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幼稚園ヤクザ
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ぼくらが住む地区のとなりの地区には、とんでもない問題児がいた。
幼稚園児のくせに、肥後守というナイフを使い子どもたちを脅し、カツアゲしたり、暴行したり、果ては近所の家に泥棒に入るという問題児だ。
頬には向う傷、その睨みはとても幼児には見えない。脅し言葉のボキャブラリーも凄い。
身体も小学生の中学年くらい巨大だ。腕っぷしも強いし、イジメのやり方も残酷だ。
まさにヤクザが幼稚園服を着て闊歩している感じだ。
やつの名は西本。
親は大手製鉄会社の夜勤専門らしい。昼間は大人は家に居ないようだ。
ある日、テツとぼくは幼稚園から帰宅途中に西本に絡まれた。
「おい!」
と、西本がぼくらに声をかけてきた。
テツが答える。
「何や!」
「ちょっとこっち来い」
ぼくは危険な感じがした。テツに小声で逃げようと言ったが、テツもそれなりの問題児。舐められたらダメだと思ったのか、ぼくの声を無視して近づいていく。
西本は身体も幼稚園では一番大きく、テツよりも一回り、ぼくよりふた回りは大きな体格をしている。
西本がやばいのはテツもぼくも当然知っていたがテツは敢然と立ち向かった。
しかし西本のほうが一枚上手だった。ケンカ態勢に入る直前に身体を翻し、テツの後ろに周りこみ後ろから片手でテツのクビを閉め、隠していた肥後守でテツのほっぺをピタピタと叩く。
「刺したろか?」
テレビドラマでもみて覚えたのか、鮮やかな手際だ。
「刺されたくなかったら金だせ!」
「幼稚園の帰りにお金なんなもっとらんわ」
と、ぼくは叫んだ。
すると、テツのクビを片手で締めたまま、肥後守の刃先をぼくに向けてきた。
「生意気なやつやな」
と、テツを引きずりながらぼくの方へ近づいてくる。
テツはクビに回された西本の腕を外そうとするが、なかなか上手くいかない。
少しだけ、緩めた隙に、テツはぼくに向かって言った。
「逃げろ!」
すると西本は、テツの方を振り向きなおして、肥後守を握ったままの手でテツの顔にパンチを入れる。
「だまらんかい!」
テツはそのパンチでひっくり返った。その頭を掴んだ西本は、横にあった用水路にテツの顔を押し付けた。
「この汚い水のめ!そしたら今日は見逃したる。明日は金もってこいよ!」
テツを助けに行こうと二人に近づこうとしたその時、ぼくの頭の中に人丸さんの声が響く。
「逃げるんじゃ、坊主。そして大人を連れて来い」
ぼくはその声に弾かれたように、駆け出した。
西本は「逃げるな、こいつどうなってもしらんぞ」と叫んだ。
その言葉に反応し、ぼくは立ち止まってしまった。
そこへまた人丸さんの声がする。
「なあに、あれ以上、何もできんよ。テツも強い。簡単には西本の思い通りにはならん。坊主は大人を呼びに行くのじゃ」
ぼくはその声に従った。
「助けて!」
と、近所の家の呼び出しベルを押しながら逃げ出した。
「そうじゃ坊主」
何件目かの家からおばさんが出てきた。
「何?」
というので、西本とテツの方を指差した。
「まあ、何やってるの。ケンカ?」
と、言いながらおばさんがテツの方に歩いていくと、西本は捨て台詞を吐いて逃げ出した。
「おまえら、覚えとけよ!」
と、言うやいなやテツから手を離し、おばさんと逆の方向へと西本は逃げ出した。
おばさんはテツを助け起こしながら、言った。
「またあの西本いう悪ガキやな。ヤクザみたいやな」
テツは少し用水路の水を飲まされてしまったようだ。顔を突っ込まれたから仕方ない。
用水路を見ると、ボウフラが湧いていた。
おばさんは「ぼくら、気をつけて帰るんやで、幼稚園に電話しといたる」
と言って、家の中に入って行った。
ぼくはテツを助け起こし、
「とりあえず、綺麗な水のんで、のどに指を突っ込んで吐こう」
テツはうなづいた。
そこからはぼくの家の方が近かったので、ぼくの家で水を飲んで腹の中のモノをテツは吐き出した。
そこへ、ぼくのお父さんが、配達の途中で通りかかった。
ぼくはお父さんを呼び止め、事の次第を伝えた。お父さんは車を止めてテツに話しかけた。
「汚い水、吐けたか?」
「うん」
「ちょっと待っとけ」
と、自宅に入った父は赤玉の胃腸薬をもって出てきた。
「大丈夫や思うけど、これも飲みなさい」
と、テツに薬を飲ませた。
「しかし、西本いう子はとんでもないな。ここ通る予定なかったんやけど、なんか家の前を通りたくなってこっちに帰ってきたんや」
ぼくは、人丸さんのお陰かな?と思った。
お父さんはテツに、「家の人に言うて、気分悪かったり、お腹痛くなったら病院に連れて行ってもらうんやで」と言って、仕事に戻って行った。
「えらい目におうたな」
と、ぼくがテツに言うと、
「ナイフ持ってるなんて反則や!ナイフなかったらやったったのに」
と、言った。
これくらい言えたら大丈夫かな?と思って、テツとそこで別れた。
ものの数分後、テツは遊びに来た。
お腹は大丈夫だったようだった。
翌日の幼稚園。
