉である。

彼女のカリスマ性がそれだけ凄いものだったのか、大陸、半島からも邪馬台国の強化が求められていたという国際的背景もそれを後押ししていた。

今や、大陸の晋は八王の乱以降衰退の一途を辿る。大陸の影響をもろにうける半島も援軍を倭国に送れる余裕は今からはない。

半島と連携していた天之日矛が出雲によって壊滅させられたからに他ならない。

倭国のことは倭国で決めないといけないのだ。

邪馬台国連合が成る前、倭国の最大勢力は吉野ヶ里の東の奴国であった。そこはもう既に出雲の侵略を受けている。

オモイカネは吉野ヶ里に閉じ込められている状態である。

次に阿蘇に到着したのは、狗奴国のキクチヒコと、客分のヒルコ、さらには大和から逃げてきたイリヒコ一行だ。

立ち合いとはいえ、今後の筑紫島の勢力図を書き換えることになるであろうこの会談は、狗奴国にとって最も望む形でもあろう。

前回の邪馬台国連合と狗奴国の争いはツヌガアラシトの介入で狗奴国は撤退の憂き目にあった。

それに何より、大和を追われたイリヒコ一行が狗奴国にいるのだ。彼らの立場を決める会合にもなるだろう。

オモイカネは悩んでいるのだ。

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