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ACT03.飲み過ぎにはご注意を
8.誕生日会
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―碧生―
「みんな飲み物持った?」
奏多の呼びかけに応じ、千隼が生ビールのジョッキを元気よく掲げる。
「おっけーい!」
「よし、じゃあ……」
「ええからもう、早く」
悠貴が焦れったそうに唇を尖らせる。
「早よ肉焼かな、腐るで!」
「腐らんわ!……では、うちの可愛い末っ子、千隼の二十歳の誕生日を祝して、乾杯!」
「かんぱーい!」
グラスがぶつかり合う音が鳴り響く。
一口飲むや否や、本当に腐るとでも思っているのか悠貴は急いで網の上にタンを並べ始めた。
―今日は、千隼の二十歳の誕生日だ。
ずっと前から、最年少の千隼が成人する時にはメンバー全員でお酒を飲みに行こう、と約束していた。
その事を知っていたマネージャーが気を利かせてスケジュールを調整してくれたお陰で、無事にメンバー全員で焼肉を食べに来ることができた。
泡の乗った冷たいジョッキに口をつける。普段はあまり口にしないせいか、炭酸の刺激や口の中に広がる苦い香りにむせそうになる。悪酔いしたらどうしようかと思ったが、明日はオフだし気にしない事にした。どうせ一緒にいるのも、気心の知れたメンバー達だけだ。
「とうとう千隼も成人かあ。なんか感慨深いな」
最年長の大知くんが、しみじみとした感じで言う。
「大知くん、言い方が父親みたい」
思わずつっ込んだけれど、奏多は大知くんのセリフに共感したらしく大きく頷いた。
「出会った頃のこと思い出すとなあ。もうお酒飲める年になったんかって、不思議な気持ちになるよな」
「まあ、確かにね……」
初めて会った時、制服姿でレッスンに来ていたことを思い出す。
あれからもう、随分と月日が経った。
「ねー!みんなで写真撮ろうよ!」
ジョッキ片手に慣れた手つきで、千隼がスマホを構える。
「ええー!待って、待って」
「ハルくん、そんな前髪気にしなくていいからー!」
「肉焦げるって、早くー」
急かしながら、俺も何となく前髪を調えてみる。
「撮るよー!さん、にい、いちっ」
カシャ、と軽い音が鳴る。
撮れた写真を確認し、千隼は満足そうに頷いた。
「いいねー。公式のSNSに上げちゃお」
「ちょ、千隼。見してー」
「あ、じゃあみんなに送るわっ」
「肉焼けたぞー、今日の主役ー」
「食べる、食べるっ」
瞬に勧められるがまま肉を食べてビールを飲み、器用にスマホも操作している。
「あ、きた」
スマホを確認した奏多が、何故か微妙な表情になった。
「なに」
少し端が焦げたタンを口にしながら聞くと、奏多は自分のスマホ画面をこちらに向けてきた。
「おー、いいじゃん。千隼の初飲酒写真」
「じゃなくて、お前」
とんとん、と奏多が指で画面を突くので、俺の顔が画面いっぱいに拡大されてしまった。
「何すんだよ」
「表情硬いねん」
言われ、画面をまじまじと見る。
口角は上げたつもりだし、ピースサインも出している。
「別に、いいじゃんか」
「笑ってみ」
「はあ?」
「ほら、こう。口開けて」
にい、と奏多が自分の口に指をあてて引っ張ってみせる。
「歯見せた方がいいと思うで」
「……やだね」
奏多から顔を背ける。
「八重歯が見える」
「何が嫌なん?別にそんな」
「うわっ、千隼もう飲んだの?」
瞬の声に振り向くと、千隼が手にしたジョッキは既に空っぽになっていた。
「ビール美味しいー!」
「ちょお、そんな一気に飲んで大丈夫なん?吐くなよ?」
肉を焼くのに必死になっていた悠貴もさすがに目を丸くした。
