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西遷の章
アメノミハシラ
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タヂカラヲは、困っていた。船もない、人もない、目的地もわからない、何よりも充分な食事と休養もとってない。いくら頑健なタヂカラヲでも流石に身体と心に堪える状況だ。唯一の慰めは何故か明るいウズメの存在である。門外漢のタヂカラヲより地理や海に詳しく、食料の調達まで任せきりである。
児島からの脱出以降、タヂカラヲが役にたったのは伊予の水軍を武力で追い散らしウズメを助け小舟を奪った時だけである。あとはウズメの進言に従って伊予の水軍の盲点を突きつつ大和を目指していただけである。
「アラシトと共に大和入りし、イワレヒコの娘、マキヒメをヤマタイへお連れする」というのがタヂカラヲに課せられた使命だ。その発案者であり今回の行動の指導者とも言うべきアラシトは既に敵の手に落ちた。ウズメが得た情報によるも大和のイワレヒコ一族が、新しき大物主となったタカヒコに敗北し、逃亡して行方がしれないという。八方塞がりである。
「何を暗い顔してるの?イワレヒコさん達に合流するんでしょう?とりあえず河内に向かわないと」
ウズメはタヂカラヲを励まそうと明るく声をかけたが、神妙な表情のままのタヂカラヲを力なく呟いた。
「イワレヒコ様達は何処へ行かれたのか?」
「さあ、分かんないけどさ。イワレヒコさん達もアラシトさんの策に乗ったんだよね?じやあ多少の失敗はあっても、ヤマタイか日向に向かうんじゃない?アラシトさんが捕まったのをしったとしたら日向かな?」
「むう。今から大和に向かっても入れ違いにならないか?」
「まあそりゃその可能性もあるけどさ」
「ヤマタイへ戻ろう」
「何言ってんのさ、ここからヤマタイまで航海に耐える舟なんて手に入らないよ。だいたいシイネツヒコが網はってるんだからさ、例え船をなんとかしたって捕まるのは目に見えてるよ」
「まてよ、するとイワレヒコ様たちがヤマタイに入るのも無理ってことだよな?」
「どうやったって瀬戸内の海は渡れないよ。とくにガタイがでかくて、妙に立派に見えるアンタは変装したって無理」
「他に、大和からヤマタイに入る道筋はあるか?」
「あるよ。伊豫之二名島の南の海を島にそって西行して筑紫島の南に向かう。土佐の港を越えて狗奴国か、日向あたりなら上陸できるかも?」
「それだ!」
「?」
「いや、イワレヒコ様達の立場にたって考えてみるとその方法しかなさそうだ」
「でも、普段は通行のない危険な航路だよ」
「瀬戸内より?」
「シイネツヒコの手の者に出くわす可能性は瀬戸内よりないだろうけど」
「それに賭けよう。土佐の港へ向おう!」
「えぇっ?また舟がいるよ」
「岩屋の港にはヤマタイ攻めの舟が、集まってくるだろう?それを児島脱出の時のように奪ってくる」
「土佐は外海だから、瀬戸内の船じゃ、、、」
「ないよりマシだろう?最悪、阿波まで辿りつけば土佐まで陸路で行けるんじゃないか?」
「馬鹿をお言いでないよ。石鎚から始まる伊予のお山を舐めてるね?海からも見える大きな山並みがあるんだ簡単に通り抜けられるはずないだろう」
二人は結局、ウズメの存在がシイネツヒコに気付かれた可能性がある以上、このまま淡路に潜伏したり、警戒されているであろう河内方面の移動は難しいとの判断から、阿波への道を選んだのだ。知ってか知らずか、彼ら二人の行程は国産みの物語に沿っていた。
「ドンガメ、あれか?」
イリヒコは海上の小舟から天に向って突きたっているように見える大岩を指さした。
「そうでございます」
ドンガメは数年ぶりに見る風景に嬉しさを感じたのか、笑顔で答えた。船酔いでぐったりしていたカムヤイも感嘆の声をあげた。確かに神々しくもある。反面、荒波に削られたのか荒々しくも感じる大岩は確かに、天の御柱が如く海面から屹立していた。
「ドンガメよ、お主の村はどの方角だ?」
と、船頭はドンガメに尋ねるがドンガメはよくわからないが山の中だったという。船頭はこのあたりには停泊しやすそうな場所がないので天の御柱の対岸近くで海に降りて沼島に上がるよう促した。
「山の中の村なあ。お主ら一族しかおらんなら村というほどもなかろう。ワシらは西側の鼻のあたりに停泊して待っとる」
そう言い残すと、船は三人を海の中に置いたまま離れて行った。三人は泳ぎながら対岸に辿りつき上陸した。
「どうじゃ?見覚えがあるか?」
イリヒコは上陸した場所から四方を見渡しながらドンガメに尋ねた。
「あの山の中」
と、ドンガメが、指差した方角を見ると獣道らしきものが見えた。三人はドンガメを先頭に山に分けいった。しばらく斜面の獣道を進むと建物の残骸を見つけた。ドンガメは残骸を見つけると走り出し、その場に辿り着くとあたりを見回す。そして父、母を呼ぶが山の中から返答はない。誰も近くにはいないようだ。
「ここなのか?」
