104 / 179
西遷の章
アメノミハシラ
しおりを挟む
タヂカラヲは、困っていた。船もない、人もない、目的地もわからない、何よりも充分な食事と休養もとってない。いくら頑健なタヂカラヲでも流石に身体と心に堪える状況だ。唯一の慰めは何故か明るいウズメの存在である。門外漢のタヂカラヲより地理や海に詳しく、食料の調達まで任せきりである。
児島からの脱出以降、タヂカラヲが役にたったのは伊予の水軍を武力で追い散らしウズメを助け小舟を奪った時だけである。あとはウズメの進言に従って伊予の水軍の盲点を突きつつ大和を目指していただけである。
「アラシトと共に大和入りし、イワレヒコの娘、マキヒメをヤマタイへお連れする」というのがタヂカラヲに課せられた使命だ。その発案者であり今回の行動の指導者とも言うべきアラシトは既に敵の手に落ちた。ウズメが得た情報によるも大和のイワレヒコ一族が、新しき大物主となったタカヒコに敗北し、逃亡して行方がしれないという。八方塞がりである。
「何を暗い顔してるの?イワレヒコさん達に合流するんでしょう?とりあえず河内に向かわないと」
ウズメはタヂカラヲを励まそうと明るく声をかけたが、神妙な表情のままのタヂカラヲを力なく呟いた。
「イワレヒコ様達は何処へ行かれたのか?」
「さあ、分かんないけどさ。イワレヒコさん達もアラシトさんの策に乗ったんだよね?じやあ多少の失敗はあっても、ヤマタイか日向に向かうんじゃない?アラシトさんが捕まったのをしったとしたら日向かな?」
「むう。今から大和に向かっても入れ違いにならないか?」
「まあそりゃその可能性もあるけどさ」
「ヤマタイへ戻ろう」
「何言ってんのさ、ここからヤマタイまで航海に耐える舟なんて手に入らないよ。だいたいシイネツヒコが網はってるんだからさ、例え船をなんとかしたって捕まるのは目に見えてるよ」
「まてよ、するとイワレヒコ様たちがヤマタイに入るのも無理ってことだよな?」
「どうやったって瀬戸内の海は渡れないよ。とくにガタイがでかくて、妙に立派に見えるアンタは変装したって無理」
「他に、大和からヤマタイに入る道筋はあるか?」
「あるよ。伊豫之二名島の南の海を島にそって西行して筑紫島の南に向かう。土佐の港を越えて狗奴国か、日向あたりなら上陸できるかも?」
「それだ!」
「?」
「いや、イワレヒコ様達の立場にたって考えてみるとその方法しかなさそうだ」
「でも、普段は通行のない危険な航路だよ」
「瀬戸内より?」
「シイネツヒコの手の者に出くわす可能性は瀬戸内よりないだろうけど」
「それに賭けよう。土佐の港へ向おう!」
「えぇっ?また舟がいるよ」
「岩屋の港にはヤマタイ攻めの舟が、集まってくるだろう?それを児島脱出の時のように奪ってくる」
「土佐は外海だから、瀬戸内の船じゃ、、、」
「ないよりマシだろう?最悪、阿波まで辿りつけば土佐まで陸路で行けるんじゃないか?」
「馬鹿をお言いでないよ。石鎚から始まる伊予のお山を舐めてるね?海からも見える大きな山並みがあるんだ簡単に通り抜けられるはずないだろう」
二人は結局、ウズメの存在がシイネツヒコに気付かれた可能性がある以上、このまま淡路に潜伏したり、警戒されているであろう河内方面の移動は難しいとの判断から、阿波への道を選んだのだ。知ってか知らずか、彼ら二人の行程は国産みの物語に沿っていた。
「ドンガメ、あれか?」
イリヒコは海上の小舟から天に向って突きたっているように見える大岩を指さした。
「そうでございます」
ドンガメは数年ぶりに見る風景に嬉しさを感じたのか、笑顔で答えた。船酔いでぐったりしていたカムヤイも感嘆の声をあげた。確かに神々しくもある。反面、荒波に削られたのか荒々しくも感じる大岩は確かに、天の御柱が如く海面から屹立していた。
「ドンガメよ、お主の村はどの方角だ?」
と、船頭はドンガメに尋ねるがドンガメはよくわからないが山の中だったという。船頭はこのあたりには停泊しやすそうな場所がないので天の御柱の対岸近くで海に降りて沼島に上がるよう促した。
「山の中の村なあ。お主ら一族しかおらんなら村というほどもなかろう。ワシらは西側の鼻のあたりに停泊して待っとる」
そう言い残すと、船は三人を海の中に置いたまま離れて行った。三人は泳ぎながら対岸に辿りつき上陸した。
