50 / 52
第十一話 クリスマスライブ
scene50 両想い
しおりを挟む
―大知―
重たいサンタクロースの頭部を地面に下ろした。汗で張り付いた前髪を払う。
さっきまで俺を悠貴だと思い込んで話していた眞白は、顔をこわばらせたまま目の前で立ち竦んでいた。
使っていたスケッチブックとペンもサンタの頭のそばに置き、眞白の手に握りしめられたままのスマホを眞白の手ごと持ち上げ、指紋認証で画面を開かせた。いつもの音声アプリを起動し、口元に近づける。
「最初からちゃんとそう言って欲しかった」
思わず語気が強まる。
「何でハルには本音言うの。何でそんなに俺には遠慮するの?」
「……っ」
「眞白」
眞白の両手を取って握る。
「俺は無理なんかしてないよ。俺が会いたくて眞白に会いに来てるの。そばにいたいからいるだけだし、時間がかかっても眞白と話したいから話してるだけだから。何にも無理なんかしてない。だから、眞白が分かってくれるまで何度でも言うよ」
握り返してこない細い手を、離さないようにしっかり掴んだ。
「俺は、眞白が好きだ。聞こえない事とか、俺がアイドルだからとか、そういうの一回忘れよ。俺をちゃんと一人の男として見て。正直な眞白の気持ちを教えて」
俺が言った内容を確認した眞白の目が、赤くなる。
「……っ何も分かってへんやん、大知くんは!」
誰もいない夜の空間へ、眞白の叫びが響く。
「俺がどれだけファンの子に嫉妬しとるか知っとった?どんな思いで大知くんのこと振ったかほんまに分かっとる?」
「眞白……」
「今日だって、本当はステージ見たかった!かっこいい大知くんのこと見たかった!でも……っ、嫌やねん……っ!」
ぼろぼろと、白い頬へ大粒の涙が溢れ落ちる。
「会場入ったらファンの子めっちゃおるもん……大知くんの事見て笑って、楽しんどる姿みたら腹立つもん、嫉妬するもん……っ!同じように応援なんか出来ひん……っ」
しゃくり上げながら、でも、と続ける。
「そうやって、たくさんの人に応援されて、アイドルやってる、かっこいい大知くんが、……好きやから……っ」
「眞白……」
「……っ、ほんまに分かってないねん……俺がどれだけ、大知くんのこと、諦めなきゃって、思って……思っても、どうしようもなくて、好きで、仕方ないか……、っ」
堪らずに抱き寄せた。
あまり強く抱き締めたら折れそうな細い身体を、しっかり腕の中に収める。
「もっかい言って」
眞白と目を合わせ、もう一回、と手話をつける。
「すき……」
溢れた涙で濡れた、赤い唇が震える。
「大知くんが、好き」
「やっと言った……」
眞白の手を握る。
「それが一番聞きたかった」
眞白の唇を優しく塞ぐ。
緊張で強張った身体をそっとさすると、怖々と俺の背中に手が回されてきたので、もう一度強く抱き締めた。
このまま時間が止まってしまえばいいのにと思ったけれど、遠くから人のざわめきが聞こえてきた。見ると、会場の出口からファンが出てきている。
「わ、やば」
慌てて地面に置きっぱなしにしていたサンタの頭とスケッチブックを拾う。
「行かなきゃ……」
サンタの頭を抱えてから、眞白の方を見る。
眞白もファンが出てくる様子に気づいたらしく、出口の方を見ていた。
「眞白……あ、そうだ」
もう一回サンタの頭を地面に置き、また後でね、とスケッチブックに書いていると、そっと肩を叩かれた。
顔を上げると、頬に涙の跡が残ったままの眞白と目が合った。自分がしていた白いマフラーを外すと、俺の首に巻いて結んでくれる。
いつかそうしてくれたように口元を隠して巻かれたマフラーからは、眞白の匂いがした。
おっけー、と指で丸を作って微笑んでくれる。
「早く仕事に戻って」
はい、とサンタの頭を拾って渡してくれる。
「ちゃんとアイドルの大知くんに戻らなあかんで」
「……?」
気丈な物言いに不安になり、何か伝えなければとマフラーを口から外した。
ましろ、と名前を呼ぼうと開いた唇を素早く塞がれる。
すぐに離れた眞白の顔が、夜の暗がりでも分かるくらい赤くなった。
「……大丈夫やから」
ずれたマフラーを、またちゃんと上げてくれる。
「大知くんの気持ち、ちゃんと分かったから」
早く行って、と背中を押される。見れば、会場から出てくる人の数はどんどん多くなっていた。見つかる前に戻らないとまずい。
行こう、と踏み出しかけた足が止まる。
眞白の方を振り返った。
ツリーの前で佇む眞白に向かって伝える。
「(好きだよ)」
眞白は泣き笑いのような表情で、大きく手を振ってくれた。
重たいサンタクロースの頭部を地面に下ろした。汗で張り付いた前髪を払う。