「へーき、へーき!うちの家族、みんなお酒強いもん。だから絶対、俺も強い!」
「言ったな、ならめっちゃ強いの注文したる」
悠貴が注文用のタブレットを手に取る。
「何にしよ」
「俺も何か、適当に頼んで」
飲みかけのビールジョッキを押しやる。
「ビール苦いや。千隼飲んでくれない?」
「いいよー」
軽い調子で返事をすると、千隼は俺のジョッキの中身を一気に半分近以上空にしてしまった。
「すげえな」
「よし。注文したで、碧生」
「さんきゅー」
焼けた肉を食べていると、しばらくして悠貴が頼んでくれたお酒が運ばれてきた。
「何これ」
「ハイボール!ジンジャエールで割ったやつ」
「ふうん」
飲んでみるとビールより口当たりが良かった。少し甘みも感じられる。
だが気のせいか、アルコールの度数がきつい気がした。
「ハイボールって何だっけ?」
ゆっくりしたペースでビールを飲んでいる奏多に聞いてみると、首を傾げられた。
「ウイスキーやろ?」
「え、まじか……」
聞いた途端に酔いが回ってきた気がした。
つーか、と奏多が心配そうに千隼の方を見る。
「千隼はそれ、何飲んでるん?」
「これ?何だっけ、ハルくん」
「ん?泡盛!」
「泡盛い?」
おいおい、とほとんど飲んでいない瞬が苦笑いした。
「千隼のこと潰す気か?」
「ま、さっき自分で言ったもんな」
千隼を見る。
「俺は強い!って」
「あははっ。あおくんも飲んでみるー?」
千隼がグラスを差し出してくるので、覗き込む。
透き通っていて、見た目はまるで水だった。ほんのり甘い香りがしてくる。
「美味しいの?」
「うん、美味しい!」
「いや、やめとけって碧生」
「ちゃんぽんは良くないぞー」
奏多と大知くんが声をかけてきたけれど、何故だか好奇心が勝ってしまった。
「じゃあ、一口だけ」
手のひらに収まるサイズの、透明なグラスを受け取る。
―口にした途端、強烈なアルコール臭が鼻腔を突き抜けた。
「みんな飲み物持った?」
奏多の呼びかけに応じ、千隼が生ビールのジョッキを元気よく掲げる。
「おっけーい!」
「よし、じゃあ……」
「ええからもう、早く」
悠貴が焦れったそうに唇を尖らせる。
「早よ肉焼かな、腐るで!」
「腐らんわ!……では、うちの可愛い末っ子、千隼の二十歳の誕生日を祝して、乾杯!」
「かんぱーい!」
グラスがぶつかり合う音が鳴り響く。
一口飲むや否や、本当に腐るとでも思っているのか悠貴は急いで網の上にタンを並べ始めた。
―今日は、千隼の二十歳の誕生日だ。
ずっと前から、最年少の千隼が成人する時にはメンバー全員でお酒を飲みに行こう、と約束していた。
その事を知っていたマネージャーが気を利かせてスケジュールを調整してくれたお陰で、無事にメンバー全員で焼肉を食べに来ることができた。
泡の乗った冷たいジョッキに口をつける。普段はあまり口にしないせいか、炭酸の刺激や口の中に広がる苦い香りにむせそうになる。悪酔いしたらどうしようかと思ったが、明日はオフだし気にしない事にした。どうせ一緒にいるのも、気心の知れたメンバー達だけだ。
「とうとう千隼も成人かあ。なんか感慨深いな」
最年長の大知くんが、しみじみとした感じで言う。
「大知くん、言い方が父親みたい」
思わずつっ込んだけれど、奏多は大知くんのセリフに共感したらしく大きく頷いた。
「出会った頃のこと思い出すとなあ。もうお酒飲める年になったんかって、不思議な気持ちになるよな」
「まあ、確かにね……」
初めて会った時、制服姿でレッスンに来ていたことを思い出す。
あれからもう、随分と月日が経った。
「ねー!みんなで写真撮ろうよ!」
ジョッキ片手に慣れた手つきで、千隼がスマホを構える。