「どうじゃ?見覚えがあるか?」
イリヒコは上陸した場所から四方を見渡しながらドンガメに尋ねた。
「あの山の中」
と、ドンガメが、指差した方角を見ると獣道らしきものが見えた。三人はドンガメを先頭に山に分けいった。しばらく斜面の獣道を進むと建物の残骸を見つけた。ドンガメは残骸を見つけると走り出し、その場に辿り着くとあたりを見回す。そして父、母を呼ぶが山の中から返答はない。誰も近くにはいないようだ。
「ここなのか?」
漸く追いついたイリヒコらは残骸を調べた。鏃などが落ちている以外、手がかりになるようなものはない。どうもドンガメの言う通りに襲撃を受けたようだ。
「イリヒコ様、この奥でこざいます。この奥にヒルコ様のお宝のあった社がございますます」
と、ドンガメは道無き道を指さす。三人はさらに山の上に向かった。
児島からの脱出以降、タヂカラヲが役にたったのは伊予の水軍を武力で追い散らしウズメを助け小舟を奪った時だけである。あとはウズメの進言に従って伊予の水軍の盲点を突きつつ大和を目指していただけである。
「アラシトと共に大和入りし、イワレヒコの娘、マキヒメをヤマタイへお連れする」というのがタヂカラヲに課せられた使命だ。その発案者であり今回の行動の指導者とも言うべきアラシトは既に敵の手に落ちた。ウズメが得た情報によるも大和のイワレヒコ一族が、新しき大物主となったタカヒコに敗北し、逃亡して行方がしれないという。八方塞がりである。
「何を暗い顔してるの?イワレヒコさん達に合流するんでしょう?とりあえず河内に向かわないと」
ウズメはタヂカラヲを励まそうと明るく声をかけたが、神妙な表情のままのタヂカラヲを力なく呟いた。
「イワレヒコ様達は何処へ行かれたのか?」
「さあ、分かんないけどさ。イワレヒコさん達もアラシトさんの策に乗ったんだよね?じやあ多少の失敗はあっても、ヤマタイか日向に向かうんじゃない?アラシトさんが捕まったのをしったとしたら日向かな?」
「むう。今から大和に向かっても入れ違いにならないか?」
「まあそりゃその可能性もあるけどさ」
「ヤマタイへ戻ろう」
「何言ってんのさ、ここからヤマタイまで航海に耐える舟なんて手に入らないよ。だいたいシイネツヒコが網はってるんだからさ、例え船をなんとかしたって捕まるのは目に見えてるよ」
「まてよ、するとイワレヒコ様たちがヤマタイに入るのも無理ってことだよな?」
「どうやったって瀬戸内の海は渡れないよ。とくにガタイがでかくて、妙に立派に見えるアンタは変装したって無理」
「他に、大和からヤマタイに入る道筋はあるか?」
「あるよ。伊豫之二名島の南の海を島にそって西行して筑紫島の南に向かう。土佐の港を越えて狗奴国か、日向あたりなら上陸できるかも?」
「それだ!」
「?」
「いや、イワレヒコ様達の立場にたって考えてみるとその方法しかなさそうだ」
「でも、普段は通行のない危険な航路だよ」
「瀬戸内より?」
「シイネツヒコの手の者に出くわす可能性は瀬戸内よりないだろうけど」
「それに賭けよう。土佐の港へ向おう!」
「えぇっ?また舟がいるよ」
「岩屋の港にはヤマタイ攻めの舟が、集まってくるだろう?それを児島脱出の時のように奪ってくる」
「土佐は外海だから、瀬戸内の船じゃ、、、」
「ないよりマシだろう?最悪、阿波まで辿りつけば土佐まで陸路で行けるんじゃないか?」
「馬鹿をお言いでないよ。石鎚から始まる伊予のお山を舐めてるね?海からも見える大きな山並みがあるんだ簡単に通り抜けられるはずないだろう」
二人は結局、ウズメの存在がシイネツヒコに気付かれた可能性がある以上、このまま淡路に潜伏したり、警戒されているであろう河内方面の移動は難しいとの判断から、阿波への道を選んだのだ。知ってか知らずか、彼ら二人の行程は国産みの物語に沿っていた。
「ドンガメ、あれか?」
イリヒコは海上の小舟から天に向って突きたっているように見える大岩を指さした。
「そうでございます」
ドンガメは数年ぶりに見る風景に嬉しさを感じたのか、笑顔で答えた。船酔いでぐったりしていたカムヤイも感嘆の声をあげた。確かに神々しくもある。反面、荒波に削られたのか荒々しくも感じる大岩は確かに、天の御柱が如く海面から屹立していた。
「ドンガメよ、お主の村はどの方角だ?」