漸く追いついたイリヒコらは残骸を調べた。鏃などが落ちている以外、手がかりになるようなものはない。どうもドンガメの言う通りに襲撃を受けたようだ。
「イリヒコ様、この奥でこざいます。この奥にヒルコ様のお宝のあった社がございますます」
と、ドンガメは道無き道を指さす。三人はさらに山の上に向かった。
児島からの脱出以降、タヂカラヲが役にたったのは伊予の水軍を武力で追い散らしウズメを助け小舟を奪った時だけである。あとはウズメの進言に従って伊予の水軍の盲点を突きつつ大和を目指していただけである。
「アラシトと共に大和入りし、イワレヒコの娘、マキヒメをヤマタイへお連れする」というのがタヂカラヲに課せられた使命だ。その発案者であり今回の行動の指導者とも言うべきアラシトは既に敵の手に落ちた。ウズメが得た情報によるも大和のイワレヒコ一族が、新しき大物主となったタカヒコに敗北し、逃亡して行方がしれないという。八方塞がりである。
「何を暗い顔してるの?イワレヒコさん達に合流するんでしょう?とりあえず河内に向かわないと」
ウズメはタヂカラヲを励まそうと明るく声をかけたが、神妙な表情のままのタヂカラヲを力なく呟いた。
「イワレヒコ様達は何処へ行かれたのか?」
「さあ、分かんないけどさ。イワレヒコさん達もアラシトさんの策に乗ったんだよね?じやあ多少の失敗はあっても、ヤマタイか日向に向かうんじゃない?アラシトさんが捕まったのをしったとしたら日向かな?」
「むう。今から大和に向かっても入れ違いにならないか?」
「まあそりゃその可能性もあるけどさ」
「ヤマタイへ戻ろう」
「何言ってんのさ、ここからヤマタイまで航海に耐える舟なんて手に入らないよ。だいたいシイネツヒコが網はってるんだからさ、例え船をなんとかしたって捕まるのは目に見えてるよ」
「まてよ、するとイワレヒコ様たちがヤマタイに入るのも無理ってことだよな?」
「どうやったって瀬戸内の海は渡れないよ。とくにガタイがでかくて、妙に立派に見えるアンタは変装したって無理」
「他に、大和からヤマタイに入る道筋はあるか?」
「あるよ。伊豫之二名島の南の海を島にそって西行して筑紫島の南に向かう。土佐の港を越えて狗奴国か、日向あたりなら上陸できるかも?」
「それだ!」
「?」
「いや、イワレヒコ様達の立場にたって考えてみるとその方法しかなさそうだ」
「でも、普段は通行のない危険な航路だよ」
「瀬戸内より?」
「シイネツヒコの手の者に出くわす可能性は瀬戸内よりないだろうけど」
「それに賭けよう。土佐の港へ向おう!」
「えぇっ?また舟がいるよ」
「岩屋の港にはヤマタイ攻めの舟が、集まってくるだろう?それを児島脱出の時のように奪ってくる」
「土佐は外海だから、瀬戸内の船じゃ、、、」
「ないよりマシだろう?最悪、阿波まで辿りつけば土佐まで陸路で行けるんじゃないか?」
「馬鹿をお言いでないよ。石鎚から始まる伊予のお山を舐めてるね?海からも見える大きな山並みがあるんだ簡単に通り抜けられるはずないだろう」
二人は結局、ウズメの存在がシイネツヒコに気付かれた可能性がある以上、このまま淡路に潜伏したり、警戒されているであろう河内方面の移動は難しいとの判断から、阿波への道を選んだのだ。知ってか知らずか、彼ら二人の行程は国産みの物語に沿っていた。
「ドンガメ、あれか?」
イリヒコは海上の小舟から天に向って突きたっているように見える大岩を指さした。
「そうでございます」
ドンガメは数年ぶりに見る風景に嬉しさを感じたのか、笑顔で答えた。船酔いでぐったりしていたカムヤイも感嘆の声をあげた。確かに神々しくもある。反面、荒波に削られたのか荒々しくも感じる大岩は確かに、天の御柱が如く海面から屹立していた。
「ドンガメよ、お主の村はどの方角だ?」
と、船頭はドンガメに尋ねるがドンガメはよくわからないが山の中だったという。船頭はこのあたりには停泊しやすそうな場所がないので天の御柱の対岸近くで海に降りて沼島に上がるよう促した。
「山の中の村なあ。お主ら一族しかおらんなら村というほどもなかろう。ワシらは西側の鼻のあたりに停泊して待っとる」
そう言い残すと、船は三人を海の中に置いたまま離れて行った。三人は泳ぎながら対岸に辿りつき上陸した。
「どうじゃ?見覚えがあるか?」
イリヒコは上陸した場所から四方を見渡しながらドンガメに尋ねた。
「あの山の中」
と、ドンガメが、指差した方角を見ると獣道らしきものが見えた。三人はドンガメを先頭に山に分けいった。しばらく斜面の獣道を進むと建物の残骸を見つけた。ドンガメは残骸を見つけると走り出し、その場に辿り着くとあたりを見回す。そして父、母を呼ぶが山の中から返答はない。誰も近くにはいないようだ。
「ここなのか?」
漸く追いついたイリヒコらは残骸を調べた。鏃などが落ちている以外、手がかりになるようなものはない。どうもドンガメの言う通りに襲撃を受けたようだ。
「イリヒコ様、この奥でこざいます。この奥にヒルコ様のお宝のあった社がございますます」
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