大陰史記〜出雲国譲りの真相〜

桜小径

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西遷の章

アメノウズメ

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シイネツヒコは、岩屋の港でタケミナカタの乗る船を恭しく迎え挨拶をした。

「これはこれはミナカタ様、遠く越の国からの旅、ご苦労さまです。これより先は、私が案内いたしましょう。出立は明日の早朝、ひとまずはごゆるりと。。。」

「ふん。そなたは水先案内のシオツチ気取りか?」

「いきなりそんな悪態を」

「ついてはいかんか?其方のことはタカヒコやトシロ同様、弟のように思っている。瀬戸内を統べる海の王に対して無礼だったか?」

「ありがたき言葉。私も兄と思い慕わせてもらいしょう。筑紫へお急ぎでしょうが今宵はひとまず、この岩屋の港でお休みください」

「有難く受け入れよう。シイネツヒコよ」

やれやれといった表情で、シイネツヒコは周りの者に宿所を整えるよう命じ、タケミナカタを饗応するための部屋へと誘った。ヤマトから陸路、海路を大急ぎでやってきたミナカタは用意された淡路の山海の珍味を平らげ、満足したようだ。それを見計らったシイネツヒコは深刻そうな表情でミナカタに語りかけた。

「ところでたった一人でのご到着とは驚きました。八千矛軍は?」

「数名は後ほど明石の港より参る」

「 数名?たったそれだけで筑紫に向かうのですか?」

「そうだ。イセツヒコを大和に残してその他の精鋭のみで向かう。雑兵は出雲より下関に向かっておる。越、出雲、大和と守らねばならん土地も増えたからな」

「総勢はいくらくらいになりますか?」

「主力は今、出雲におる千名それと越から父と共にやってくる数百人に、お主らと播磨勢、筑紫の宗像勢で合わせて2000を越える大軍だ。それにキクチヒコにも調略をかけておる。」

「まさに総力戦ですな。兵糧は?」

「うむ。ホヒが差配しておろう。お主らに運んでもらう事となるだろう」

「長い戦になると困ったことになりそうですな」

「だから、わざわざワシを呼んだのであろう」

と、このところで戦い詰めのタケミナカタはニヤリと笑った。

「タケミナカタ様は越にて様々な戦を取り仕切った聞き及んでおります。ミナカタ様が現れると一気に敵が霧消すると。」

「大げさな追従を申すな。ここ淡路は大丈夫なのか?キクチヒコの下にヒルコがおるという噂もある」

とタケミナカタは、シイネツヒコの追従を遮った。

「ヒルコ様の事までご存知でしたか。私が父の喪に服している間、アラシトの猛威を避けて筑紫にお渡りになりました。」

「ヒルコは味方なのか?」

「おそらく。」

シイネツヒコは神妙な面持ちで答えた。正直なところヒルコの内心まではシイネツヒコは知らないのだ。不安を頭から消し去るようにシイネツヒコは続ける。

「ヒルコ様に懸念があるとすれば、イワレヒコの存在です。彼らさえ抑えておけば。」

「逃げられた」

「大和から?」

「うむ。大和の合戦の後、イワレヒコの娘婿、ミマキイリヒコらがイワレヒコと共に河内から消息をたったのだ。もしやヒルコを頼り淡路に逃げこんでいるかと思うて、ワシが先に参ったのだ。」

「なるほど。イワレヒコらが向かうとしたら淡路南東のオノゴロ島、」

と、シイネツヒコが言いかけたのをタケミナカタ制した。室内の様子を伺う者の気配を感じたのだ。タケミナカタはシイネツヒコに合図を送るとシイネツヒコは気配のする方へ短刀を握り飛びかかった。

「くそ!」

しかし、そこにはもう誰もいなかった。シイネツヒコが辺りを見回すと砦の外に飛び出す小柄な人影を見つけた。

「何者だ。心あたりはあるのか?」

シイネツヒコはしばらく考えこんだあと、呟いた。

「もしや。ヤマタイの者やも知れませぬ」

「ヤマタイ?何故に淡路に?」

「実は、アラシトを児島まで運んで来たのは伊都の軍船でして、軍船は拿捕したのですが、乗っていたのは雑兵ばかり。幹部を取り逃したとの報告をうけております。」

「何だと?伊都の者がここまで来てるとは、、、。」

「播磨に幽閉しているアラシトの配下によると、伊都の将軍の一人タヂカラヲが乗り込んでいたはず。」

「タヂカラヲ、聞いたことのある名だ。伊都からヤマタイにかけての軍を率いておる男だな」

「そうです。それともう一人、水先案内をしているのがアメノウズメにございます。彼女は豊の国あたりの海人の女頭の一人、瀬戸の潮にも土佐の潮にも詳しいはずです。恐らく、今ここにいたのはウズメかその配下の女人でございましょう」

「むう。オノゴロでイワレヒコらと合流されると厄介な事になるやも知れんな。」

「ヒルコ様が身を寄せるキクチヒコはヤマタイとは敵でごさいましょう?」

「キクチヒコが敵対しておるのは、火神子のヤマタイだ。火神子の亡き今、ヤマタイ連合は伊都国そのもの。キクチヒコは伊都と休戦を結んだのであろう。何が起こるや分からん。それにイワレヒコは日向の王族、キクチヒコらと繋がりがないとは言えん。」

砦に忍びこんだのは、アメノウズメその人だった。彼女は火神子の直接的な配下の一人である。一緒にいるタヂカラヲは伊都の将軍とはいえ、伊都そしてヤマタイの実権を握ったオモイカネのやり口に疑問を感じているのだ。オモイカネらもそれを感じ取り、アラシトら日矛の輸送という仕事を与え、自らの遠ざけたのだったのだ。その二人はシイネツヒコの配下の海人達の包囲網を破り吉備児島の港から脱し、屋島から淡路へと侵入していたのだ。彼らの表向きの目的はイワレヒコの娘、マキひめをヤマタイへ連れ帰る事である。

「どうするよ、将軍様。」

ウズメは、ぼんやりと海を眺めているタヂカラヲを指輪でつついた。

「どうするも何も、、、」

「はん!?どうもできないっての?何だかんだ言ったって将軍様はお強いじゃあないか。ここまで逃げて来られたんだってアンタのその力と勘のおかげじゃあないかい」

二人は、児島の包囲網を打ち破って、相手の意表をついて四国に逃げこんだのだのだ。吉備や播磨の近辺にいたらすぐに捕まると、タヂカラヲが言い、ウズメの案内で四国そして淡路とやってきたのだ。道中、何度かよそ者に襲いかかる者達を次から次へと退治したのはタヂカラヲの腕力のお陰である。

「将軍様はまだ、マキヒメとやらをさがしに行くおつもり?」

「いや…。」

「今聞いた話しじゃ、アラシトは捕えられ、イワレヒコさん達も行方不明らしいじゃないか」

「しかし、、、」

「煮え切らないねぇ。アンタも火神子様を殺したオモイカネはやりすぎだって言ってたじゃないか、いい潮時じゃないか、一緒に宇佐へ戻ろうよ。」

「うむぅ。ウズメよ、そなたイワレヒコらはオノゴロ島に向かったと言っておったなあ?」

「そうだよ」

「オノゴロ島とやらの場所はわかるのか?」

「わかんないよ。昔話の島だからねぇ。この淡路の近くだって事くらいしか知らない。」

「そこに行こう!」

悩みに悩んだタヂカラヲの決断は、まず、イワレヒコらと合流するということになった。





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