「ええー!待って、待って」
「ハルくん、そんな前髪気にしなくていいからー!」
「肉焦げるって、早くー」
急かしながら、俺も何となく前髪を調えてみる。
「撮るよー!さん、にい、いちっ」
カシャ、と軽い音が鳴る。
撮れた写真を確認し、千隼は満足そうに頷いた。
「いいねー。公式のSNSに上げちゃお」
「ちょ、千隼。見してー」
「あ、じゃあみんなに送るわっ」
「肉焼けたぞー、今日の主役ー」
「食べる、食べるっ」
瞬に勧められるがまま肉を食べてビールを飲み、器用にスマホも操作している。
「あ、きた」
スマホを確認した奏多が、何故か微妙な表情になった。
「なに」
少し端が焦げたタンを口にしながら聞くと、奏多は自分のスマホ画面をこちらに向けてきた。
「おー、いいじゃん。千隼の初飲酒写真」
「じゃなくて、お前」
とんとん、と奏多が指で画面を突くので、俺の顔が画面いっぱいに拡大されてしまった。
「何すんだよ」
「表情硬いねん」
言われ、画面をまじまじと見る。
口角は上げたつもりだし、ピースサインも出している。
「別に、いいじゃんか」
「笑ってみ」
「はあ?」
「ほら、こう。口開けて」
にい、と奏多が自分の口に指をあてて引っ張ってみせる。
「歯見せた方がいいと思うで」
「……やだね」
奏多から顔を背ける。
「八重歯が見える」
「何が嫌なん?別にそんな」
「うわっ、千隼もう飲んだの?」
瞬の声に振り向くと、千隼が手にしたジョッキは既に空っぽになっていた。
「ビール美味しいー!」
「ちょお、そんな一気に飲んで大丈夫なん?吐くなよ?」
肉を焼くのに必死になっていた悠貴もさすがに目を丸くした。
「へーき、へーき!うちの家族、みんなお酒強いもん。だから絶対、俺も強い!」
「言ったな、ならめっちゃ強いの注文したる」
悠貴が注文用のタブレットを手に取る。
「何にしよ」
「俺も何か、適当に頼んで」
飲みかけのビールジョッキを押しやる。
「ビール苦いや。千隼飲んでくれない?」
「いいよー」
軽い調子で返事をすると、千隼は俺のジョッキの中身を一気に半分近以上空にしてしまった。
「すげえな」
「よし。注文したで、碧生」
「さんきゅー」
焼けた肉を食べていると、しばらくして悠貴が頼んでくれたお酒が運ばれてきた。
「何これ」
「ハイボール!ジンジャエールで割ったやつ」
「ふうん」
飲んでみるとビールより口当たりが良かった。少し甘みも感じられる。
だが気のせいか、アルコールの度数がきつい気がした。
「ハイボールって何だっけ?」
ゆっくりしたペースでビールを飲んでいる奏多に聞いてみると、首を傾げられた。
「ウイスキーやろ?」
「え、まじか……」
聞いた途端に酔いが回ってきた気がした。
つーか、と奏多が心配そうに千隼の方を見る。
「千隼はそれ、何飲んでるん?」
「これ?何だっけ、ハルくん」
「ん?泡盛!」
「泡盛い?」
おいおい、とほとんど飲んでいない瞬が苦笑いした。
「千隼のこと潰す気か?」
「ま、さっき自分で言ったもんな」
千隼を見る。
「俺は強い!って」
「あははっ。あおくんも飲んでみるー?」
千隼がグラスを差し出してくるので、覗き込む。
透き通っていて、見た目はまるで水だった。ほんのり甘い香りがしてくる。
「美味しいの?」
「うん、美味しい!」
「いや、やめとけって碧生」
「ちゃんぽんは良くないぞー」
奏多と大知くんが声をかけてきたけれど、何故だか好奇心が勝ってしまった。
「じゃあ、一口だけ」
手のひらに収まるサイズの、透明なグラスを受け取る。
―口にした途端、強烈なアルコール臭が鼻腔を突き抜けた。
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