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第十話 誰よりも大切な存在
scene42 練習
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―大知―
「……あー、疲れた」
汗で濡れたTシャツの胸元をばたばたさせる。
「ちょっと休憩しよ」
「おけ!」
千隼が元気よく返事をしてくれる。一緒に練習していた瞬は疲れたのか、その場に足を崩して座り込んでしまった。
クリスマスライブに向け、今日は三人で披露するダンス曲の練習をしていた。
奏多は雑誌の取材、碧生はソロカバー曲のレコーディングに行っている。悠貴は出席日数が足りなくなりそうだからと大学へ行ったけれど、そろそろ戻ってくるはずだ。
「きつい?」
汗だくになって座っている瞬を気遣う。
「平気。これくらい練習やんないとファンに良いもの見せられないし」
立ち上がってタオルで汗を拭きながら、瞬は他にも何か言いたそうな目で俺を見た。
「どうかした?」
問うと瞬は、いや、と首を傾けた。
「なんか怖い顔してるなって。大知くん」
「え、俺?」
思わず眉間に指をやる。皺でも寄せていたかと思ったら笑われた。
「いや、何でもないわ。ライブに向けて気合い入ってんだよね」
トイレ行って来るわ、と瞬は練習室を出て行った。
額を撫でながら、ため息が溢れる。余計な事を考えまいとするあまり、つい練習に力が入り過ぎてしまった。
ペットボトルの蓋を捻り、乾いた喉を潤して一息つく。期待しても仕方ないと分かっていながら、結局確かめずにいられなくてスマホを手に取った。
数ある通知をいくら辿っても、本当に待っているただ一人の相手からは相変わらず返信が来ていない。
「お疲れー」
よく通る声に顔を上げると、レコーディングを終えたらしい碧生が戻って来ていた。
「お疲れ。早かったね」
スマホの画面を切り、荷物置きにしている長机に伏せて置く。
「まだ奏多とハル、来てないよ」
「瞬は?いないけど」
「トイレ行った」
「ふーん」
碧生は荷物を置くと、何故か俺のスマホをちらりと見た。
「誰かの連絡待ってる?」
「えっ」
いきなり言い当てられて驚く。
「あ、図星か」
「何で?すごいな碧生」
「スマホ見てる時の表情で分かった」
「そう?」
「がっかりしてたでしょ」
思わず碧生の顔を見る。すごーい、と冗談ぽく手を叩いておいた。
お疲れっす、と低い声が聞こえてくる。瞬が戻って来たらしい。お疲れ、と碧生が応じる。
もたれていた机から体を起こした。
「じゃ、練習しよっか」
「いいの、連絡」
碧生が聞いてくるので首を横に振った。
「どうせ、いくら待ってても一緒だから」
「また喧嘩?」
「また、って。喧嘩なんか一回もしてないよ」
「当てようか」
碧生の指が俺のスマホを指す。
「振られたんでしょ」
「……んー」
苦笑いを浮かべた。
「振られたんなら吹っ切るよ」
分かった、と碧生が手を叩く。
「告白したけど返事もらえない。どう?」
「……正解」
碧生が呆れたようにため息をつく。
「なら早く返事聞いて来なよ、振られたら吹っ切るんでしょ」
「冷たいなー」
「いや、本当にそうした方がいいって。気が散るから」
「奏多に怒られたばっかだし、ちゃんとやってるつもりだけど」
言い訳しながら、瞬に顔が怖いと指摘されたのを思い出した。
「……言わなきゃ良かったな」
ぽつりと零した一言に碧生が反応する。
「何?」
「いや、困らせちゃったかな、って」
天井を仰ぎ見る。
「でももう、我慢出来なかったんだよね……」
―次、いつ会える?
そう聞いてきた時の、眞白の寂しげな表情に胸が締め付けられた。
焦ってライブに誘ってしまって、泣き出しそうな顔をさせてしまった。
気づいたら、強引に物陰に引っ張って気持ちを伝えてしまった。
きっと、すごく困らせた。
「それでずっとそんな顔してんの」
「うん……」
「あのさ、大知くん……」
碧生の声のトーンが低くなる。
「俺らアイドルなんだよ。ファンのことを一番に考えられなきゃだめじゃない?」
痛いところを突かれる。
「俺ら何のためにこうやって集まって毎日練習してんの。応援してくれるファンの子たちの声援に応えたいからじゃん。喜ぶ笑顔が見たいからじゃん」
「……そうだね」
「そんな暗い顔して他の子のことばっか考えてるの、なんか違うと思うけど」
「うん……」
的確な指摘の数々に何も言い返せないでいると、レッスン室の扉が開いた。
「お待たせー」
大学の教科書が詰まってるのか、やたらと重そうなリュックを背負った悠貴が入ってきた。
「どうしたん、二人とも。そんな怖い顔して」
俺と碧生の顔を交互に見てくる。
「別にー」
碧生は俺を一瞥すると、ストレッチをしに鏡の近くに行ってしまった。
「何かあったん?」
リュックを降ろしながら悠貴が聞いてくる。
「何でもない……」
言いかけ、ふと思いつく。
「ハル、もしかして……眞白と一緒だった?」
聞くと、当たり前の様に頷かれた。
「おったよ。まだ大学におると思う」
「ほんとに?」
「うん。俺のノート写すからそのまま教室残るって」
「どこの」
教室の場所を聞く。上着を手に取った。
「ごめん、ちょっと行ってくる」
「えー大知くん、どこ行くの!」
気づいた千隼に呼び止められ振り向く。