今日も西本は肥後守を隠し持っていた。幼稚園の先生たちは、肥後守を取り上げ西本をかなり強く叱った。これで、しばらくの間、西本は大人しくなったのだった。
幼稚園児のくせに、肥後守というナイフを使い子どもたちを脅し、カツアゲしたり、暴行したり、果ては近所の家に泥棒に入るという問題児だ。
頬には向う傷、その睨みはとても幼児には見えない。脅し言葉のボキャブラリーも凄い。
身体も小学生の中学年くらい巨大だ。腕っぷしも強いし、イジメのやり方も残酷だ。
まさにヤクザが幼稚園服を着て闊歩している感じだ。
やつの名は西本。
親は大手製鉄会社の夜勤専門らしい。昼間は大人は家に居ないようだ。
ある日、テツとぼくは幼稚園から帰宅途中に西本に絡まれた。
「おい!」
と、西本がぼくらに声をかけてきた。
テツが答える。
「何や!」
「ちょっとこっち来い」
ぼくは危険な感じがした。テツに小声で逃げようと言ったが、テツもそれなりの問題児。舐められたらダメだと思ったのか、ぼくの声を無視して近づいていく。
西本は身体も幼稚園では一番大きく、テツよりも一回り、ぼくよりふた回りは大きな体格をしている。
西本がやばいのはテツもぼくも当然知っていたがテツは敢然と立ち向かった。
しかし西本のほうが一枚上手だった。ケンカ態勢に入る直前に身体を翻し、テツの後ろに周りこみ後ろから片手でテツのクビを閉め、隠していた肥後守でテツのほっぺをピタピタと叩く。
「刺したろか?」
テレビドラマでもみて覚えたのか、鮮やかな手際だ。
「刺されたくなかったら金だせ!」
「幼稚園の帰りにお金なんなもっとらんわ」
と、ぼくは叫んだ。
すると、テツのクビを片手で締めたまま、肥後守の刃先をぼくに向けてきた。
「生意気なやつやな」
と、テツを引きずりながらぼくの方へ近づいてくる。
テツはクビに回された西本の腕を外そうとするが、なかなか上手くいかない。
少しだけ、緩めた隙に、テツはぼくに向かって言った。
「逃げろ!」
すると西本は、テツの方を振り向きなおして、肥後守を握ったままの手でテツの顔にパンチを入れる。
「だまらんかい!」
テツはそのパンチでひっくり返った。その頭を掴んだ西本は、横にあった用水路にテツの顔を押し付けた。
「この汚い水のめ!そしたら今日は見逃したる。明日は金もってこいよ!」
テツを助けに行こうと二人に近づこうとしたその時、ぼくの頭の中に人丸さんの声が響く。
「逃げるんじゃ、坊主。そして大人を連れて来い」
ぼくはその声に弾かれたように、駆け出した。
西本は「逃げるな、こいつどうなってもしらんぞ」と叫んだ。
その言葉に反応し、ぼくは立ち止まってしまった。
そこへまた人丸さんの声がする。
「なあに、あれ以上、何もできんよ。テツも強い。簡単には西本の思い通りにはならん。坊主は大人を呼びに行くのじゃ」
ぼくはその声に従った。
「助けて!」
と、近所の家の呼び出しベルを押しながら逃げ出した。
「そうじゃ坊主」
何件目かの家からおばさんが出てきた。
「何?」
というので、西本とテツの方を指差した。
「まあ、何やってるの。ケンカ?」
と、言いながらおばさんがテツの方に歩いていくと、西本は捨て台詞を吐いて逃げ出した。
「おまえら、覚えとけよ!」
と、言うやいなやテツから手を離し、おばさんと逆の方向へと西本は逃げ出した。
おばさんはテツを助け起こしながら、言った。
「またあの西本いう悪ガキやな。ヤクザみたいやな」
テツは少し用水路の水を飲まされてしまったようだ。顔を突っ込まれたから仕方ない。
用水路を見ると、ボウフラが湧いていた。
おばさんは「ぼくら、気をつけて帰るんやで、幼稚園に電話しといたる」
と言って、家の中に入って行った。
ぼくはテツを助け起こし、
「とりあえず、綺麗な水のんで、のどに指を突っ込んで吐こう」
テツはうなづいた。
そこからはぼくの家の方が近かったので、ぼくの家で水を飲んで腹の中のモノをテツは吐き出した。
そこへ、ぼくのお父さんが、配達の途中で通りかかった。
ぼくはお父さんを呼び止め、事の次第を伝えた。お父さんは車を止めてテツに話しかけた。
「汚い水、吐けたか?」
「うん」
「ちょっと待っとけ」
と、自宅に入った父は赤玉の胃腸薬をもって出てきた。
「大丈夫や思うけど、これも飲みなさい」
と、テツに薬を飲ませた。
「しかし、西本いう子はとんでもないな。ここ通る予定なかったんやけど、なんか家の前を通りたくなってこっちに帰ってきたんや」
ぼくは、人丸さんのお陰かな?と思った。
お父さんはテツに、「家の人に言うて、気分悪かったり、お腹痛くなったら病院に連れて行ってもらうんやで」と言って、仕事に戻って行った。
「えらい目におうたな」
と、ぼくがテツに言うと、
「ナイフ持ってるなんて反則や!ナイフなかったらやったったのに」
と、言った。
これくらい言えたら大丈夫かな?と思って、テツとそこで別れた。
ものの数分後、テツは遊びに来た。
お腹は大丈夫だったようだった。
翌日の幼稚園。
今日も西本は肥後守を隠し持っていた。幼稚園の先生たちは、肥後守を取り上げ西本をかなり強く叱った。これで、しばらくの間、西本は大人しくなったのだった。
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