さっきまで俺を悠貴だと思い込んで話していた眞白は、顔をこわばらせたまま目の前で立ち竦んでいた。
使っていたスケッチブックとペンもサンタの頭のそばに置き、眞白の手に握りしめられたままのスマホを眞白の手ごと持ち上げ、指紋認証で画面を開かせた。いつもの音声アプリを起動し、口元に近づける。
「最初からちゃんとそう言って欲しかった」
思わず語気が強まる。
「何でハルには本音言うの。何でそんなに俺には遠慮するの?」
「……っ」
「眞白」
眞白の両手を取って握る。
「俺は無理なんかしてないよ。俺が会いたくて眞白に会いに来てるの。そばにいたいからいるだけだし、時間がかかっても眞白と話したいから話してるだけだから。何にも無理なんかしてない。だから、眞白が分かってくれるまで何度でも言うよ」
握り返してこない細い手を、離さないようにしっかり掴んだ。
「俺は、眞白が好きだ。聞こえない事とか、俺がアイドルだからとか、そういうの一回忘れよ。俺をちゃんと一人の男として見て。正直な眞白の気持ちを教えて」
俺が言った内容を確認した眞白の目が、赤くなる。
「……っ何も分かってへんやん、大知くんは!」
誰もいない夜の空間へ、眞白の叫びが響く。
「俺がどれだけファンの子に嫉妬しとるか知っとった?どんな思いで大知くんのこと振ったかほんまに分かっとる?」
「眞白……」
「今日だって、本当はステージ見たかった!かっこいい大知くんのこと見たかった!でも……っ、嫌やねん……っ!」
ぼろぼろと、白い頬へ大粒の涙が溢れ落ちる。
「会場入ったらファンの子めっちゃおるもん……大知くんの事見て笑って、楽しんどる姿みたら腹立つもん、嫉妬するもん……っ!同じように応援なんか出来ひん……っ」
しゃくり上げながら、でも、と続ける。
「そうやって、たくさんの人に応援されて、アイドルやってる、かっこいい大知くんが、……好きやから……っ」
「眞白……」
「……っ、ほんまに分かってないねん……俺がどれだけ、大知くんのこと、諦めなきゃって、思って……思っても、どうしようもなくて、好きで、仕方ないか……、っ」
堪らずに抱き寄せた。
あまり強く抱き締めたら折れそうな細い身体を、しっかり腕の中に収める。
「もっかい言って」
眞白と目を合わせ、もう一回、と手話をつける。
「すき……」
溢れた涙で濡れた、赤い唇が震える。
「大知くんが、好き」
「やっと言った……」
眞白の手を握る。
「それが一番聞きたかった」
眞白の唇を優しく塞ぐ。
緊張で強張った身体をそっとさすると、怖々と俺の背中に手が回されてきたので、もう一度強く抱き締めた。
このまま時間が止まってしまえばいいのにと思ったけれど、遠くから人のざわめきが聞こえてきた。見ると、会場の出口からファンが出てきている。
「わ、やば」
慌てて地面に置きっぱなしにしていたサンタの頭とスケッチブックを拾う。
「行かなきゃ……」
サンタの頭を抱えてから、眞白の方を見る。
眞白もファンが出てくる様子に気づいたらしく、出口の方を見ていた。
「眞白……あ、そうだ」
もう一回サンタの頭を地面に置き、また後でね、とスケッチブックに書いていると、そっと肩を叩かれた。
顔を上げると、頬に涙の跡が残ったままの眞白と目が合った。自分がしていた白いマフラーを外すと、俺の首に巻いて結んでくれる。
いつかそうしてくれたように口元を隠して巻かれたマフラーからは、眞白の匂いがした。
おっけー、と指で丸を作って微笑んでくれる。
「早く仕事に戻って」
はい、とサンタの頭を拾って渡してくれる。
「ちゃんとアイドルの大知くんに戻らなあかんで」
「……?」
気丈な物言いに不安になり、何か伝えなければとマフラーを口から外した。
ましろ、と名前を呼ぼうと開いた唇を素早く塞がれる。
すぐに離れた眞白の顔が、夜の暗がりでも分かるくらい赤くなった。
「……大丈夫やから」
ずれたマフラーを、またちゃんと上げてくれる。
「大知くんの気持ち、ちゃんと分かったから」
早く行って、と背中を押される。見れば、会場から出てくる人の数はどんどん多くなっていた。見つかる前に戻らないとまずい。
行こう、と踏み出しかけた足が止まる。
眞白の方を振り返った。
ツリーの前で佇む眞白に向かって伝える。
「(好きだよ)」
眞白は泣き笑いのような表情で、大きく手を振ってくれた。
10
お気に入りに追加
27
あなたにおすすめの小説

美形×平凡の子供の話
めちゅう
BL
美形公爵アーノルドとその妻で平凡顔のエーリンの間に生まれた双子はエリック、エラと名付けられた。エリックはアーノルドに似た美形、エラはエーリンに似た平凡顔。平凡なエラに幸せはあるのか?
──────────────────
お読みくださりありがとうございます。
お楽しみいただけましたら幸いです。
イケメン俳優は万年モブ役者の鬼門です
はねビト
BL
演技力には自信があるけれど、地味な役者の羽月眞也は、2年前に共演して以来、大人気イケメン俳優になった東城湊斗に懐かれていた。
自分にはない『華』のある東城に対するコンプレックスを抱えるものの、どうにも東城からのお願いには弱くて……。
ワンコ系年下イケメン俳優×地味顔モブ俳優の芸能人BL。
外伝完結、続編連載中です。
泣き虫な俺と泣かせたいお前
ことわ子
BL
大学生の八次直生(やつぎすなお)と伊場凛乃介(いばりんのすけ)は幼馴染で腐れ縁。
アパートも隣同士で同じ大学に通っている。
直生にはある秘密があり、嫌々ながらも凛乃介を頼る日々を送っていた。
そんなある日、直生は凛乃介のある現場に遭遇する。
消えない思い
樹木緑
BL
オメガバース:僕には忘れられない夏がある。彼が好きだった。ただ、ただ、彼が好きだった。
高校3年生 矢野浩二 α
高校3年生 佐々木裕也 α
高校1年生 赤城要 Ω
赤城要は運命の番である両親に憧れ、両親が出会った高校に入学します。
自分も両親の様に運命の番が欲しいと思っています。
そして高校の入学式で出会った矢野浩二に、淡い感情を抱き始めるようになります。
でもあるきっかけを基に、佐々木裕也と出会います。
彼こそが要の探し続けた運命の番だったのです。
そして3人の運命が絡み合って、それぞれが、それぞれの選択をしていくと言うお話です。

金の野獣と薔薇の番
むー
BL
結季には記憶と共に失った大切な約束があった。
❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎
止むを得ない事情で全寮制の学園の高等部に編入した結季。
彼は事故により7歳より以前の記憶がない。
高校進学時の検査でオメガ因子が見つかるまでベータとして養父母に育てられた。
オメガと判明したがフェロモンが出ることも発情期が来ることはなかった。
ある日、編入先の学園で金髪金眼の皇貴と出逢う。
彼の纒う薔薇の香りに発情し、結季の中のオメガが開花する。
その薔薇の香りのフェロモンを纏う皇貴は、全ての性を魅了し学園の頂点に立つアルファだ。
来るもの拒まずで性に奔放だが、番は持つつもりはないと公言していた。
皇貴との出会いが、少しずつ結季のオメガとしての運命が動き出す……?
4/20 本編開始。
『至高のオメガとガラスの靴』と同じ世界の話です。
(『至高の〜』完結から4ヶ月後の設定です。)
※シリーズものになっていますが、どの物語から読んでも大丈夫です。
【至高のオメガとガラスの靴】
↓
【金の野獣と薔薇の番】←今ココ
↓
【魔法使いと眠れるオメガ】

心からの愛してる
マツユキ
BL
転入生が来た事により一人になってしまった結良。仕事に追われる日々が続く中、ついに体力の限界で倒れてしまう。過労がたたり数日入院している間にリコールされてしまい、あろうことか仕事をしていなかったのは結良だと噂で学園中に広まってしまっていた。
全寮制男子校
嫌われから固定で溺愛目指して頑張ります
※話の内容は全てフィクションになります。現実世界ではありえない設定等ありますのでご了承ください
【完結】冷血孤高と噂に聞く竜人は、俺の前じゃどうも言動が伴わない様子。
N2O
BL
愛想皆無の竜人 × 竜の言葉がわかる人間
ファンタジーしてます。
攻めが出てくるのは中盤から。
結局執着を抑えられなくなっちゃう竜人の話です。
表紙絵
⇨ろくずやこ 様 X(@Us4kBPHU0m63101)
挿絵『0 琥』
⇨からさね 様 X (@karasane03)
挿絵『34 森』
⇨くすなし 様 X(@cuth_masi)
◎独自設定、ご都合主義、素人作品です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる