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第九話 たった一言に込める想い
scene37 寝顔
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-大知-
やって来た電車に乗り込み、二人掛けの席に並んで座る。他の乗客に顔を見られると面倒だと思い、窓側に俺が座った。
走り出した電車の景色が流れていくのをぼんやりと見つめる。
ちょん、と腕をつつかれたので眞白の方を見た。
「(今日、仕事、行く?)」
ゆっくり唇の動きもつけてくれるので理解できた。
行くよ、と手話で返す。
そっか、と眞白の唇が動いた。
「(頑張って)」
「(ありがとう)」
少し考えてから、ごめんね、と付け足した。
眞白は一瞬きょとん、としてから、微笑んで「(大丈夫)」と返してくれた。
それきり、会話が途切れた。
窓の外へ視線を戻す。東京に着くまでにはもう少しかかりそうだったけれど、いつまでもこうして眞白と並んで電車に揺られていたいなと思った。
左肩に何か触れる。見ると、知らない間に微睡んでいたらしく、眞白の小さい頭がもたれかかっている。
「……このまま、帰したくないな」
聞こえないと分かっていながら呟いた。
「ずっと眞白と一緒にいたい」
座席の上に落ちていた眞白の右手に、自分の左手をそっと重ねてみた。俺より、少し小さい。
「……好きだよ、眞白」
こっそり囁いてみる。小さな寝息が返ってきた。
―本当に言おうと思えば、何度でもタイミングはあったと思う。
だけど言えなかった。
困らせるんじゃないかとか。俺ばっかり、こんな気持ちで眞白を見てるんだとしたらどうしよう、とか。
いざとなると、どうしようもなく臆病な気持ちが顔を出す。
出発前の、悠貴とのやり取りを思い出した。
『―俺、眞白が好きだ』
思わずそう言った俺に、悠貴は意外にも優しい表情を見せた。
『―なら、眞白にそう伝えたって』
もう一つ教えとくわ、と手話の表現を教えてくれた。
たった一言に全ての想いを込めた、大切な言葉を。
眞白の寝顔を、そっと盗み見る。
安心し切ったような緩んだ表情を見ていたら、それだけで胸の奥が温かくなった気がした。
……ごめん、ハル。
せっかく教えてくれたけど、今日は言えそうにないや。
今回は楽しい思い出のまま、眞白の記憶に残りたい。
眞白のことを困らせたくない。
窓の外の景色は、だんだんと都会に近づいてきていた。
やって来た電車に乗り込み、二人掛けの席に並んで座る。他の乗客に顔を見られると面倒だと思い、窓側に俺が座った。
走り出した電車の景色が流れていくのをぼんやりと見つめる。
ちょん、と腕をつつかれたので眞白の方を見た。
「(今日、仕事、行く?)」
ゆっくり唇の動きもつけてくれるので理解できた。
行くよ、と手話で返す。
そっか、と眞白の唇が動いた。
「(頑張って)」
「(ありがとう)」
少し考えてから、ごめんね、と付け足した。
眞白は一瞬きょとん、としてから、微笑んで「(大丈夫)」と返してくれた。
それきり、会話が途切れた。
窓の外へ視線を戻す。東京に着くまでにはもう少しかかりそうだったけれど、いつまでもこうして眞白と並んで電車に揺られていたいなと思った。
左肩に何か触れる。見ると、知らない間に微睡んでいたらしく、眞白の小さい頭がもたれかかっている。
「……このまま、帰したくないな」
聞こえないと分かっていながら呟いた。
「ずっと眞白と一緒にいたい」
座席の上に落ちていた眞白の右手に、自分の左手をそっと重ねてみた。俺より、少し小さい。
「……好きだよ、眞白」
こっそり囁いてみる。小さな寝息が返ってきた。
―本当に言おうと思えば、何度でもタイミングはあったと思う。
だけど言えなかった。
困らせるんじゃないかとか。俺ばっかり、こんな気持ちで眞白を見てるんだとしたらどうしよう、とか。
いざとなると、どうしようもなく臆病な気持ちが顔を出す。
出発前の、悠貴とのやり取りを思い出した。
『―俺、眞白が好きだ』
思わずそう言った俺に、悠貴は意外にも優しい表情を見せた。
『―なら、眞白にそう伝えたって』
もう一つ教えとくわ、と手話の表現を教えてくれた。
たった一言に全ての想いを込めた、大切な言葉を。
眞白の寝顔を、そっと盗み見る。
安心し切ったような緩んだ表情を見ていたら、それだけで胸の奥が温かくなった気がした。
……ごめん、ハル。
せっかく教えてくれたけど、今日は言えそうにないや。
今回は楽しい思い出のまま、眞白の記憶に残りたい。
眞白のことを困らせたくない。
窓の外の景色は、だんだんと都会に近づいてきていた。
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