「奏多が来る時間までには戻るから、みんな練習してて!」
言い残し、寒空の下へ飛び出した。
「……あー、疲れた」
汗で濡れたTシャツの胸元をばたばたさせる。
「ちょっと休憩しよ」
「おけ!」
千隼が元気よく返事をしてくれる。一緒に練習していた瞬は疲れたのか、その場に足を崩して座り込んでしまった。
クリスマスライブに向け、今日は三人で披露するダンス曲の練習をしていた。
奏多は雑誌の取材、碧生はソロカバー曲のレコーディングに行っている。悠貴は出席日数が足りなくなりそうだからと大学へ行ったけれど、そろそろ戻ってくるはずだ。
「きつい?」
汗だくになって座っている瞬を気遣う。
「平気。これくらい練習やんないとファンに良いもの見せられないし」
立ち上がってタオルで汗を拭きながら、瞬は他にも何か言いたそうな目で俺を見た。
「どうかした?」
問うと瞬は、いや、と首を傾けた。
「なんか怖い顔してるなって。大知くん」
「え、俺?」
思わず眉間に指をやる。皺でも寄せていたかと思ったら笑われた。
「いや、何でもないわ。ライブに向けて気合い入ってんだよね」
トイレ行って来るわ、と瞬は練習室を出て行った。
額を撫でながら、ため息が溢れる。余計な事を考えまいとするあまり、つい練習に力が入り過ぎてしまった。
ペットボトルの蓋を捻り、乾いた喉を潤して一息つく。期待しても仕方ないと分かっていながら、結局確かめずにいられなくてスマホを手に取った。
数ある通知をいくら辿っても、本当に待っているただ一人の相手からは相変わらず返信が来ていない。
「お疲れー」
よく通る声に顔を上げると、レコーディングを終えたらしい碧生が戻って来ていた。
「お疲れ。早かったね」
スマホの画面を切り、荷物置きにしている長机に伏せて置く。
「まだ奏多とハル、来てないよ」
「瞬は?いないけど」
「トイレ行った」
「ふーん」
碧生は荷物を置くと、何故か俺のスマホをちらりと見た。
「誰かの連絡待ってる?」
「えっ」
いきなり言い当てられて驚く。
「あ、図星か」
「何で?すごいな碧生」
「スマホ見てる時の表情で分かった」
「そう?」
「がっかりしてたでしょ」
思わず碧生の顔を見る。すごーい、と冗談ぽく手を叩いておいた。
お疲れっす、と低い声が聞こえてくる。瞬が戻って来たらしい。お疲れ、と碧生が応じる。
もたれていた机から体を起こした。
「じゃ、練習しよっか」
「いいの、連絡」
碧生が聞いてくるので首を横に振った。
「どうせ、いくら待ってても一緒だから」
「また喧嘩?」
「また、って。喧嘩なんか一回もしてないよ」
「当てようか」
碧生の指が俺のスマホを指す。
「振られたんでしょ」
「……んー」
苦笑いを浮かべた。
「振られたんなら吹っ切るよ」
分かった、と碧生が手を叩く。
「告白したけど返事もらえない。どう?」
「……正解」
碧生が呆れたようにため息をつく。
「なら早く返事聞いて来なよ、振られたら吹っ切るんでしょ」
「冷たいなー」
「いや、本当にそうした方がいいって。気が散るから」
「奏多に怒られたばっかだし、ちゃんとやってるつもりだけど」
言い訳しながら、瞬に顔が怖いと指摘されたのを思い出した。
「……言わなきゃ良かったな」
ぽつりと零した一言に碧生が反応する。
「何?」
「いや、困らせちゃったかな、って」
天井を仰ぎ見る。
「でももう、我慢出来なかったんだよね……」
―次、いつ会える?
そう聞いてきた時の、眞白の寂しげな表情に胸が締め付けられた。
焦ってライブに誘ってしまって、泣き出しそうな顔をさせてしまった。
気づいたら、強引に物陰に引っ張って気持ちを伝えてしまった。
きっと、すごく困らせた。
「それでずっとそんな顔してんの」
「うん……」
「あのさ、大知くん……」
碧生の声のトーンが低くなる。
「俺らアイドルなんだよ。ファンのことを一番に考えられなきゃだめじゃない?」
痛いところを突かれる。
「俺ら何のためにこうやって集まって毎日練習してんの。応援してくれるファンの子たちの声援に応えたいからじゃん。喜ぶ笑顔が見たいからじゃん」
「……そうだね」
「そんな暗い顔して他の子のことばっか考えてるの、なんか違うと思うけど」
「うん……」
的確な指摘の数々に何も言い返せないでいると、レッスン室の扉が開いた。
「お待たせー」
大学の教科書が詰まってるのか、やたらと重そうなリュックを背負った悠貴が入ってきた。
「どうしたん、二人とも。そんな怖い顔して」
俺と碧生の顔を交互に見てくる。
「別にー」
碧生は俺を一瞥すると、ストレッチをしに鏡の近くに行ってしまった。
「何かあったん?」
リュックを降ろしながら悠貴が聞いてくる。
「何でもない……」
言いかけ、ふと思いつく。
「ハル、もしかして……眞白と一緒だった?」
聞くと、当たり前の様に頷かれた。
「おったよ。まだ大学におると思う」
「ほんとに?」
「うん。俺のノート写すからそのまま教室残るって」
「どこの」
教室の場所を聞く。上着を手に取った。
「ごめん、ちょっと行ってくる」
「えー大知くん、どこ行くの!」
気づいた千隼に呼び止められ振り向く。
「奏多が来る時間までには戻るから、みんな練習してて!」
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