眠らぬ夜空に陰る朧月

叶けい

文字の大きさ
上 下
27 / 28
第八話 会いたいと思ってはいけませんか

scene8-3

しおりを挟む
―雅孝―
急用の案件を片付け腕時計を見ると、慶一さんとの約束の時間から、既に三十分以上過ぎてしまっていた。
「主任、今日お約束があったのでは」
五十嵐が声をかけてくる。
「ああ、もう行く」
「気をつけて」
「あとは頼む」
会社から出て、車に乗り込む。スマホを見ると、慶一さんから返信が来ていた。
『分かった。駅前で待ってる』
家まで迎えに行くつもりでいたのに申し訳ない気持ちになる。それでも、会う気になってくれただけで嬉しかった。
出張前、最後に会った時の慶一さんは何か怒っているように見えた。嫌われるようなことをした覚えは無かったが、心当たりがあるとすれば、朔也との事だろうか。
慶一さんが付き合っていたのが、本当にあの若いの―名前が分からないが、今朔也と付き合っているあの青年だとしたら、彼から俺の元恋人が朔也だと聞いたのかもしれない。だとしたら正直、複雑な心境にもなっただろう。
でも。
過去は関係ない。俺はただ、慶一さんの事を―。
スマホの連絡先一覧から慶一さんの番号を呼び出し、通話をタップする。
しばらく発信音が続いてから、留守電に変わった。どこか電話に出られない所にでも居るのだろうか。
とにかく待ち合わせ場所へ向かうことにした。ここから大した距離ではない。
車のエンジンをかける。会社の駐車場を出て、待ち合わせの駅前へ急いだ。
レインボーブリッジを渡り、駅舎が見えてくる。
「……?」
人だかりの近くに、救急車が止まっているのが見えた。事故でもあったんだろうか。
迂回しようとハンドルを切りかけ、担架に乗せられた男性の横顔が見えて、急ブレーキを踏んだ。
「慶一さん……っ?!」
慌てて路肩に車を寄せて停めた。運転席から降り、救急車に駆け寄る。
「慶一さん!」
「お知り合いですか?」
救急隊員が聞いてくるが、頭が真っ白になっていた。
担架に乗せられた慶一さんのこめかみから大量に流れ落ちる、真っ赤な血。
乗ってください、と促され、救急車に乗り込んだ。
震えながら、慶一さんの手を握った。握り返してこない力ない手を、強く、強く握った。
「……慶一さん……っ」
どうして。どうしてこんな。
朔也が発作を起こして運ばれた時の事を思い出す。―どうして。神様。
お願いだから、これ以上俺から大切な人を奪わないでくれ…―。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

甘々彼氏

すずかけあおい
BL
15歳の年の差のせいか、敦朗さんは俺をやたら甘やかす。 攻めに甘やかされる受けの話です。 〔攻め〕敦朗(あつろう)34歳・社会人 〔受け〕多希(たき)19歳・大学一年

鈴木さんちの家政夫

ユキヤナギ
BL
「もし家事全般を請け負ってくれるなら、家賃はいらないよ」そう言われて住み込み家政夫になった智樹は、雇い主の彩葉に心惹かれていく。だが彼には、一途に想い続けている相手がいた。彩葉の恋を見守るうちに、智樹は心に芽生えた大切な気持ちに気付いていく。

恋人が出て行った

すずかけあおい
BL
同棲している恋人が書き置きを残して出て行った?話です。 ハッピーエンドです。 〔攻め〕素史(もとし)25歳 〔受け〕千温(ちはる)24歳

俺の好きな男は、幸せを運ぶ天使でした

たっこ
BL
【加筆修正済】  7話完結の短編です。  中学からの親友で、半年だけ恋人だった琢磨。  二度と合わないつもりで別れたのに、突然六年ぶりに会いに来た。 「優、迎えに来たぞ」  でも俺は、お前の手を取ることは出来ないんだ。絶対に。  

消えない思い

樹木緑
BL
オメガバース:僕には忘れられない夏がある。彼が好きだった。ただ、ただ、彼が好きだった。 高校3年生 矢野浩二 α 高校3年生 佐々木裕也 α 高校1年生 赤城要 Ω 赤城要は運命の番である両親に憧れ、両親が出会った高校に入学します。 自分も両親の様に運命の番が欲しいと思っています。 そして高校の入学式で出会った矢野浩二に、淡い感情を抱き始めるようになります。 でもあるきっかけを基に、佐々木裕也と出会います。 彼こそが要の探し続けた運命の番だったのです。 そして3人の運命が絡み合って、それぞれが、それぞれの選択をしていくと言うお話です。

秘花~王太子の秘密と宿命の皇女~

めぐみ
BL
☆俺はお前を何度も抱き、俺なしではいられぬ淫らな身体にする。宿命という名の数奇な運命に翻弄される王子達☆ ―俺はそなたを玩具だと思ったことはなかった。ただ、そなたの身体は俺のものだ。俺はそなたを何度でも抱き、俺なしではいられないような淫らな身体にする。抱き潰すくらいに抱けば、そなたもあの宦官のことなど思い出しもしなくなる。― モンゴル大帝国の皇帝を祖父に持ちモンゴル帝国直系の皇女を生母として生まれた彼は、生まれながらの高麗の王太子だった。 だが、そんな王太子の運命を激変させる出来事が起こった。 そう、あの「秘密」が表に出るまでは。

好きなあいつの嫉妬がすごい

カムカム
BL
新しいクラスで新しい友達ができることを楽しみにしていたが、特に気になる存在がいた。それは幼馴染のランだった。 ランはいつもクールで落ち着いていて、どこか遠くを見ているような眼差しが印象的だった。レンとは対照的に、内向的で多くの人と打ち解けることが少なかった。しかし、レンだけは違った。ランはレンに対してだけ心を開き、笑顔を見せることが多かった。 教室に入ると、運命的にレンとランは隣同士の席になった。レンは心の中でガッツポーズをしながら、ランに話しかけた。 「ラン、おはよう!今年も一緒のクラスだね。」 ランは少し驚いた表情を見せたが、すぐに微笑み返した。「おはよう、レン。そうだね、今年もよろしく。」

Innocent Noise

叶けい
BL
アイドルグループ『star.b』のメインボーカルを務める牧野碧生。気が強く皮肉屋な性格だが、伸びやかな優しい歌声の持ち主。恋愛経験ほぼナシにも関わらず、ラブソングの歌詞を書く事になり悩んでいた。 私立大学で中国語の非常勤講師をしている英亮。『star.b』のダンストレーナーを務める友人の松岡朝陽に頼まれ、『star.b』メンバーに中国語を教える事に。 アイドルに全く興味が無かった亮だが、透明感ある優しい碧生の歌声を聞き、心を動かされる。 一方の碧生も、クールな雰囲気のせいで近寄り難く感じていた亮の優しい一面を知り、段々と心を開いていく。 …知らない内に惹かれて、気づいたら笑顔になっていた。 些細な事で不安になって、嫉妬したり、すれ違ってしまったり…。 二人は少しずつ、恋する気持ちを知っていく。

処理中です...