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第十四話 また来年も桜は咲く
scene33 デート
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ー透人ー
「名木ちゃん、着替えれた?」
「ちょっと、開けないで!」
試着室のカーテンを勝手に開けようとするので、慌てて掴んで阻止した。
「遅いよ、もう」
急かされて仕方なくカーテンの隙間を開ける。
「見せて見せて」
試着室から出ると、桃瀬さんは嬉しそうに笑って、似合うじゃん、と言ってくれる。
オーバーサイズのTシャツに、膝が破れた細身のデニム。普段あまり着ないような、ラフなファッションだ。桃瀬さんはこういう格好が好きらしい。
「いいね、じゃあこれ買おう」
「はい?!」
「すいませーん」
「ちょ、桃瀬さん!」
俺が呼び止めるのも無視して桃瀬さんは店員さんを呼ぶと、このまま着て行くからタグ切ってください、とか勝手に言っている。
「ちょっと、何なんですかほんとにっ」
店員さんにタグを切られながら抗議するけど、桃瀬さんは、いいじゃん似合ってるからと言うだけだ。
「買ってあげるから気にしないで」
「そういう事じゃなくて、何で着替えさせられてるんですか、俺!」
「名木ちゃんがスーツのままで来るから悪いんじゃん」
それだけ言って、さっさと支払いをしに行ってしまう。
俺は困惑したまま、着て来たスーツを持って桃瀬さんの後を追いかけた。
都内の服屋をあとにし、行き先も教えてもらえないまま電車に乗せられた。
そして着いた場所は、平日で閑散とした遊園地だった。
「何で遊園地なんですか?」
「一回来てみたかったんだよね」
桃瀬さんはロッカーに俺のスーツを丁寧に畳んで仕舞うと、しわになっちゃうかなあ、と呟きながら鍵を閉めた。
「さあ、行こう!」
「桃瀬さん、やっぱり病院に戻った方が……」
「ここまで来て何言ってるのさ」
「だって、体が……!」
桃瀬さんはポケットから、折り畳まれた一枚の紙きれを取り出し、広げて俺の眼前に突き出してくる。
「外出許可は取ったよ」
「それはさっき見ましたけど!一体どうやって許可取ったんですか?!」
「世良にお願いしたら書いてくれた」
「うそでしょ……」
それは職権濫用じゃないのか。
「まあいいじゃん。今くらい現実忘れて楽しもうよ。せっかく『駆け落ち』しに来たんだからさ」
桃瀬さんは楽しそうに笑って、何乗ろうか、とパンフレットを広げ始めた。
「名木ちゃん、着替えれた?」
「ちょっと、開けないで!」
試着室のカーテンを勝手に開けようとするので、慌てて掴んで阻止した。
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急かされて仕方なくカーテンの隙間を開ける。
「見せて見せて」
試着室から出ると、桃瀬さんは嬉しそうに笑って、似合うじゃん、と言ってくれる。
オーバーサイズのTシャツに、膝が破れた細身のデニム。普段あまり着ないような、ラフなファッションだ。桃瀬さんはこういう格好が好きらしい。
「いいね、じゃあこれ買おう」
「はい?!」
「すいませーん」
「ちょ、桃瀬さん!」
俺が呼び止めるのも無視して桃瀬さんは店員さんを呼ぶと、このまま着て行くからタグ切ってください、とか勝手に言っている。
「ちょっと、何なんですかほんとにっ」
店員さんにタグを切られながら抗議するけど、桃瀬さんは、いいじゃん似合ってるからと言うだけだ。
「買ってあげるから気にしないで」
「そういう事じゃなくて、何で着替えさせられてるんですか、俺!」
「名木ちゃんがスーツのままで来るから悪いんじゃん」
それだけ言って、さっさと支払いをしに行ってしまう。
俺は困惑したまま、着て来たスーツを持って桃瀬さんの後を追いかけた。
都内の服屋をあとにし、行き先も教えてもらえないまま電車に乗せられた。
そして着いた場所は、平日で閑散とした遊園地だった。
「何で遊園地なんですか?」
「一回来てみたかったんだよね」
桃瀬さんはロッカーに俺のスーツを丁寧に畳んで仕舞うと、しわになっちゃうかなあ、と呟きながら鍵を閉めた。
「さあ、行こう!」
「桃瀬さん、やっぱり病院に戻った方が……」
「ここまで来て何言ってるのさ」
「だって、体が……!」
桃瀬さんはポケットから、折り畳まれた一枚の紙きれを取り出し、広げて俺の眼前に突き出してくる。
「外出許可は取ったよ」
「それはさっき見ましたけど!一体どうやって許可取ったんですか?!」
「世良にお願いしたら書いてくれた」
「うそでしょ……」
それは職権濫用じゃないのか。
「まあいいじゃん。今くらい現実忘れて楽しもうよ。せっかく『駆け落ち』しに来たんだからさ」
桃瀬さんは楽しそうに笑って、何乗ろうか、とパンフレットを広げ始めた。
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