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第十話 誰よりも大切な存在
scene41 沈思
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―眞白―
告白されたら、どれくらいで返事をしなければいけないんだろう……。
そんな事ばかり考えているうちに講義は終わっていたらしい。周りの席に座っていた学生達が、次々に教科書を片付けて教室から出て行く。
隣で一生懸命、板書を写していたハルもペンケースに筆記用具を片付け始めた。俺の手元のルーズリーフを見て、目を丸くする。
「(板書、追いつかなかったん?)」
聞かれ、講義のだいぶ前半で書くのをやめてしまっていた事に気がついた。
はい、とハルが差し出してくるので受け取り、几帳面な字の書かれたハルのノートを広げる。一応シャーペンを手に取るが、どうにもやる気が起きない。
ハルが目の前で、ひらひらと手を振るので顔を上げた。
「(クリスマスライブのチケット、要る?)」
リュックから取り出したチケットを出して見せてくれる。
「(もしかしたら大知くんに貰ったかなと思ったんやけど、一応持ってきた)」
「(要らない)」
「(あ、やっぱり貰った?)」
「(行かないから、要らない)」
「(何で?)」
「(何で、って……)」
返事に窮した。
「(どうせ、行っても何も分からんし)」
つい本音を零してしまってから、ハルの表情を見てはっとなった。
「(ごめん、行くわ)」
ハルの手からチケットを受け取る。
「(ハル、練習頑張っとるんやもんな。見に行かな)」
ハルが怪訝な表情を浮かべる。
「(もしかして大知くんと上手くいってへんの?)」
核心をつかれ、顔が強張るのを感じた。
これ以上勘付かれたくなくて、無理やり口元に笑みを浮かべる。
「(何もないで?旅行も楽しかったし)」
「(ほんまに?)」
「(うん、大丈夫やから。早よ行かな。練習あるんやろ)」
さっきハルに借りたノートを手に取って見せる。
「(これ貸して。このままここ残ってやってくわ)」
ハルは小さくため息をつくと、分かった、と自分の胸を軽く叩き、荷物をまとめて教室を出て行った。
ハルが行った後、気づけば教室には二、三人残っているだけになった。この後、別の講義で使う予定は無いはずだからゆっくりできる。
眼鏡を掛け直し、シャーペンをノックして芯を出す。数行書いて、手が止まってしまった。
講義の最中もずっと考えていた事が再び頭の中を回り始める。―告白の、返事。
頬杖をつき、虚空に視線を彷徨わせる。
そもそも、あれは告白だったんやろか?
俺の馬鹿な勘違いなんちゃうか。
大体、男同士だし。
旅行中に色々あり過ぎて俺の頭の中、お花畑になってたんや、きっと―。
あれこれと否定的に考えてみても本当は分かってる。あれは本気の告白だった。
だからこそ、どう返事をしたらいいか分からずにずっと考えてる。
目を伏せると、あの時の大知くんの真剣な表情をはっきり思い出せた。
……嬉しかったな。
あの時はびっくりして、混乱してしまって。
少し落ち着いてからまた鼓動が早まって、顔が火照って。
それから―少しずつ、冷静になった。
ハルから貰ったクリスマスライブのチケットを見る。随分大きな会場でやるらしい。それでもきっと、チケットは完売したに違いない。
大知くんにも誘われた。素直に、行く、とは言えなかった。
寂しくなるから。
目を瞑り、会場いっぱいに埋め尽くされるペンライトの光を想像する。俺の知らない歌を歌って、俺の知らないリズムに合わせて踊る大知くんを応援する、無数の光を。
その輝きの向こうに立つ大知くんは、俺にとってあまりにも眩しすぎる存在だった。
手を取るのが、怖かった。
告白されたら、どれくらいで返事をしなければいけないんだろう……。
そんな事ばかり考えているうちに講義は終わっていたらしい。周りの席に座っていた学生達が、次々に教科書を片付けて教室から出て行く。
隣で一生懸命、板書を写していたハルもペンケースに筆記用具を片付け始めた。俺の手元のルーズリーフを見て、目を丸くする。
「(板書、追いつかなかったん?)」
聞かれ、講義のだいぶ前半で書くのをやめてしまっていた事に気がついた。
はい、とハルが差し出してくるので受け取り、几帳面な字の書かれたハルのノートを広げる。一応シャーペンを手に取るが、どうにもやる気が起きない。
ハルが目の前で、ひらひらと手を振るので顔を上げた。
「(クリスマスライブのチケット、要る?)」
リュックから取り出したチケットを出して見せてくれる。
「(もしかしたら大知くんに貰ったかなと思ったんやけど、一応持ってきた)」
「(要らない)」
「(あ、やっぱり貰った?)」
「(行かないから、要らない)」
「(何で?)」
「(何で、って……)」
返事に窮した。
「(どうせ、行っても何も分からんし)」
つい本音を零してしまってから、ハルの表情を見てはっとなった。
「(ごめん、行くわ)」
ハルの手からチケットを受け取る。
「(ハル、練習頑張っとるんやもんな。見に行かな)」
ハルが怪訝な表情を浮かべる。
「(もしかして大知くんと上手くいってへんの?)」
核心をつかれ、顔が強張るのを感じた。
これ以上勘付かれたくなくて、無理やり口元に笑みを浮かべる。
「(何もないで?旅行も楽しかったし)」
「(ほんまに?)」
「(うん、大丈夫やから。早よ行かな。練習あるんやろ)」
さっきハルに借りたノートを手に取って見せる。
「(これ貸して。このままここ残ってやってくわ)」
ハルは小さくため息をつくと、分かった、と自分の胸を軽く叩き、荷物をまとめて教室を出て行った。
ハルが行った後、気づけば教室には二、三人残っているだけになった。この後、別の講義で使う予定は無いはずだからゆっくりできる。
眼鏡を掛け直し、シャーペンをノックして芯を出す。数行書いて、手が止まってしまった。
講義の最中もずっと考えていた事が再び頭の中を回り始める。―告白の、返事。
頬杖をつき、虚空に視線を彷徨わせる。
そもそも、あれは告白だったんやろか?
俺の馬鹿な勘違いなんちゃうか。
大体、男同士だし。
旅行中に色々あり過ぎて俺の頭の中、お花畑になってたんや、きっと―。
あれこれと否定的に考えてみても本当は分かってる。あれは本気の告白だった。
だからこそ、どう返事をしたらいいか分からずにずっと考えてる。
目を伏せると、あの時の大知くんの真剣な表情をはっきり思い出せた。
……嬉しかったな。
あの時はびっくりして、混乱してしまって。
少し落ち着いてからまた鼓動が早まって、顔が火照って。
それから―少しずつ、冷静になった。
ハルから貰ったクリスマスライブのチケットを見る。随分大きな会場でやるらしい。それでもきっと、チケットは完売したに違いない。
大知くんにも誘われた。素直に、行く、とは言えなかった。
寂しくなるから。
目を瞑り、会場いっぱいに埋め尽くされるペンライトの光を想像する。俺の知らない歌を歌って、俺の知らないリズムに合わせて踊る大知くんを応援する、無数の光を。
その輝きの向こうに立つ大知くんは、俺にとってあまりにも眩しすぎる存在だった。
手を取るのが、怖かった。
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