と、船頭はドンガメに尋ねるがドンガメはよくわからないが山の中だったという。船頭はこのあたりには停泊しやすそうな場所がないので天の御柱の対岸近くで海に降りて沼島に上がるよう促した。
「山の中の村なあ。お主ら一族しかおらんなら村というほどもなかろう。ワシらは西側の鼻のあたりに停泊して待っとる」
そう言い残すと、船は三人を海の中に置いたまま離れて行った。三人は泳ぎながら対岸に辿りつき上陸した。
「どうじゃ?見覚えがあるか?」
イリヒコは上陸した場所から四方を見渡しながらドンガメに尋ねた。
「あの山の中」
と、ドンガメが、指差した方角を見ると獣道らしきものが見えた。三人はドンガメを先頭に山に分けいった。しばらく斜面の獣道を進むと建物の残骸を見つけた。ドンガメは残骸を見つけると走り出し、その場に辿り着くとあたりを見回す。そして父、母を呼ぶが山の中から返答はない。誰も近くにはいないようだ。
「ここなのか?」
漸く追いついたイリヒコらは残骸を調べた。鏃などが落ちている以外、手がかりになるようなものはない。どうもドンガメの言う通りに襲撃を受けたようだ。
「イリヒコ様、この奥でこざいます。この奥にヒルコ様のお宝のあった社がございますます」
と、ドンガメは道無き道を指さす。三人はさらに山の上に向かった。
2
お気に入りに追加
45
あなたにおすすめの小説
浅葱色の桜
初音
歴史・時代
新選組の局長、近藤勇がその剣術の腕を磨いた道場・試衛館。
近藤勇は、子宝にめぐまれなかった道場主・周助によって養子に迎えられる…というのが史実ですが、もしその周助に娘がいたら?というIfから始まる物語。
「女のくせに」そんな呪いのような言葉と向き合いながら、剣術の鍛錬に励む主人公・さくらの成長記です。
時代小説の雰囲気を味わっていただくため、縦書読みを推奨しています。縦書きで読みやすいよう、行間を詰めています。
小説家になろう、カクヨム、エブリスタでも載せてます。
白薔薇黒薔薇
平坂 静音
歴史・時代
女中のマルゴは田舎の屋敷で、同じ歳の令嬢クララと姉妹のように育った。あるとき、パリで働いていた主人のブルーム氏が怪我をし倒れ、心配したマルゴは家庭教師のヴァイオレットとともにパリへ行く。そこで彼女はある秘密を知る。
織田信長IF… 天下統一再び!!
華瑠羅
歴史・時代
日本の歴史上最も有名な『本能寺の変』の当日から物語は足早に流れて行く展開です。
この作品は「もし」という概念で物語が進行していきます。
主人公【織田信長】が死んで、若返って蘇り再び活躍するという作品です。
※この物語はフィクションです。
四代目 豊臣秀勝
克全
歴史・時代
アルファポリス第5回歴史時代小説大賞参加作です。
読者賞を狙っていますので、アルファポリスで投票とお気に入り登録してくださると助かります。
史実で三木城合戦前後で夭折した木下与一郎が生き延びた。
秀吉の最年長の甥であり、秀長の嫡男・与一郎が生き延びた豊臣家が辿る歴史はどう言うモノになるのか。
小牧長久手で秀吉は勝てるのか?
朝日姫は徳川家康の嫁ぐのか?
朝鮮征伐は行われるのか?
秀頼は生まれるのか。
秀次が後継者に指名され切腹させられるのか?
大東亜戦争を有利に
ゆみすけ
歴史・時代
日本は大東亜戦争に負けた、完敗であった。 そこから架空戦記なるものが増殖する。 しかしおもしろくない、つまらない。 であるから自分なりに無双日本軍を架空戦記に参戦させました。 主観満載のラノベ戦記ですから、ご感弁を

梅すだれ
木花薫
歴史・時代
江戸時代の女の子、お千代の一生の物語。恋に仕事に頑張るお千代は悲しいことも多いけど充実した女の人生を生き抜きます。が、現在お千代の物語から逸れて、九州の隠れキリシタンの話になっています。島原の乱の前後、農民たちがどのように生きていたのか、仏教やキリスト教の世界観も組み込んで書いています。
登場人物の繋がりで主人公がバトンタッチして物語が次々と移っていきます隠れキリシタンの次は戦国時代の姉妹のストーリーとなっていきます。
時代背景は戦国時代から江戸時代初期の歴史とリンクさせてあります。長編時代小説。長々と続きます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる