Please,Call My Name

叶けい

文字の大きさ
上 下
47 / 52
第十一話 クリスマスライブ

scene47 開場前

しおりを挟む
―眞白―
電車を降りると冷たい風が吹きつけてきた。思わずマフラーの結び目を押さえる。
最寄りの駅から直結のライブ会場には既に溢れんばかりのファンの姿があった。
何となく、人が向かう方へ流されるように歩いて行く。ふと見ると、長蛇の列が出来ていた。
グッズ売り場でもあるのかと思ったら、メンバーごとのソロカットがプリントされたフラッグが立っていた。どうやら自分の好きなメンバーの列に並び、ツーショット写真を撮っているらしい。一体どこまで伸びているのか、列の最後尾が見えないメンバーもいる。
近づいて行くと、大知くんのフラッグが見えた。
今回のライブの衣装なのか、真っ白なスパンコールが煌めくジャケットを着た大知くんが優しい笑みを浮かべている。フラッグの上部にはアルファベットで名前が表記されていた。文字の色で、大知くんのメンバーカラーが緑だと分かる。優しい大知くんによく似合う色だと思った。
……そう。優しいねん、大知くんは。俺が自分勝手な理由で八つ当たりした時だって、謝っても文句一つ言ってこなかった。
不意に、見知らぬ女の子が顔を覗き込んできた。
列を指差して何事か話しかけてくる。並んでいるのか確認されていると気づき、顔の前で手を振って違う、と伝え、急いでその場を離れた。人混みを避けて少し歩いていく。
会場近くの歩道橋に上がってみると、フラッグの前に並んでいる様子がよく見えた。欄干にもたれかかって見下ろす。
一番長く伸びているのは、やはり瞬くんの列だった。メディア露出が他のメンバーに比べて格段に多いから、人気があるのは納得できる。
次に多かったのは、大知くんの列だった。
たまたまかも知れない。さすがにグループ内の人気順まで把握していないし、時間帯によっても違うと思う。でも。
見下ろす先に伸びている列にいる女の子たちは、それぞれうちわやスローガンを手に持っている。うちわの周囲に、緑色のファーをデコレーションした物もあった。わざわざ公式グッズに手を加えたのだとわかる。
……ほんまに人気なんやね、大知くん。すごいたくさん人がおるわ。
ここにおる女の子達みんなが大知くんを好きで、大知くんに今日会えるのを楽しみに来てんねんな……。
フラッグの近くには、特設されたクリスマスツリーが立っていた。メンバーカラーのオーナメントと電飾がついていて、夜になったら点灯されるのかもしれない。そしたらきっと綺麗やろな、と思った。
もうそろそろ陽が沈む時間だった。開場時間も近づいている。
ポケットの中でスマホが震えた。
見てみると、ハルから画像が送られてきていた。
サンタクロースの頭部を小脇に抱え、真っ赤な衣装に身を包んだハルがピースをしている。
公演で着るんかな、と思いながら『楽しそうやね』と返信した。
時間を見ると、開場時間を少し過ぎていた。
それでも眼下の列は途切れそうにない。開場から開演まで結構時間があるから、今並んでいる子達は写真を撮ってから中に入る気なんだろう。時間が経つほど混雑してくるだろうから、早めに中に入った方がいいとは思う。相変わらず風も冷たく、手先がだいぶ冷えてきていた。
でも、どうしても足が動かない。
……俺は、ステージ上の大知くんを観て笑顔になれるんやろか?
大知くんに向けて、ルーズリーフに書いた事を思い出す。
"応援してくれるファンを一番大事に―……"
"アイドルとして頑張る姿を見せて―……"
"俺も応援してる―……"
……嘘ばっかり。
応援なんて、どうやって……。
立ち尽くしたまま、その場を動けなかった。
ライブ会場に、入れなかった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

【完結】帝王様は、表でも裏でも有名な飼い猫を溺愛する

綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
BL
 離地暦201年――人類は地球を離れ、宇宙で新たな生活を始め200年近くが経過した。貧困の差が広がる地球を捨て、裕福な人々は宇宙へ進出していく。  狙撃手として裏で名を馳せたルーイは、地球での狙撃の帰りに公安に拘束された。逃走経路を疎かにした結果だ。表では一流モデルとして有名な青年が裏路地で保護される、滅多にない事態に公安は彼を疑うが……。  表も裏もひっくるめてルーイの『飼い主』である権力者リューアは公安からの問い合わせに対し、彼の保護と称した強制連行を指示する。  権力者一族の争いに巻き込まれるルーイと、ひたすらに彼に甘いリューアの愛の行方は? 【重複投稿】エブリスタ、アルファポリス、小説家になろう 【注意】※印は性的表現有ります

秋良のシェアハウス。(ワケあり)

日向 ずい
BL
物語内容 俺は...大学1年生の神代 秋良(かみしろ あきら)。新しく住むところ...それは...男ばかりのシェアハウス!?5人暮らしのその家は...まるで地獄!プライバシーの欠けらも無い...。だが、俺はそこで禁断の恋に落ちる事となる...。 登場人物 ・神代 秋良(かみしろ あきら) 18歳 大学1年生。 この物語の主人公で、これからシェアハウスをする事となる。(シェアハウスは、両親からの願い。) ・阿久津 龍(あくつ りゅう) 21歳 大学3年生。 秋良と同じ大学に通う学生。 結構しっかりもので、お兄ちゃん見たいな存在。(兄みたいなのは、彼の過去に秘密があるみたいだが...。) ・水樹 虎太郎(みずき こたろう) 17歳 高校2年生。 すごく人懐っこい...。毎晩、誰かの布団で眠りにつく。シェアハウスしている仲間には、苦笑いされるほど...。容姿性格ともに可愛いから、男女ともにモテるが...腹黒い...。(それは、彼の過去に問題があるみたい...。) ・榛名 青波(はるな あおば) 29歳 社会人。 新しく入った秋良に何故か敵意むき出し...。どうやら榛名には、ある秘密があるみたいで...それがきっかけで秋良と仲良くなる...みたいだが…? ・加来 鈴斗(かく すずと) 34歳 社会人 既婚者。 シェアハウスのメンバーで最年長。完璧社会人で、大人の余裕をかましてくるが、何故か婚約相手の女性とは、別居しているようで...。その事は、シェアハウスの人にあんまり話さないようだ...。

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語

紅林
BL
『桜田門学院高等学校』 日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

早く惚れてよ、怖がりナツ

ぱんなこった。
BL
幼少期のトラウマのせいで男性が怖くて苦手な男子高校生1年の那月(なつ)16歳。女友達はいるものの、男子と上手く話す事すらできず、ずっと周りに煙たがられていた。 このままではダメだと、高校でこそ克服しようと思いつつも何度も玉砕してしまう。 そしてある日、そんな那月をからかってきた同級生達に襲われそうになった時、偶然3年生の彩世(いろせ)がやってくる。 一見、真面目で大人しそうな彩世は、那月を助けてくれて… 那月は初めて、男子…それも先輩とまともに言葉を交わす。 ツンデレ溺愛先輩×男が怖い年下後輩 《表紙はフリーイラスト@oekakimikasuke様のものをお借りしました》

家事代行サービスにdomの溺愛は必要ありません!

灯璃
BL
家事代行サービスで働く鏑木(かぶらぎ) 慧(けい)はある日、高級マンションの一室に仕事に向かった。だが、住人の男性は入る事すら拒否し、何故かなかなか中に入れてくれない。 何度かの押し問答の後、なんとか慧は中に入れてもらえる事になった。だが、男性からは冷たくオレの部屋には入るなと言われてしまう。 仕方ないと気にせず仕事をし、気が重いまま次の日も訪れると、昨日とは打って変わって男性、秋水(しゅうすい) 龍士郎(りゅうしろう)は慧の料理を褒めた。 思ったより悪い人ではないのかもと慧が思った時、彼がdom、支配する側の人間だという事に気づいてしまう。subである慧は彼と一定の距離を置こうとするがーー。 みたいな、ゆるいdom/subユニバース。ふんわり過ぎてdom/subユニバースにする必要あったのかとか疑問に思ってはいけない。 ※完結しました!ありがとうございました!

イケメン俳優は万年モブ役者の鬼門です

はねビト
BL
演技力には自信があるけれど、地味な役者の羽月眞也は、2年前に共演して以来、大人気イケメン俳優になった東城湊斗に懐かれていた。 自分にはない『華』のある東城に対するコンプレックスを抱えるものの、どうにも東城からのお願いには弱くて……。 ワンコ系年下イケメン俳優×地味顔モブ俳優の芸能人BL。 外伝完結、続編連載中です。

悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!

梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!? 【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】 ▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。 ▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。 ▼毎日18時投稿予定

いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜

きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員 Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。 そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。 初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。 甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。 第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。 ※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり) ※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り 初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。

処理中です...