ジュラシック村

フェンス際の攻防

門倉は苛立っていた。

戦車の主が政府関係者でも自衛隊関係者でもなく単なる映画制作者とわかったからだ。

映画だかドラマだかを撮るためにこんな大掛かりなことをして、なおかつ自分がそれに動員され、政府側の責任者にされたことに苛立っている。

戦車の主は今日も上機嫌だ。

戦車をキャンピングカーのように使い、インカム無線で、フェンス内の人間とロボットに指示を出している。

ラプトルはあの惨劇以来、ロボットの目前には出てこない。

が、門倉は近くにいる。

ということを確信していた。

人間を襲うにはこの出入り口しかない。それを奴らはこの何日間で理解してしまっている。

今朝は、野生のイノシシの食べ残しをこれ見よがしにフェンス前に捨てていた。

そんな大きな里山ではない。

イノシシ、鹿、サル、リスなどの小動物程度しか肉食獣の餌になるものはあるまい。

奴らには物足りないはずだ。

大イノシシや熊でもいれば行きこのれる。

門倉が苛立っているのは、ティラノの行方がわからないのもある。

あれは巨大でマシンガンが役に立つかわからない。

ラプトルなら、ロボットとマシンガンで数ひきなら退治できることが実証済みだ。

戦車のヌシは言った。

「ティラノサウルスもいるはずたろう？あんな大きなものなんで見つけられないんだ」

ドローンを使って里山全体の警備はしている。しかし、最初に姿を現し、住民を一飲みして以来、奴はでてこない。

巣穴でも作って隠れているのか？

警戒しているのか？

門倉は戦争とは違う戦いに苛立ちがますます増してきている。

戦車の主は戦車ごとフェンス内に入ることを求めている。

その要望は門倉の一存で却下しているが、戦車の主がいつまた政治力を発揮して門倉の頭越しに何かを企んでいることは明白だからだ。

ひっきり無しにあちこちにの太い声を猫撫で声に変えて懇願している。

馬鹿な政治家たちは、またこの男の言いなりになるのか？

門倉は直属の上司に反対の意見を上申している。

果たしてどうなるのか？

どこからともなく、咆哮と銃声が響いている。フェンスの外側は通常生活だ。

驚いて、窓から顔を覗かせている住人もたくさんいる。

いつまでこんな事をやるのか？

いつまで誤魔化せるのか？

門倉はタバコに火をつけ、大きく吸い込んた。タバコでも吸わないとやってられないのだ。